軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十三話

「ライハルト殿下もエリザベスさんのお墓を――?」

まさか、ここで第一王子であるライハルト殿下と会うことになるとは思いませんでした。

しかも供えられた花はまだ新しい――ということは彼は頻繁にこちらに来ているということになります。

ライハルト殿下は先代聖女であるエリザベスとただならぬ関係だったということでしょうか……。

「ええ、そうです。彼女は私の婚約者でしたから」

「そ、そうでしたか……」

「あの方がリズ姉様の婚約者だった、ライハルト殿下……」

殿下はいつもよりも低い声でエリザベスが元婚約者だったと仰せになりました。

彼女は聖女でした。ということは、前に私に求婚されたのは、文字通りエリザベスの代わりになって欲しいという意味だったのでしょうか……。

「彼女が好きだったのですよ。この黄色のフリージアの花がね。私はもっと良いものをプレゼントしたかったのですが……この花の香りが私にも似合うと言われましてね。あのときは返答に困ってしまいました」

新しい花束を供えながらライハルトはエリザベスとの思い出を語ります。

彼は私と同様にどこか人付き合いするにあたって、大きな壁があるような感じの方でしたが、このときの台詞からは素直な愛情を感じました。

「だからというわけじゃないのですが……。フィリアさんにこの花を贈った理由は……。ただ、私もいつの間にか、この花を愛するようになってましたから、それを知って欲しかっただけなのです」

「…………」

私は何も答えられませんでした。先日のいきなりの求婚自体飲み込めていなかったので、ライハルト殿下の心の内がまったく読めないからです。

聖女などと持て囃されても、人一人の想いすら感じ取れないとは……何とも滑稽な話かもしれません。

「グレイスさん、こちらに来て不自由はされてませんか?」

「お心遣い痛み入りますわ。殿下……。フィリア様たちには、とても良くしてもらっておりますので、不満などございません」

「それは良かったです。フィリアさん程の聖女は世界中を探しても他に居ないでしょうから、学べるだけ学んで――ボルメルン王国の繁栄に役立てて下さい」

慈しむような表情でグレイスに視線を送るライハルト殿下。

彼女を最初にご覧になったとき、「リズ」とエリザベスの愛称を呟かれていました。きっと彼女に元婚約者の面影を重ねていたのでしょう。

彼は寂しいのかもしれません。オスヴァルト殿下は兄である彼を国のために全てを殉じる覚悟のある人だと仰っていましたが、それもすべては寂しさを誤魔化す為にそう見せているようにも見えてきました。

その後、数分間だけ雑談をした私たちは丁寧に挨拶をして屋敷に戻りました。

そして、グレイスに夜の課題を与えて一日を終えます。彼女は素直で気遣いの出来る良い子です。きっとミアが居れば良い友人になってくれたでしょう……。

◆ ◆ ◆

翌日もまた、朝からグレイスの修練に私は付き合いました。

術式発動の特訓をしている彼女を見ていると自分の修行時代を思い出します。

私を高く評価して師匠の代わりを務めてくれたのはジルトニアの先代聖女であるヒルデガルト・アデナウアー……つまり私の伯母にあたる人物でした。

ヒルダ伯母様は厳しい方でしたが、目標を達成したときは必ず褒めてくださいました。そして、私を叱咤するのは両親からのスパルタを跳ね返せるくらいの力を身に着けさせる為だとも仰ってました。

『ごめんね。フィリア……。あなたは悪くない。ただ、私はあなたの両親と昔から折り合いが悪くてねぇ。若いときの私と瓜二つのあなたも憎くて仕方なくなったんだろう』

あの日、酔っていた伯母はそんなことを私に話した。

そういえば、両親よりも伯母のほうが私に近い顔立ちをしています。ミアは母親に似て美人なのですが……。

両親にとっては可愛げのない性格に加えて憎んでいる人に瓜二つの私。

これで愛されるのは無理があるかもしれません。

だから、正直に言ってみると最近になって私は国を離れて良かったとすら思えているのです。

グレイスの頑張りを見ながらそんな物思いに耽っていますと、王家の馬車が門の前に止まりました。あの方は……オスヴァルト殿下ですね。

「おっ! やってるな。古代術式とやらの訓練ってヤツだろ?」

オスヴァルト殿下はいつものように明るい声で私に話しかけます。手に持っているのは王都で有名な菓子屋のケーキの箱ですね……。

メイドのリーナがニコニコしながらそれを受け取っていました。

「はい。グレイスさんは素直でいい子ですから、上達が早くて教え甲斐があります」

「そっか、そっか。だけど、俺は先生が良いに一票だ。フィリア殿は気付いてねぇかもしれないが、教えるのが上手い。俺も肥料のこととか色々と教わったし」

「お上手ですね。殿下……。でも、お褒めに与れて光栄です」

オスヴァルト殿下は会うたびに私にお世辞を仰せになります。

知っていることをただ伝えているだけで教え上手だなんて……でも嬉しいです。

しかし、朝から来られるのは珍しいですね……。何かあったのでしょうか……。

「あのな。言い難いんだけどよぉ。ジルトニア王国のユリウス王子がさ……、聖女フィリアの返還を求めてきてるんだ……」

――背筋が凍るように冷たくなりました。

まさか、ユリウス殿下が私を取り戻そうとするなんて……。一体、どんな意図があってのことなのでしょう……。心のざわめきが治まらなくなりました――。