軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-9

ユリウスと一緒だったので、晩餐会は緊張しながらも何とか無事に終わった。

問題は翌日の、王女達とのお茶会の方だった。

アメリアはビーダイド王国の代表としてこの国を訪れているが、まだサルジュとは婚約しているだけなので、正式な王族の一員ではない。ただの地方貴族の令嬢が、他国の王女のお茶会に出席しなければならないのだ。

リリアーネは一緒にいてくれるが、侍女としてなので助言を求めることはできないだろう。

「大丈夫ですよ。ユリウス殿下が昨日の晩餐会で、アメリア様のことを自慢されていたと聞きましたよ」

不安になっているアメリアに、リリアーネがそう言ってくれた。

「それは……」

彼女は城に勤める侍女から、その話を聞いたらしい。

昨日の晩餐会で穀物の品種改良について尋ねられたユリウスは、新品種にも欠点があること。その欠点を補う魔法を開発したのが、アメリアであると説明したのだ。

もちろん、もともとの考案者はサルジュだと慌てて付け加えた。だがアメリアがその功績で王家に迎えることになったと説明され、それは否定できずに、ただ曖昧に笑うことしかできなかった。

「それほど優秀なアメリア様を、たかが身分のことなどで貶める人はいませんよ」

第四王子のサルジュが植物学や土魔法を学び、グリーの品種改良に取り組んでいるのは、他国でもよく知られている。ユリウスはアメリアのことを、そのサルジュの公私ともに最高のパートナーだと語ってくれたのだ。

(少し恥ずかしかったけれど、でも嬉しかった……)

そうして。

アメリアが心配していたようなことは何も起こらず、リリアーネが言っていたように、王女達はアメリアを温かく迎えてくれた。

第一、第二王女と第四王女がいたが、肝心のクロエの姿はなかった。

どうやら体調が悪くなり、急遽欠席したらしい。

王女達の焦った様子から察するに、本当に直前に欠席すると連絡をしてきたらしい。申し訳ないと謝罪する王女達に大丈夫だと微笑み、お見舞いの言葉を告げておく。

昨日の晩餐会でも思ったが、やはりジャナキ王国としては、今後のためにもクロエをビーダイド王国に嫁がせたいと強く思っている。

けれど彼女は向こうも婚約解消で良いと言っていたのだからと、強固に拒んでいるようだ。

(どうしたらいいのかしら……)

一度、彼女と話がしたい。そう思ったけれど、向こうが避けているのだからどうしようもない。

その後の晩餐会にもパーティにも、彼女は一度も参加していなかった。

けれどその婚約については、ジャナキ国王とユリウスが話し合いを重ねていたらしく、今すぐに結論を出さないことになっていた。

クロエは予定通りビーダイド王国に留学をして、学園を卒業するときに、正式に婚約をどうするのか決めることになったようだ。

彼女はアメリアと同い年なので、魔法学園の二年生。卒業するまでには、まだ猶予がある。

その期間でビーダイド王国に馴染めたらそれで良い。もし駄目なら、ジャナキ王国に帰っても良い。結婚を嫌がっていたクロエに配慮したような形にはなっているが、学園に通う間はビーダイド王国の第二王子の婚約者ではなく、ジャナキ王国の王女として留学するという扱いになる。

だからもし彼女が何か問題を起こせば、その責任はジャナキ王国が負うことになる。

クロエのためにも良かったと胸を撫で下ろしたが、ユリウスが言うにはなかなか結論が出ず、保留になった挙句にそう決まったのだと言う。

「まあ、父上もそれで良いというから、今回は留学生として連れて行くことになる」

頷いたアメリアは、ふと疑問に思う。

「あの、いつ国王陛下にご連絡を?」

「ああ、光魔法の一種だ。遠くにいる者と話すことができる」

ユリウスはあっさりとそう答えた。

「光魔法ですか? ……でも」

サルジュがその魔法を使っているところを見たことがなかった。

学園内でユリウスを探しに行ったこともある。もしそんな魔法があるのなら、探す必要などなかったのではないか。

不思議そうなアメリアに気が付いたのか、彼は説明してくれた。

「光魔法は色々とあるが、制限が厳しくてね。この魔法も、国内では使ってはいけないことになっている」

遠く離れた国にいるからこそ、使用することができるのだと言う。

「まぁ、面倒だが仕方がない。光魔法は強すぎるから」

ユリウスはそう言うと、肩を竦めた。

他の魔法とは比べ物にならないくらい強いと言われている光魔法だが、詳細は伝えられていない。王族のみが知る秘密もあるのだろう。

「とにかく、十日間大変だっただろう。あとは帰るだけだ。サルジュと同じ馬車でゆっくりと帰るといい」

「ですが、わたしはクロエ王女殿下の相手を……」

アメリアはクロエ王女の話し相手として選ばれたはずだ。それを放棄するわけにはいかない。

そう言ったが、ユリウスは大丈夫だと笑う。

「サルジュがアメリアと話したくてたまらないようだ。このままだと、帰国した途端、何日も図書室に籠ってしまいそうだから、ある程度発散させた方がいいだろう。それに、向こうも荷物もあるし、侍女も数人連れて行くようだから、専用の馬車で行くと言っている」

「……そうなのですね」

ビーダイド王国の王族の婚約者ではなく、ジャナキ王国の王女として留学することになったので、支度はすべて向こうで整えることになったようだ。侍女や護衛も、当然ジャナキ王国の者である。

まだビーダイド王国に嫁ぐことを受け入れていないクロエにとっては、この方がよかったのかもしれない。

それにアメリアも、サルジュに話したいこと、相談したいことがたくさんある。

今回に関しては、アメリアもサルジュを止める自信がない。むしろこのまま帰国したら彼に引き摺られて、ユリウスの言うようにふたりで図書室に籠り切りになってしまうに違いない。

(その前に馬車で思う存分話すことができれば、みんなに心配をかけることもない……よね?)

そんな事情もあって、帰りはサルジュと同じ馬車に乗ることになった。

王家の馬車にはユリウスとマリーエ。護衛には、ビーダイド王国の騎士がいる。

アメリアはサルジュと一緒に、行きにマリーエ達と乗った馬車に乗ることになった。護衛にはカイドがいてくれる。

「アメリア、ようやく会えた」

まだ黒髪のままのサルジュは、そう言ってアメリアの手を握った。久しぶりに感じる彼の温もりに、胸が温かくなる。

「こんなに会えないとは思わなかった。こんなことなら、無理にでも同じ研究員として連れて行くべきだった」

「サルジュ様……」

彼はこの国にしかない植物の研究に夢中だと思っていた。

まさかサルジュも、会えないことを寂しく思ってくれていたなんて想像もしていなかった。

アメリアは嬉しくなって、自然と笑顔になっていた。

「わたしも寂しかったです。でも、色々と勉強をすることができましたから」

初めての公務は、アメリアを成長させてくれた。きっとこれからの人生の役に立つ。そう答えると、サルジュはアメリアがずっと嵌めていた指輪に触れる。

「これは、ずっと身に付けていてほしい。アメリアを守ってくれるから」

「……はい。ありがとうございます」

アメリアは指輪を包み込むように抱きしめる。

彼の色を纏っていると、本当に守られているようで幸せな気持ちになった。

大切にしようと思う。

それからふたりはそれぞれ纏めた資料を広げ、互いの成果を報告し合った。

「ジャナキ王国の案内をしてくれた方に聞いたのですが、ここ数年で穀物の値段はかなり値上がりしたそうです。収穫量が減っているのが原因のようです」

「なるほど。具体的な値段は?」

「はい、こちらに。四、五年前と比べると、倍近くに値上がりしています」

「それほどか」

アメリアが調べた市場価格を手渡す。

サルジュはそれをじっくりと眺めたあと、手持ちの資料を取り出して見比べている。

「特に、五年前の収穫量が激減している。原因は……。これか」

彼が指し示したのは、ジャナキ王国の毎年の気温や天候を記録したものだった。

五年前の夏に大雨が降り、多くの穀物が収穫前に流されてしまったと記されていた。

「それからは夏になっても雨の日が多くなり、備蓄も尽きて、少しずつ値上がりをしていたようですね」

「災害から立ち直る時間もなかったということか。予想していたよりも深刻な状態だな」

サルジュは資料から目を離し、馬車の外を見つめた。

そこに広がる農地に植えられているのは、穀物ではなかった。成長が早く、冷害にも強い野菜などが多いようだ。

数年前はアメリアの領地のように、穀物畑が広がっていたに違いない。

ジャナキ王国は、数十年前は農業大国と呼ばれていた。質が良く、値段も安い穀物が大陸中で取引されていた。それが今はこんな状態である。

「それでもこの国の気温はまだ、ビーダイド王国よりは高い。今なら何とかできそうだ」

そう言って熱心に資料を読み始めたサルジュを見て、やはり彼は王族ではなく、研究者として生きているのだと思う。

国同士の利害関係など関係なく、目の前の課題に全力で取り組む。もちろん国益も大切だが、そこは王太子であるアレクシスを始め、ユリウスやエストがいる。

だからサルジュはこれでいい。

そしてそんな彼を、アメリアはこれからも全力で支えたいと願っている。