軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本音と本質

※マーガレット視点

焦れば焦るほど、全く上手くいかなくなったユリオス様とのダンス。

頭が混乱してきた私は、余計なことを口走る前に冷静になろうと、外の空気を吸いにテラスへ出た。

そうすれば、待ち構えていたように中年男性が立っていた。

「マーガレット。ヘンビット子爵から君が結婚したと聞いて驚いたよ。病気の妻は死んだから、もう何の懸念もないのに、酷いじゃないか」

誰だっけ。顔に覚えはあるけれど、名前が出てこない。

そう思った瞬間だ。

口を塞がれ、あっと言う間にどこかの部屋へ運ばれてしまった。

……嘘でしょう、ここはどこ?

何故、こんなことになっているのよ。

それにしても、随分と慣れた手つきで連れ去るわね。

なーんて、そんなことを感心している場合じゃないでしょう。

どう考えても、絶体絶命の大ピンチなんだから、現実逃避をしている場合じゃないわ。

呑気なことを考えていないで何とか逃げる道を探すのよ。

これまでだって、1人でいっぱい考えてやってきた私なら、できるはず。

そもそも、この方は誰よ。私の名前も知っていたし、病気の奥さんが亡くなったって……。

あーそうだ、思い出した。ウエラス伯爵様だわ。いつも私をテラスに誘う人だ。

でも、この方といると決まってユリオス様のご友人が、話に割り込んできて、この方に付いて行っては駄目だと教えてくれていたんだわ。

あー、もう、私の馬鹿、馬鹿。どうして会って直ぐに気付かなかったのよ。こんなんだから、リリーに馬鹿にされるのよ。

このあと、どうなっちゃうのよ!

……って。それくらい、いくら鈍い私でも寝台の上に置かれたままにされていれば、自分が何をされそうになっているかは分かる。

リリーのように美しくないけど、私だって一応は女だ。

いつかは好きな人と期待していたし、ユリオス様と、ちゃんとしたいと思っていたんだもの。

こんなことになるのなら、ユリオス様から逃げるようなこと、しなければ良かった。

要らない見栄を張って、どうして馬鹿なことをしていたんだろう。

「扉を見てても、ここには誰も来ないから、助けを待っても無駄だ。私が管理している、罪人の自供部屋だ。どんなに叫んでも外には声も聞こえない」

……そもそも。私はユリオス様に心配してもらえるか、自信がない。

手違いで結婚して、何となく好きになった私のために、ユリオス様がわざわざ動いてくれるだろうか。……いや、ダンス中に怒っていたユリオス様は、私がいないことにも、しばらく気付かないでしょう。

それよりも、こんなことがユリオス様に知られたら、もう一緒に帰れないわね。大事な後継者にかかわる問題だもの、本当に妻のままではいられない。

「私、踊った直後で喉がカラカラなんです。何かありませんか?」

****

※ユリオス・ブランドン視点

リリーの手を振り払った俺は、テラスへ続く窓から1歩外へ出た。

「怒ってないから、俺の傍から離れるな……」

慌てて、体の向きを変えながら四方隈なく見渡す。

「マーガレット……。い……ない」

彼女の姿が見えない。美しい水色のドレスを着て嬉しそうに頬笑んでいた妻の姿が、どこにも見当たらない。最高潮に高まった胸騒ぎ。俺の背中に冷たい汗が伝う。

無駄に広いテラスだが全面を見渡せる。死角はない。見落としているわけではない。

テラスに続く窓は1か所しかないはずだ。

そこから俺は目を離していないし、他に出入りしたやつもいない。それなのに、どこへ行った。

いつも、いつも俺の前からいなくなるマーガレットだが、匿う従者がいない王城で、見失うわけがない。……そうだろう。

いないのは分かりつつも、テラスの端まで来てみれば、唖然とした。遠目では気が付かなかったが、このテラス、外へ降りられる階段があるのか。

「マーガレット!」

庭に向かって叫んだところで返事は返ってこない。

マーガレットが1人で暗い庭へ降りたとは考え難いが、向かう先がここしかないなら、行くだけだ。

庭を走り回って探してみたが、マーガレットどころか人の気配が全くない。

警備の人間がいればとも思ったが、そういった配置もないのか。

所々に小さな灯りがある程度の庭に、1人で来るとは思えない。王城の中か……。

「どこにもいない──……」

外も王城の中も手当たり次第探したが、見つからない。

気まずくなって俺から逃げていると信じるには、もう無理がある。

……ずっと感じていた胸騒ぎ。

マーガレットが、良からぬことに巻き込まれた気がしてならず、焦燥感が募る。

ハッと思い出した一言。アンドリューだ。

あいつ、誰かがマーガレットを狙っていたと話をしていた。何か知っているはずだ。

アンドリューの姿を見つけると、全速力で駆けより、奴の両肩を掴み詰め寄った。

「アンドリュー! お前がさっき話していた、マーガレットを狙っていた奴は誰だっ!」

「ぼっ、僕じゃない、僕じゃない、落ち着けって。君の奥さんを以前から狙っていたのは、ウエラス伯爵だ。少女趣味なんだよ奴は。前に話しただろう。手垢の付いていない令嬢を付け狙って屋敷へ連れ込むって。特に君の奥さんのことは、周囲にいつも話していたから」

それを聞き、すぐに夜会の会場内を見渡したが、ウエラス伯爵の姿はどこにも見当たらない。

リリーは会場にいる。それなのに、婚約者のあいつがいないってことは、間違いないな。

これだけ噂になっているのに捕まらないのは、ウエラス伯爵の権力を恐れて、今まで多くの令嬢たちが泣き寝入りしてきたのか。

「もっ、もし城の中でいなくなったなら、お、恐らく奴が使っている部屋だろう。たっ、頼むから肩を離してくれませんか、ユリオス」

「その部屋は、どこにある。早く教えろ」

「ち、地下だ。テラスを降りると脇に隠れた階段がある。そこを降りたら一番奥だ。でも、鍵は奴しか持ってないはずだ。これ以上は僕も知らないから、肩を……」

再びテラスへ視線を向けると、視界を遮るように陛下が立っていた。

「ブランドン辺境伯、妃に君の奥さんを紹介しようと思ったけど。ゲッ、そんな怖い顔をしてどうした、何かあったのか?」

「王城の警備が手薄なせいで、俺の妻がウエラス伯爵に連れ去られた。どうしてくれるんだっ!」

「警備は万全なはずだ。……いや、万が一ということもあるな。もし伯爵の元へ向かうなら城の兵を使って――」

「馬鹿を言うな! 俺がすることは妻を助けることで、奴を捕まえることではない。兵を仕切って捕まえるのは、そちらの仕事だ。妻の妹のリリーも、この件に関係しているはずだから捕まえておけっ」

くそっ。だからリリーは俺を引き留めたのか。もしかして、リリーが首謀者かもしれないな。

リリーのことだ、マーガレットがテラスへ行くと分かって、ウエラス伯爵に入れ知恵をしたんだろう。

マーガレットの妹だと思って大目に見ていたが、もう許せん!

さっき、テラスを降りたときに気付いていれば……。マーガレットがいなくなってから、時間が経っているが、まだ間に合うだろうか。