軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百話

「ふむ。犬に吠えられて転ぶ。一万リルド払う、か。今日は運が悪いな」

「次は私がサイコロを振る番ですね。……三ですね」

“神の術式”の練習を終えた私はオスヴァルト殿下たちとボードゲームを楽しんでいます。

サイコロの出た目を確認して私は自分の分身である馬車を移動させました。

「転職ですか。私、コックさんに転職しました……」

「どうしたんだ? 浮かない顔をして」

「いえ、私がコックさんになったらお店が潰れてしまいそうだな、と」

ゲームですから現実とはかけ離れた職業になるのが醍醐味で楽しいのは理解出来ますが、よりによって一番苦手な職業になるとは。

料理を作る職業以外なら何とかなりそうだと考えていたんですよね……。

「そんなことはありませ~ん。フィリア様ならコックさんになったらなったで何とかします~。この前はクッキー丸焦げにしなかったじゃないですか~」

「ですが、生焼けでした」

「大きく前進はしています~」

前進しているのでしょうか。めげずにチャレンジというより、リーナさんが何かに燃えてしまわれてコーチしてくださるのですが、一向に上達しなくて情けなく思っています。

彼女の頑張りに報いるためにいつかまともに調理が出来るようになりたいです。

「でも、フィリア様はともかくとして~。オスヴァルト殿下は羊飼いって何となくイメージ出来ます~」

「そうだろ? 何か俺もしっくりくるなーって思っているんだよ」

「葉っぱ咥えてそうですよね~」

羊飼いの職業についてボードゲームを進行しているオスヴァルト殿下。

私も何故か違和感なく受け入れられていますね。体格が良くて、農業で野外に出ている時間が長いからでしょうか。

「じゃあ、次は――」

「フィリア様、お客様がいらっしゃいました」

「あ、はい。エルザさんですかね……?」

「フィリア姉さん!」

「ミア!?」

驚きました。わざわざジルトニア王国からミアが駆けつけて来るとは思いませんでしたから。

レオナルドさんの後ろからこちらに駆け寄る彼女は私の両手を握りしめて可愛らしい笑顔を見せます。

まさか私の心配してきてくれたのでしょうか。

「姉さん、水臭いじゃない。なんで私に相談しなかったのよ? 姉さんが教皇になるって話を聞いて……。私、すっごく心配したんだから」

「やはり私の心配を?」

「当たり前でしょう! 姉さんがパルナコルタでずっとオスヴァルト殿下と幸せに暮らしたいって思っているのは知っているもん!」

「…………」

ええーっと、待ってください。すごく恥ずかしいセリフをオスヴァルト殿下の前で言っていませんか、この子……。

もちろん、ミアの言うとおりなんですけど、妹に気持ちを代弁されると非常に照れくさく感じてしまいます。

「み、ミア。とにかく嬉しいわ。よく来てくれたわね」

「だから当然よ。姉さんは私が一番苦しいときに来てくれたんだから。今度は私が姉さんを助けるの」

「ありがとう。でも、ここにいるのは誰から聞いたの?」

ジルトニアにいるミアは私がダルバート王国に既に来ているという話を何故知っているのでしょう。

いらぬ心配をさせないように黙っていましたし、気になります。

「ライハルト殿下に聞いたのよ。二人を助けてほしいって」

「あ、兄上が!? それは本当か!?」

オスヴァルト殿下はミアの言葉に驚いて立ち上がりました。

まさかライハルト殿下がミアに助力をお願いするとは思いませんでした。なんせライハルト殿下は私たちがヘンリー大司教を追い詰めるなど許さないというスタンスでしたから。

ミアを応援に向かわせるということは、殿下はきっと……。

「フィリア姉さん、フェルナンド殿下もジルトニアが不当に扱われたとしても、姉さんの味方になるって言ってくれたわ。ライハルト殿下も姉さんの味方。だから安心して欲しいの」

「フェルナンド殿下までそんなことを?」

「フェルナンド殿下は自分がしっかりしていたら姉さんを理不尽な目に遭わせなかったって悔いてるのよ」

ジルトニア第一王子のフェルナンド殿下とは一度しか面識はありません。

ユリウスの婚約者となった私が挨拶に赴いた一度きり。彼は私に心を開いてくれませんでした。

そんな彼の心を開いて、国の復興に誰よりも真剣に取り組むほどまで立ち直らせたミアには、私にはない力があるのは確実です。

彼女の魅力は姉として誇らしいと思います。それにそんな誰にもに愛されるこの子は国の第二王子と生みの親を牢獄にまで追い詰める胆力まで持ち合わせていました。

「ミア、あなたは強い子だし、味方になってくれてとても心強い。だけど、ジルトニアに迷惑はかけられない」

「姉さん! 何を言っているの!?」

「あなたはジルトニアを危険に晒してはダメなの。今回は私が強さを見せなくてはならないから。気持ちは本当に嬉しいけど、大丈夫よ」

今回はミアではなく私の戦いです。この子を巻き込んでしまう訳にはいきません。

私にミアの半分だけでも勇敢さがあればきっと解決出来るはず。強くなるしかないのです。

「フィリア姉さんのバカ!」

「――っ!?」

「私は姉さんに頼ってほしいの! 姉さんだって、怒られるの覚悟で私を助けに来てくれたじゃない! 妹として姉を助けるのに理屈なんて要らないわ! 私はどうやったって姉さんのこと助けたいんだから!」

ミアが来てくれて嬉しかった。元気な顔を見せてくれて勇気が出た。

ですが、私は彼女に頼れなかった。姉としての小さなプライドなのでしょうか。それとももっと別の感情から……?

「ヒルダお義母様も姉さんのこと心配しているし、助けてほしいと言っていたわ。家族じゃない! お願いだから、私を頼ってよ!」

「ミア、私は……」

先程の笑顔は消えて、涙で頬を濡らす妹を見て私は自分の薄情さを嘆きました。

前にもエミリーさんに叱られましたね。誰かを頼るというのは決して恥ではないと学習しましたのに。

ミアは私にとって特別な子なんです。何年も会っていない私を慕ってくれて。誰も知ろうとしなかった私に興味を持ってくれて。

誰よりも大事だからこそ、この子が傷付くのを異常に恐れてしまっていました。

「フィリア殿、ミア殿の心意気を汲んでやってはくれないか?」

オスヴァルト殿下は私の肩に手を置いてミアの力を借りるように促しました。

妹を泣かすなんて、私はダメな姉ですね。大聖女などと大層な肩書きが恥ずかしくなります。

ですが、まだ手遅れでないなら私に関係修復のチャンスを頂きたいです。

「ミア……」

「お姉ちゃ――あっ!?」

ミアを思いきり抱きしめて、私は彼女の体温を感じました。

温かい……。血を分けた姉妹という訳ではありませんが、私にとってただ一人のかけがえのない妹。

そんな妹が私がピンチだと聞いて駆けつけてくれたのです。愛おしいと感じないわけがないじゃないですか。

「改めて、お願いします。ミア、私を助けて!」

「うん。任せてよ。フィリア姉さんのためならたとえ火の中水の中、どこだって駆けつけるし。どんな相手にだって立ち向かうんだから! 頼りにしてね! お姉ちゃん! じゃなかった、姉さん!」

いたずらっぽく笑う妹は本当に誰よりも美しくて輝いて見えます。

そういえば、オスヴァルト殿下に会ったとき誰かに似ていると思ったのですが、今やっとその答えが見つかりました。

二人は似ているのです。底抜けに明るくて、誰よりも強い心を持っている。だから私は二人と接しているうちに、自分も強くなれた気がしたのでしょう。

オスヴァルト殿下とミアがいる。それだけで私には怖いものなど何もなくなっていました。