軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話(ミア視点)

「う、う、うぴゃあああっ! 早う! 早う! こっちだ! こっちを早く!」

ユリウス殿下の悲鳴にも似たような声がまたもや響き渡る。

あの男、本当に自信満々の表情で聖女が結界を張る現場にノコノコと現れて高みの見物を決めようとしていた。

最近はフィリア姉さんの言ってた魔界の接近とやらの影響が色濃く出ており、魔物の集団が一斉に飛び出すなんてことはザラにある。

ユリウス殿下は自らの護衛を沢山引き連れて、ふんぞり返っていたが、恐ろしい魔物たちが唸り声を上げて集団で襲いかかる様子を生で見るのはショックが大きかったようだ。

腰を抜かして、涙目になって早く魔物たちを殲滅しろと護衛の兵士たちに無茶を言う。

「ぼ、ぼ、ぼ、僕はちょっと腹が痛くなってきた……、そ、そろそろ帰らせてもらうとしよう……」

何と現場に来てから十分と経たないうちにユリウス殿下は青ざめた表情で私にそんなことを言ってきた……。

さっきまで、ジルトニアで一番安全なのはとか、偉そうなことを言ってたのに……。

「あら、殿下……お帰りになられるのですか? ご覧のとおり、私の力が及ばないせいで危険な状況が続いております。ご理解頂けましたでしょうか?」

とりあえず私はビビりまくっていた殿下に現場の戦力が足りないことを強調して伝える。

この男が状況を見誤ったせいで国が倒れるなんて、納得出来ない。

「き、き、危険? そんなことはない。君も我がジルトニアの精鋭たちはよくやってる。ミア、僕はビビっている訳じゃないぞ。本当に腹が痛くて、早く帰りたいだけなのだ」

精一杯の虚勢を張って、殿下は頑なに自分の非を認めない。

やっぱり、この人がトップじゃダメね。いっそのこと、魔物に殺されでもしてもらった方が国に一番貢献できるんじゃないかしら……。

それに早く帰りたい、と言ってるけど――。

「殿下、魔物たちに囲まれているこの状況を打破できるまで、帰れませんよ……」

「へっ……? ひ、ひぃぃぃぃ! いつの間に……!」

この場が魔物に囲まれていることを私は彼に伝える。ユリウス殿下は甲高い耳障りな叫び声を上げながら、腰を抜かしてヘナヘナと座り込む。

まずいわね……。もう遅いかもしれない。

結界が破られそうで、ヤバそうなポイントから攻めているけど、それも追いつかなくなってきた。

フィリア姉さんみたいに徹夜で動いても術の精度が落ちないなら何とかなるかもしれないけど、私はそんなことは出来ない。

早くて今日、遅くても三日以内に――この国の守りは決壊する――。

だから、兵力が必要なのだ。結界が破られて大量の魔物が出てきても、私が駆けつけるまで抑えてもらえるような戦力が……。

「もう間もなくすれば、私がいない状況で、国の各地でこんな状況が繰り広げられるでしょう。殿下、想像してください。このまま行けば、王都ですら安全ではなくなります」

「ぐっ……、女が僕に意見するでない。どうせフィリアの真似事なのだろう? ミア、君はそんなことはせずとも笑っておれば良い。それが希望となるのだから」

ここまで、懇切丁寧に説明しても殿下はお得意の「女の意見は聞きたくない」と意固地になる。何でこんなにわからず屋なのだろう……。

「それとも、君もフィリアみたいに僕に恥をかかせたいのか?」

「姉のように恥を……?」

「い、いや、何でもない……」

さらに彼はフィリア姉さんの名前を出して、恥がどうとか言い出す。

姉さんと過去に何があったって言うのよ……? 前々から思ってたけど、この人ってフィリア姉さんにコンプレックスを感じてるように見えるのよね……。

「「グルルルルッ――!」」

そんな話をする中で、ワーウルフの群がこちらに向かって勢いよく駆けてきた。

仕方ない、結界を張りなおす時間がまた遅くなるけど――私が術式を発動させて始末するしか……。

「ぎゃああああっ! 殺されるぅぅぅぅ!!」

「キャッ! で、殿下!?」

私が身構えようとすると、ユリウス殿下は私の背中をドンと突いて魔物の方に押し出そうとする。

ちょっと、危ないじゃない。女がどうこう言ってる割には全然男らしくないんだから。

私は素早く攻撃術式を発動させて魔物の群を一掃した。しかし、ユリウス殿下は蹲ってガタガタ震えだす。そして、信じられないことを口にした。

「そ、そうだ。これも全て国を捨てて居なくなったフィリアのせいだ。あいつを呼び戻そう。そして、責任を取らせて全ての魔物を掃討させるのだ。ウヒヒ」

何言ってるの? この人……。姉さんはあなたが売ったから居ないんじゃない。

魔物を間近で見てビビらせれば、ショックを受けて多少は腐った性根がどうにかなると思ったけど……まさかの発想をするのね……。

「あいつを売ろうと躍起になった、アデナウアー侯爵に金を出させるとするか。そうだ、あいつが悪い。フィリアがいい金になると、喜んでいたからな……」

さらに父がフィリア姉さんを売ることに大変乗り気だったことまで口を滑らせる。

やはり、父も加担していたか……。もしやとは思ってたけど、信じていたかった……。

フィリア姉さん、ごめんなさい。私、何も気付いてなくって……。大丈夫、私がこの国を守るよ……。

そして――。

なんとしてでも、この人たちには報いを受けてもらうようにするからね――。姉さん……。