軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-14

「その間、サルジュはどうする?」

「刻限まで、魔法資料の解析を続けます」

「そうか。できればアメリアには、カーロイドの容態を見守っていてほしいが」

「……はい、わかりました」

サルジュの手伝いをしようと思っていたアメリアだったが、まだカーロイドは目を覚まさしていない。

たしかに、もう少し見守っていた方がいいだろう。

「では、リリアーネはアメリアの傍に。カイドも、兄上を頼む」

「お前はどうする?」

ユリウスはひとりで行動することになるサルジュのことが心配そうだったが、結界を張るから問題ないと言われて、納得したようだ。

こうして、それぞれ別行動することになった。

アメリアはカーロイドの容態を見守りつつ、リリアーネとこの部屋で待機することになった。

リリアンとアロイスは、カーロイドの側近とともにこの事態を収めるため、これから忙しく動かなくてはならないようだ。

だからまだ容態が安定していないカーロイドの傍には、治癒魔法が使えるアメリアと、護衛としてリリアーネが残る。

リリアンとアロイスに、カーロイドを頼むと何度も頭を下げられて、アメリアは真摯に頷く。

この大陸の平和のためにも、彼には無事に回復してもらわなくてはならない。

「アメリア、これを」

資料室に移動する前に、サルジュはアメリアに大量の魔石を渡してくれた。

すべて実験で使い切ったはずの魔石である。

サルジュがアメリアのために、魔力を込めてくれたのだろう。

「……ありがとうございます」

アメリアはそれを大切そうに握りしめる。

待機する場所は離れてしまうが、こうしているとサルジュの魔力に包まれているようで、安心することができた。

こうしてアメリアはサルジュに大量に渡された魔石を握りしめ、何度か回復魔法をかけながら、容態を見守っていた。

いつの間にか陽が落ち、周囲は暗闇に満ちている。

ユリウスは明日の朝に帰ってきて、そのままビーダイド王国に帰国することになっている。サルジュも、朝まで資料室に籠っているだろう。

食事を運んでくれたリリアンにカーロイドの様子を伝え、アメリアはリリアーネに促されて、隣の部屋にあるソファーで少し休むことにした。

(サルジュ様は、どうしているかしら……)

目を閉じながら、彼のことを考える。

きっと休息も取らずに、熱中しているに違いない。

そんな彼のことが心配だったが、アメリアも回復魔法を連続で使って、少し疲れてしまったようだ。

気が付けば、いつの間にか眠ってしまっていた。

ふと目を覚ましたアメリアは、カーロイドの様子を見ようと、彼が眠っているベッドに近付く。

(うん、大丈夫そうね)

顔色を確認し、念のため回復魔法を掛けようか迷っていると、微かな声を上げて、カーロイドが目を覚ました。

「……あなたは」

「目が覚めたのですね。よかった」

まだ混乱しているだろう彼を安心させようと、アメリアは笑みを浮かべた。

「治癒魔法で回復させましたが、まだ体力が回復していません。ゆっくりと休んでください」

カーロイドは、何が起こったのか徐々に思い出してきたようで、まだ震える手で自分の胸を掴む。

「ああ、そうだ。ローヒが裏切りを……。どうして彼が……」

悲痛な声に、アメリアの胸も痛む。

周囲から見れば、長年の君主を裏切って目先の欲に惑われた愚かな男でも、カーロイドは彼を信じていたのだろう。

出会ったばかりの頃は、あれほど意志の強さを感じさせていた瞳が、今は陰っている。

父に逆らってまで、何とかこの国を変えたいと願っていたカーロイドは、今まで前しか見ていなかったのだろう。

だからこそ、背後を任せる仲間たちを信用していた。

けれど、その仲間の中から裏切り者が出た。

きっと彼の歩みは、今までのように迷いのないまっすぐなものではなくなってしまうのかもしれない。

それが何だか切なくて、アメリアは何とか彼を慰めようとした。

「自分に非がなくても、裏切られることはあります」

驚いたように顔を上げるカーロイドに、アメリアは微笑む。

「わたしの以前の婚約者は、わたしが不在の間に学園内に悪評を広めて、孤立させました。他に好きな人ができたからです。恋人ができたことさえ知らなかったのに、わたしは自分でも知らないうちに、ふたりの仲を邪魔する悪女に仕立て上げられていました」

命を狙われたカーロイドに比べると、軽い話かもしれない。

けれど卑劣な裏切りに、いつまでも囚われる必要はないのだと、伝えたかった。

「でも今の婚約者が、わたしを救ってくれました。味方になってくれる人は、必ずいます。ですから……」

そう言葉を続けると、ふいにカーロイドの手が、アメリアに触れる。

「え」

手を、握られていた。

カーロイドが、アメリアを見つめている。

その瞳に、今までとは違う熱が込められている気がして、動揺した。

「あの、わたしは」

「……ありがとう。過去の傷をさらけ出してまで、俺を慰めてくれたのか」

「い、いえ。その……」

「あれほどの傷が、跡形もなく消えている。本当に魔法というものは、素晴らしいものだな。命を救ってくれたことに、心から感謝を」

「それは……」

カーロイドの命を救ったのはたしかにアメリアの治癒魔法だが、それだってビーダイド王国の国王陛下の許可と、サルジュが用意してくれた魔石がなければできなかったことだ。

それを言おうとしたが、今のカーロイドは、味方だと信じていた者からの裏切りにひどく傷ついている。

命を救ってもらったと感謝してくれる相手に、国王陛下の命だったからと告げることはできなかった。

でも、こうして身内でも婚約者でもない人に、手を握られている状況は好ましくない。

(どうしたらいいの?)

たしかに慰めようとは思っていたが、こんな状況になってしまうとは思わなかった。

信頼していた側近の裏切りは、想像以上にカーロイドを傷つけていたのだろう。

そんなところに、アメリアが優しい言葉を掛けてしまった。

近しい人の裏切りがどんなにつらいのか。

そんなときに掛けられた優しい言葉に、どれだけ救われるのか、アメリアも知っている。

でもアメリアには、心から愛する人がいる。

どんなに情熱的な瞳で見つめられても、それが揺らぐことはあり得ない。

思わず後退したところに、間にすっと、リリアーネが入り込んでくれた。

「カーロイド皇帝陛下。アメリア様は、ビーダイド王国の第四王子、サルジュ殿下の婚約者です」

責めるわけでもなく、ただ事実を告げる穏やかな声に、カーロイドははっとしたように手を離してくれた。

「……すまない。今のことは、どうか忘れてほしい」

アメリアも謝罪しようとしたが、ここで謝るのも違うような気がして、無言で頷いた。

すぐに傍から離れて、少し離れた場所からカーロイドを見守ることにした。

彼はベッドの上に身体を起こしたまま、深く思考しているようだ。