軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十三話

私以外の人間を消すというのは比喩ではない。

ユリウスから発せられる魔力の波動はそれほど強く、不気味でした……。

大量に発生した低級悪魔たちは魔力を有する聖女たちに群がり、どこかに連れさろうと掴みかかります。

「シルバー・ジャッジメント!」

ミアが放つのは幾重もの銀十字のナイフを飛ばす破邪魔法。

魔法というものにも様々な種類がありまして、私たち聖女は魔物に対して絶大な効果を誇る光属性の魔法を得意とします。

他にも地水火風に加えて闇の属性の魔法もあるのですが、あまり必要性を感じたことがないので私もほとんど使っていません。

ミアのシルバージャッジメントは低級悪魔たちに効果は抜群で、低級悪魔たちを次々と倒します。

先ほど、低級悪魔の探知方法を共有したことが早くも活きましたね。彼女も目に魔力を集中して、きちんと悪魔たちを補足しています。

「退魔術―― 喰魔鴉(くうまがらす) !」

アリスさんが使うのはエルザさんと同じく退魔術。

一枚のお札を懐から出したかと思うと、そこから銀色の光に包まれた鴉が飛び出しました。

その鴉はなんと、悪魔をモグモグと食べています。このようなタイプの魔法は古代魔術について記されている古文書にも載っていません。

退魔術とは私たちが知る魔法と違う方向に進化した術なのかもしれません。

「まったく、僕は静かな場所で君と二人きりになりたいだけなのに。うざったいな、退魔師も聖女も……! 弱いくせにいつも僕の邪魔をする」

「「――っ!?」」

パチンと指を鳴らすユリウス。

すると、さらに低級悪魔たちが黒色の煙と共にドンドン現れます。

部屋の中は一瞬で悪魔に埋め尽くされそうになりました。

「元凶のあなたに退場してもらうのが、この状況を好転させる近道みたいですね」

「じゃあ、僕の世界に来るといい。今のままでも君は美しいが、君の魂にピッタリの器を用意したんだ」

ユリウスは私に向かって手を差し伸べます。

彼のいる世界とやらがどこなのか分かりませんが、私がパルナコルタ王都から離れてしまうと大破邪魔法陣が解けてしまいますので、捕まるわけにはいきません。

魔法陣の消失はすなわち、大量の魔物の復活を意味しますから、大陸中がパニックになってしまうでしょう。

「聡明な君なら分かっているんだろう? フィリア、君は人間の中では大きな魔力を持っているが、それでも僕の1パーセントにも満たない。僕は傷付いて欲しくないんだよ。きれいな体のまま連れて帰りたい。だから――」

「…………」

「無駄な抵抗はしてくれるなよ――」

ユリウスの言うとおり私の魔力では正攻法で彼を傷付けることは無理です。

ミアの魔法が通じなかったことからもそれは明白です。

慈しむように手を差し出すユリウス。このままだと私は――。

「呆けてる場合じゃないわよ。さっさと逃げなさい!」

「――っ!? ぐっ……、退魔師か……!」

私の方に差し出された手は赤いファルシオンによって分断されました。

ヒュンヒュンと刃を振りながら私の前に立つのはエルザさん。私の心強い護衛の一人です。

「やめてくれー! オレは悪魔だけど敵じゃないってば! 見た目は怪しいけど、お前ら人間の味方なんだってばーーーっ!」

「おのれ! 悪魔め!」

「よくも、王宮を破壊したな!」

「フィリア様たちには触れさせん!」

さらにマモンさんが兵士たちに追われながらこちらにやってきます。

フードで隠していた青白い顔が顕になっていますから、不審者だと思われたみたいです。

「貴様は退魔師の使い魔に成り下がった同胞、マモン……!」

「あらら、あんたはアスモデウスの旦那ですかい? 随分と男前になりましたねぇ」

ユリウスはマモンのことを知っていました。

彼は悪魔の世界では名の知れた方なのでしょうか。

マモンはニヤリと笑いながら軽口を叩いています。どうやら彼の魔力を感じても恐れはないみたいです。

「姐さん、チャンスですぜ。アスモデウスの旦那。ヒョロヒョロの弱っちい人間に憑依していやがるから、全然本調子じゃない。倒すなら今が千載一遇のチャンス……」

「ええ、どうやらそうみたいね」

エルザがヒュンヒュンと振っていたファルシオンを鞘に収めると、「ギィギィ」と断末魔を響かせながら、次々と低級悪魔たちは消え去ってしまいました。

やはり、悪魔退治を専門でずっとやってきたというエルザさんは聖女と比べて戦闘については一日の長があるみたいです。

「エルザ先輩、付近の人たちを避難させました! あとはこの部屋だけです!」

「よろしい。クラウス、アリス、援護して。ここからは退魔師の戦い……! 大聖女さん、あなたたちは、ここから離脱しなさい」

エルザはクラウスとアリスを近くに呼んで、私たちにここから立ち去るように命令しました。

彼女らに任せるにしても、ユリウスの魔力は並ではありません。

本調子じゃないというのなら、尚のこと危険。

私としては見過ごすことが――。

「待ちなさい! 退魔師の戦いだか、なんだか分かりませんが……! ここで尻尾を巻いて逃げればマーティラス家の名折れ! このエミリー・マーティラス、悪魔の親玉さんとの戦い、助太刀させてもらいますわ」

「お姉様の言うとおりです。わたくしも戦います!」

「姉さんはやらせない。今度は私が守る番なんだから!」

エミリーさんにグレイスさん、それに加えてミアまでも私を守るように立って、魔力を両手に集中させます。

皆様が私を守ろうとしてくださっている……。

以前なら申し訳ない……という感情が先だったかもしれません。

でも、今はそれがたまらなく嬉しく感じます。

そして、誰一人として犠牲を出したくないです。――たとえ、どんなことをしようとも。

「うるさいなぁ。僕とフィリアの空間に入って来るなよ……!」

「「「――っ!?」」」

ま、魔力が更に倍に!? い、いえ、それ以上に膨れ上がって――!?

私たちが異常な程の魔力の上昇を感知するのと同時に、王宮は大爆発を起こして半壊してしまいました――。