軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話

「……ふぅ、どうしましょうか」

妹であり、ジルトニアに残ったただ一人の聖女であるミアに送った手紙。

それには近い将来に起こりうる最悪の事態についての記述をしています。そして、その事態に対しての可能な限りの対処方法も……。

しかし、ミアから届いた手紙からわかった事実といえば彼女が私からの手紙を読んでいないことでした。

彼女はここ最近の魔物たちの活動から違和感を感じ取り、私ならその原因が分かっていると確信していたみたいです。

そして、私は必ずそれについての手紙を彼女に送るはずだから自分に連絡が来ていないことがおかしいと思ったとのことでした。

我が妹ながら、その勘の良さには尊敬すら覚えます。よくもまぁ、小さな違和感から自分に手紙が来ていないことが変だと思い、こちらに連絡をしようと思いたったものです。

とにかく父か母、あるいは二人ともが私からの手紙を握り潰しているのは紛れもない事実。

理由は分かりませんが、おそらく私がミアに連絡を取ろうとしていることを嫌がっているのでしょう。

つまりもう一度手紙を送っても無駄になる可能性が高いです。

私の予測では魔界が最も地上に繋がるまで、もう時間がない。だから、のんびりしている暇はありません。

早く、ミアに確実に手紙を届ける方法を考えませんと――。

「フィリア様、何かお困りごとですかな? 私でよろしければ、相談に乗りますぞ」

迂闊にも独り言がもれてしまったみたいで、それを聞いて心配したレオナルドが私に話しかけてきました。

妹に手紙が届かないことを話しても良いものかと迷いましたが、私だけでは妙案が思いつくアテもありませんので、彼に話してみることにします。

思えば、何か悩みを相談するなんてことをしたのは初めてかもしれません。

側にいたリーナも同様に話を聞いてくれることになりました。

「ふむ。妹君のミア様への手紙がなぜか握りつぶされてしまうというわけですか」

「理由が分からないのは怖いですが、それを探る時間もないということですね~~」

レオナルドとリーナは話を聞くと、少しだけ黙って思考を張り巡らせます。

そして、最初に口を開いたのはリーナでした。

「ねぇ、レオナルドさん。ヒマリさんなら、確実にお手紙をミア様にお届け出来るんじゃないですか?」

「私もそれを考えていました。彼女ほどこの仕事に適した人材はいないかもしれませんな」

二人の口から出た「ヒマリ」という方は、屋敷に務めているメイドの一人です。

変わった名前でしたので、不思議に思っていたのですが、リーナによると小さな島国である『ムラサメ王国』出身なのだとか。

背は低く黒髪をポニーテールにしている方で、寡黙な印象の人でした。

「ヒマリさんにジルトニアまで手紙を持って行かせるという事ですか? それが何故、確実な方法だと?」

まさかメイドに郵便物を運ばせる案が出るなんて思いませんでした。

ミアは聖女です。おそらく、護衛の人間は私が向こうにいた時よりも多くなっているはずです。

そんな状況で、他国の人間が彼女に軽々に近付くなど不可能だと思うのですが……。もし見つかって捕まりでもしたら、国際問題にも成りかねませんし……。

「大丈夫ですよ、フィリア様ぁ。ヒマリさんは“忍者”ですから。簡単に捕まりません」

突如、リーナの口から飛び出した“忍者”というワード。

に、忍者というのは確か――ムラサメ王国にいたという隠密や諜報に長けた集団のことでしたっけ……。歴史文献の知識しかありませんが、確かそうだったはずです。

「リーナの言うとおり、ヒマリの腕は確かですぞ。私やリーナ同様にパルナコルタ王室から直接、フィリア様の護衛を命じられた内の一人ですからな」

「ご、護衛ですか? でも、ヒマリさんはお二人と違ってほとんど近くには――」

レオナルドが言うにはヒマリもまた私の護衛役みたいなのですが、近くにいる頻度はそう多くありません。

これはどういうことなのでしょう……。

「ヒマリさ~~ん。フィリア様がお呼びですよ」

リーナがそう声を出した瞬間……、目の前の壁の中からいきなりヒマリが現れました。

えっ……? いつから、そこに居たのですか……。

「ヒマリ、話は聞いていましたね。フィリア様の手紙を妹君であるミア様に届けることは出来そうですか?」

「無論です。フウマ 一族(いちぞく) の名に懸けて果たして見せます。我が主君――フィリア様。遠慮なくこの私に命じて下さい」

ヒマリは私の前で片膝をついて恭しく頭を下げます。

レオナルドによると彼女はずっと私の側に居たみたいなのです。それこそ、聖女としての仕事をしている最中も含めて全部。

これでも私は気配を察知する能力は鍛えています。魔物たちに襲われることも少なくありませんから。

そんな私がまったく彼女の存在を認識出来なかった――。

どうやら彼女は自分の気配を完全に断つ術をマスターしているらしいのです。

「では、ヒマリさん。妹のミアに手紙を渡してきてもらえますか? くれぐれも無理をせずに、見つかりそうになれば遠慮なく逃げても構いませんので」

「御意――この命を賭して、主君からの密書……確実にお届けしましょう」

手紙を彼女に受け渡した、その瞬間――ヒマリはパッと姿を消して部屋からいなくなってしまいました。

他国の者が聖女に近付くのは危険ですが、時は一刻を争います。どうか、ヒマリがミアに接触出来ますように――。

私は神に祈りを捧げながら、彼女らの身を案じました――。