軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-16

目を開いたときには、もうすっかり馴染んだビーダイド王国の王城に到着していた。

少し湿った冷たい空気。

ビーダイド王国には、雨が降っていた。

窓を叩く雨音を聞いていると、帰ってきたのだと実感が沸く。

そう長くない滞在だったが、色々なことがあった。

ベルツ帝国の乾燥した空気。

強い日差し。

そして、何度も魔導具で降らせた雨のことなど。

「アメリア」

優しい声で名前を呼ばれて、我に返る。

サルジュが、アメリアに手を差し伸べていた。

「疲れただろう。今日はもう部屋に戻って、ゆっくりと休んだ方がいい」

「ですが……」

国王陛下に帰国の挨拶をしなくてはならないし、アレクシスやソフィアにも会いに行きたい。

持ち帰ったデータの整理や分析など、やらなくてはならないことはたくさんあるはずだ。

「報告などはこちらで行うから、アメリアは休んでもかまわないよ。あんな事件に巻き込まれてしまって、疲れただろう」

でもユリウスもそう言ってくれたので、よほど疲れた顔をしていたのだろうかと、アメリアは思わず自らの頬に触れる。

でも実際に色々なことがあって、たしかに疲れているという自覚はある。サルジュに心配をかけてしまう前に、きちんと休んだほうがいいのかもしれない。

「リリアーネ、アメリアを休ませてやってほしい」

「はい、承知いたしました」

迷っているアメリアを見て、サルジュがそう指示すると、リリアーネが素早く動いた。

そのまま部屋に連れて行かれてしまう。

「移動は魔法で一瞬でしたが、ベルツ帝国はとても暑かったですから、その気温差でかなり体力を消耗してしまっているはずです。ですからサルジュ殿下がおっしゃっていたように、今日はゆっくりとお休みください」

「……でも、わたしが傍を離れたらサルジュ様が」

間違いなく、すぐにでも持ち帰ったデータの分析に取り掛かるだろう。徹夜をしてしまう可能性もある。

だから傍にいなくては。

そう言うアメリアに、リリアーネは優しく言い聞かせるように告げた。

「サルジュ殿下はこれから、国王陛下に調査結果のご報告に向かわれるかと思います。ユリウス殿下もご一緒ですし、長引いてしまう可能性もあるので……」

サルジュとユリウスは、あのまますぐに国王陛下とアレクシスに事態の報告に向かったのだろう。

今回は公務ではなく、研究者のひとりで向かったので、そこに同席する必要はない。サルジュが戻るまで、別室で待機することになってしまう。

だからサルジュは、報告の内容からして長引くと予想して、アメリアを先に休ませてくれたのだろう。

ならば今のうちにしっかりと休んで、サルジュに必要とされたときに、全力で動けるようにしておかなくては。

アメリアはそう思い直して、おとなしく休むことにした。

リリアーネが戻ったあとは着替えをして、馴染みのメイドにお気に入りの紅茶を淹れてもらうと、今までの疲れが一気に押し寄せてきた。

「アメリア様、もうお休みになられた方がよろしいのでは?」

メイドに優しくそう言われて、こくりと頷く。

「うん。そうするわ。ありがとう」

少しだけ休憩するつもりで、ベッドに横たわって目を閉じる。

けれど身体は想像していたよりも疲れていたらしく、アメリアはいつの間にか眠ってしまっていたようだ。

目を覚ましたときには、もう朝になっていて、夕方から翌朝まで眠ってしまったことに驚き、慌てて身支度をする。

もう朝食の時間も終わってしまったらしく、メイドが部屋に用意してくれた。

「マリーエ様が、会いたいとおっしゃっておりました」

「ええ、わかったわ。連絡をお願い」

そう頼んでおくと、朝食が終わった頃に来客があった。

連絡をしてくれたマリーエかと思ったが、驚いたことにそれは王太子のアレクシスだった。

「アレクシス様」

彼は今、ユリウスとサルジュと一緒に、国王陛下と話し合いをしていたはずだ。

それが終わったあとすぐに、カーロイドの容態を見守るために、ベルツ帝国に向かうと聞いていた。

そんな忙しいアレクシスが、わざわざアメリアのもとを訪ねてきた理由がわからず、それでも慌てても迎え入れる。

「目が覚めたばかりだというのに、すまない。向こうに行く前に、どうしてもアメリアと話したくて」

アレクシスはそう言うと、アメリアを見つめた。

カーロイドについて何か聞きたいことがあるのかと思い、緊張してその言葉を待つ。

「エストから、魔力を抑える魔導具を思いついて、サルジュに制作を依頼してくれたのはアメリアだと聞いた」

「あ」

アレクシスの要件は、ソフィアとアレクシスの子どものために、魔力を制御できる年になるまで役立てればと思い、提案した魔導具のことのようだ。

アメリアたちがベルツ帝国に赴いている間、ソフィアは第一子となる男児を出産していた。

生まれてきた子どもは、やはりとても強い魔力を持っていて、さらに光属性であることは間違いないようだ。

出発前にエストから魔導具が完成したことは聞いていたので、もしアメリアが不在の間に生まれるようなことがあれば、すぐに渡してほしいと頼んでいる。

エストはそれを実行してくれたのだろう。

「すみません、勝手に」

「いや、とても役立ったよ。ソフィアも安心している。ありがとう。アメリアのお陰だ」

魔力の強い子どもは、制御を覚えるまで泣き喚くことが多くて大変だと聞くが、魔導具のお陰でおとなしく眠っていることが多く、ソフィアはとても助かっているらしい。

そう言ったアレクシスは、とても優しい目をした。

ソフィアと生まれてきた子どもを大切に思い、ふたりの負担を軽くする魔導具を考えてくれたアメリアに、心から感謝してくれているようだ。

「お役に立てて、よかったです」

「ソフィアも感謝していた。あとで、会いに行ってやってくれ」

「はい。わたしも会いたいです」

アレクシスはそれだけ伝えると、慌ただしく立ち去っていく。

これからベルツ帝国に向かうらしい。

ふたりの役に立ててよかったと、心からそう思う。

それからしばらくして、マリーエがアメリアの部屋を訪れた。

彼女は昨日の夜も、アメリアの部屋に来てくれたらしい。

メイドからまだ眠っていると聞き、そのままそっとしておいてくれたようだ。

「ごめんなさい。こんなに眠ってしまうなんて、自分でも思わなくて」

そう謝罪しながら、マリーエを部屋に迎え入れる。

「いいえ、大丈夫よ。ゆっくり休めたようでよかったわ」

マリーエは優しくそう言いながら、アメリアの向かい側に座る。

アメリアとしては、すぐにサルジュに会いに行きたかったが、彼は朝から、アレクシスと国王の三人で話し合いをしているという。

長引きそうだと、マリーエは教えてくれた。

「だから、もし身体がもう大丈夫なら、ソフィア様に会いに行きましょうか? アメリアに会いたがっていらしたから」

「ええ、行きたいわ」

アレクシスの言葉を思い出し、ソフィアと生まれたばかりの子どもにも早く会いたいと、アメリアは顔を輝かせる。

「アメリアのお陰だと、みんな感謝していたわ。でも、そちらは大変だったようね」

「……うん」

労わってくれるマリーエの言葉に、アメリアは俯きがちに頷く。

「魔導具の不具合の原因が魔石だとわかっただけで、他はまだ何も。でも魔石だけではなく、魔法を使うときにも影響があるみたい。サルジュ様が、ベルツ帝国にまだ魔導師が存在した頃の記録を、色々と調べていらしたわ」

「そう。魔法にも影響があるなんて、少し怖いわね」

マリーエの言葉に、アメリアも同意して頷く。

魔導師にとって、自分の想定以上に魔力が奪われるのは、たしかに恐ろしいことだ。

「ベルツ皇帝の暗殺未遂事件もあったと聞いたわ。あなたの治癒魔法のお陰で助かったのだと。本当に、色々と大変だったわね」

労わってくれるマリーエの言葉に、アメリアは笑顔で首を横に振る。

「そうね。でもサルジュ様が部屋に結界を張って守ってくれたし、心細いときも傍にいてくれたの。だから、大丈夫よ」

カーロイドに手を握られたときは少し焦ったが、彼も思わぬ裏切りに心が弱っていたのだろう。

きっとすぐに立ち直り、また前を向いて歩き出すだろう。

それに、彼だってひとりではない。

アロイスとリリアンが傍にいる。

「わたくしも、今日からこの場所に住むことになったの」

マリーエは、そう言ってアメリアに微笑んだ。

「わたくしにできることなんてほとんどないかもしれないけれど、もし手助けが必要ならいつでも言って」

「そうだったのね。うん、ありがとう。とても心強いわ」