軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ただ私達は、真実の愛に目覚めただけなのに……」

最後にセイラはそう呟いていた。

多くの人達を味方にしたその言葉にも、今は誰も賛同しない。

「アメリア、大丈夫か?」

気遣ってくれる優しい声に顔を上げると、サルジュが心配そうにアメリアを覗き込んでいる。

その顔を見た途端、涙が溢れてきた。

こんなに大勢の人の前で泣くなんて、と思うが、どうしても止めることができなかった。

サルジュがそっと涙を拭ってくれる。触れているのは指先だけなのに、優しい温もりが傷ついた心を救ってくれた。

「ありがとうございます、サルジュ様」

リースはもういない。

アメリアを苦しめた噂も、じきに収まっていくだろう。今日この日から、ようやく普通の学園生活が始まる。

もう今日は休んだ方がいいと言われ、素直に寮の部屋に戻った。

制服から私服に着替えると、そのままベッドの上に寝転ぶ。

はしたない行為だが誰もいないし、今日くらいは大目に見てほしい。

こうして自分の部屋で寛ぐのも、二日ぶりだ。

(色々あったなぁ……)

リースから手紙がこなくなってから今までのことを、ゆっくりと思い出してみる。

つらい目にもたくさん合ったが、今思えば悪いことばかりではない。

あのことがなければサルジュと親しくなることもなかっただろうし、ユリウスとマリーエに出会うこともなかったかもしれない。

何よりあのままリースと結婚していたら、魔法を学び続けることはできなかっただろう。

(領地の運営に携わるのも嫌いじゃなかったから、それよりに暮らしていたかもしれないけど)

だが、陥れるほどアメリアを憎んでいたリースと幸せになれるとは思えない。きっといつかは破綻していただろう。

十年来の婚約者だった彼とも、もう会うことはない。

そう思っても寂しくはなかった。

ただ今は優しく涙を拭ってくれたサルジュの指の温度だけが、いつまでも残っている気がする。

そっと自分の頬に触れたところで、アメリアはふと思い出す。

(そういえば私、初対面でサルジュ様と踊ったわ。それに、足を怪我して抱きかかえていただいたことも……)

あのときはサルジュの身分に恐縮していただけだった。

でもこうして思い返してみると途轍もなく恥ずかしく、それでも得難い経験だった。

これからもサルジュの研究を手伝うことはあるが、あんなふうに触れ合うことは二度とないだろう。

ベッドに寝転んだまま、天井を見上げて溜息をつく。

それは今までのように悲しみに満ちたものではなく、少しだけ切なさを含んだものだった。

アメリアはその日のうちに父に手紙を書き、起こったことをすべて報告した。

おそらくリースとの婚約は、このまま解消となる。

アメリアは父の指示に従うだけだが、たとえアメリアに瑕疵がなくとも、ここまでの騒ぎになってしまったのだ。新しい婚約者を見つけるのは難しいかもしれない。

そうなったときは、従弟に爵位を継いでもらうしかないだろう。

(……私にも油断があった。リースが裏切るなんて、考えたこともなかったから)

昔からよく知っていて、リースとはもう家族のような気持ちだった。

それが、甘かったのだろう。

その甘さが、自分の将来を閉ざしてしまうかもしれない。

(終わってしまったことを、いつまでも悔やんでも仕方ないわね。これからどうするか、ちゃんと考えないと)

爵位を従弟が継ぐとしたら、アメリアは家を出て独立しなければならない。結婚を諦め、自分ひとりで生きていくには、きちんとした仕事を探す必要がある。

(たしかユリウス様は、特Aクラスに進学すれば魔法研究員になれると言っていたわ)

それが一番理想的に思える。

ずっと運営に携わってきたレニア領から離れるのは寂しいが、従弟は真面目で優しい人だ。安心して任せることができる。

それに、アメリアはこれからも魔法を学んでいきたい。そうすれば、助手としてサルジュを助けることもできる。

もし爵位を継いでもらうために夫を迎えたとしても、評判の悪い娘を妻にしてもらったことで、夫に負い目を感じてしまうかもしれない。

そんなふうに生きるよりは、自分でしっかりと働いて、自由に生きた方がいい。

これからは将来のため、ますます本気で勉学に励まなくては。

アメリアは、これからの目標をそう定めた。

リースのことも、もう忘れてしまおう。

どんな裁きを受けるのか少し気になるけれど、どんな結果になろうと、彼の自業自得だ。

そう決意したアメリアだったが、その翌日。

リースがセイラと駆け落ちしたという話を聞いて呆然とした。

(……駆け落ち? どうしてそんなことに?)

サルジュが言っていたように、リースには退学が言い渡されていた。

彼はその日のうちに学園寮を抜け出し、セイラとともに姿を消したのだ。

警備兵に連行されたものの、まだ正式な処分が下る前だったので、ふたりを見張っていた者はいなかったようだ。学園寮の警備兵も、まさかふたりがその日のうちに逃げ出すとは思わなかったのだろう。

リースの寮の部屋にはふたりの名前で置き手紙があり、どんな困難があったとしても、真実の愛を貫くと書かれていたようだ。

真実の愛。

それを聞いたときに、アメリアは思わず溜息をついた。

事実はどうあれ、悪い噂が広がってしまった直後にこんなことが起こった。アメリアが想い合うふたりを引き裂き、リースを退学に追いやったと言う者は必ず現れる。

ただ、この件にはサルジュが関わっていたので、以前のように大事にはならないかもしれない。

それでもリースはセイラと駆け落ちすることで、最後までアメリアを貶めた。サルジュによって追い詰められたリースは、己の所業を悔いるのではなく、最後までアメリアに攻撃することを選んだのだ。

最後くらい優しかったリースに戻って欲しかったと思うが、最初からそんな人は、どこにも存在していなかったのかもしれない。

人の噂も、そう長くは続かない。

そんなものに煩わされるよりも、今は将来のために、ひたすら勉強に励むしかない。