軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十八話

その日の夜……私は悪魔に関する記述がある文献を読み漁りました。

曰く人語を話し、強力な魔法が使え、生命力が強く……人間よりも遥かに寿命が長い種族とのことです。

もしも、そのような者たちが神隠し事件の犯人なら――私たち人間が気付かぬうちにことに及ぶことも可能かもしれません……。人智を超えた能力を持っていても不思議ではないからです。

しかし、そうなると悪魔には破邪魔法陣の効果が薄いと見なくてはいけません。

大陸全土を覆う魔法陣は魔物の力をほとんど無力化しています。時々、力の強い魔物は動けたりしますが、駆除するのにそれほど労力はかかりません。

人間一人を誰にも気付かれずに消す程の力は到底残らないのです。

そのとき……何者かがこの部屋に入って来ました――。

私は思わず身構えます。

「フィリア様……」

「ヒマリさんですか。珍しいですね。私の寝室に来られるなんて……」

「フィリア様、緊急事態です。何があったのか分かりませんが……外で見張りをしているフィリップたちが倒れました」

フィリップたちが倒れた? パルナコルタ騎士団は精鋭中の精鋭です。

特にフィリップは世界一の槍の使い手で、その実力は大陸を超えて有名なほど。

簡単に倒されるとは思えません……。

この状況から考えられるのは――。

「ヒマリさん、私から離れない様にしてください。リーナさんとレオナルドさんを呼びにいきます」

「しかし、ここは逃げた方が――」

「相手がワザとフィリップさんが倒れたことを見せつけた可能性があります。外に出るほうが危険です。こちらで迎え撃ちます」

「……フィリア様を見誤っていました。そのような顔もされるのですね」

どんな顔をしていたのか分かりませんが、私は自分を守ったが為に倒れた方がいるという事実が許せませんでした。

フィリップ、騎士団の皆さん、どうかご無事で――。

部屋を出て、リーナとレオナルドと共に玄関の扉の前に構えて立ちます。もしかしたら、窓から侵入するかもしれませんので、そちらも警戒しながら、神経を研ぎ澄ませました。

「あ、足音が聞こえますよ。フィリア様……」

「お静かに……、そして何が起きても冷静さを失ってはなりません……」

怖がるリーナに静かに言葉を告げて、私は足音から速度を計算して、そのときが来るのを待ちました――。

「――へぇ、フィリアちゃんって結構可愛いじゃん。大聖女っていうだけあって、美味そうな魔力をもってんのな」

扉をすり抜けて出てきたのは、真っ白な肌に虚ろな目をした男性でした。

ランプの灯りに照らされて見えた彼の表情は、口は笑っているのに目は無表情という何とも不気味な風貌です。

この方は何者……? しかし、考えても意味がありません。状況からフィリップを倒したのは明確でした。

迂闊に近付くのは危険――。

「フィリア様に手出しはさせない……」

「お引き取り願いますぞ――!」

その瞬間――ヒマリとレオナルドが飛び出しました。

いけません。フィリップたちを倒した方法も分からないのに手を出すのはまずいです――。

「……ちょっくら、寝てな。僕ァ、そこにいる美人さんにしか興味がないんでねぇ」

侵入者は指から青白い光を二人に向かって照射しました。

ヒマリとレオナルドは力なくその場に倒れます。あの光は――。

「ひ、ヒマリさんもレオナルドさんも、一瞬で……」

「大丈夫。二人は無事ですよ。眠っているだけです」

「ほう……」

フィリップたちがあっさりと倒れたという話を聞いて、私はある程度の予測を立てていました。

相手は魔術師であり、睡眠や麻痺など行動の自由を奪う術式を展開したのでは、と――。

「さっすが、大聖女というだけあって冷静じゃない。普通は護衛がやられたら、取り乱すもんだけどねぇ……」

「……目的は何ですか? もしや、あなたが神隠し事件の犯人……」

「そりゃあ、どーだろう? フィリアちゃんがデートしてくれたら、答えてやってもいいぜぇ。――さて、と。そっちの小さいお嬢ちゃんにも眠って貰おうかね」

「そうですか……」

今度はリーナに向けて侵入者は人差し指を向けようとします。

しかし、彼の腕が上がることはありませんでした。彼も自分の異変に気付いたみたいです。

「うっ……、どうして身体が動かない?」

「 聖光の鎖(セント・バインド) ……。ミアには劣りますが、私も術式の起動スピードには自信があります。それだけに、慎重に出方を伺い……ヒマリさんとレオナルドさんがあなたの毒牙にかかってしまったのは迂闊でした……」

「い、いつの間に……。光の鎖が身体中に……」

私は巨竜をも拘束する光の鎖で侵入者を縛り、動きを封じることに成功しました。

未知の相手に警戒しすぎて、初動が遅れたことは痛恨の極みです。彼の使った術式に殺傷能力が無かったから良かったものの……。

「……たはは、やっぱ強い女ってのは唆るよなァ。あの方が欲しがるわけだ」

「あなたは何者ですか?」

私は十全に注意を払い、彼に質問をしました。魔力の波動も歪……、凡そ人間のモノとは思えない……。魔物のモノとも違います。

つまり、そこから導かれる答えは――。

「――悪魔よ。察しはついているんでしょ?」

「げぎゃッ――」

目の前で吹き飛んだのは……男の首から上……。

目の前に現れたのは――刃が真っ赤な 鎌形刀剣(ファルシオン) を片手に携えた金髪の少女……。

この日、私は初めて退魔師という存在を目にしました――。