軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その9

グリーが育っていくのを、アメリアは静かに見つめていた。

成長促進魔法は便利だが、使える者は限られている。

それに土魔法を使うことはできても、サルジュのように一気に成長させることができる者はいない。

彼に直接師事しているミィーナでさえ、何度も繰り返さなくてはならないほどだ。

だからサルジュは植物学を専攻し、グリーを開発したのだろう。

その頃のことを、アメリアは知らない。

まだサルジュと出会う前のことだ。

ずっとひとりで研究を続けていたと思うと、過去のことだとわかっていても、傍に居たかったと思ってしまう。

直前に植えたグリーが、サルジュの魔法によって収穫できるくらいの大きさまで育った。

必要なのは総収穫量の三割程度とはいえ、何回か植え付けと収穫を繰り返すことを考えると、急いで刈り取った方がいいだろう。

集まってくれた領民たちが、その準備をしている。

アメリアは収穫の手伝いをしようと、グリー畑に足を踏み出した。

その途端、足元に光が生じる。

「え?」

何が起こったのかわからずに、アメリアは困惑する。

だがその間も光は魔法陣となり、アメリアを中心に広がっていく。

「アメリア、駄目だ!」

その光があまりにも眩しくて何も見えなかったけれど、サルジュの声が聞こえた。

アメリアは、その声に向かって手を伸ばす。

「サルジュ様!」

差し出した手を、サルジュはしっかりと握ってくれた。

その温かい感触にほっとしたが、魔法陣はなおもアメリアを飲み込もうとしている。

逃れようとしても、足が光に飲み込まれてしまって動かない。

このままでは、サルジュまで巻き添えになってしまう。

そう思って、手を離そうとした。

でもサルジュの腕はアメリアの予想以上に力強くて、どんなに離そうとしても、振りほどくことができない。

(どうしよう。このままでは……)

何とか、サルジュだけでも。

そう思った途端、アメリアを飲み込もうとしていた光が大きく弾けた。

「……っ」

凄まじい破壊音が響き渡り、咄嗟に衝撃を覚悟して身を硬くする。

けれど覚悟していた衝撃はなく、アメリアとサルジュは、後ろから誰かに抱き留められていた。

「……ああ、間に合ったな」

背後からふたりを抱え、安堵したようにそう言ったのは、王都にいたはずのアレクシスだった。

彼はふたりを両脇に抱えたまま、深く息を吐く。

「兄上、今のは……」

サルジュはアメリアが踏み出そうとした場所を見つめ、静かな声でアレクシスに問いかける。

「目的は、アメリアではないよ。心配はいらない」

アレクシスの言葉に、アメリアの手を握りしめていたサルジュの手が少し緩んだ。

「では、これですか」

そう言ったサルジュの視線の先には、実ったグリー畑がある。

ミィーナが発芽させて皆で植え、サルジュが収穫できるまで成長させたグリーだ。

「確定ではない。だが、その可能性は高いだろうな」

アレクシスはそう答えた。

あの巨大な魔法陣は、謎めいた記憶喪失の少女を転移させるためではなく、豊かに実ったグリーを奪うためだったのではないか。

そう聞かされて、アメリアは動揺する。

「どうして、そんなことを」

「今までわかったことを、順に話そう」

アレクシスはそう言うと、また大きく息を吐く。

そこでアメリアは、彼が酷く疲れていることに気が付いた。

今までどんなに大きな魔法を使っても、何度もこの国とベルツ帝国を行き来しても平然としていた姿を見ていただけに、衝撃を受ける。

「アレク兄上?」

サルジュも気が付いたようで、その表情が険しくなる。

「大丈夫だ。向こうで色々とあったが、もう解決している。エストも来ているはずだから、いったん戻ろう」

そう言われ、アメリアはサルジュと顔を見合わせて、頷く。

「ですが、もしまた、あの魔法陣が現れたら……」

この場には、手伝ってくれるために集まった領民たちもいる。不安そうな顔をしている彼らを放っておけなくて、アメリアはそう言った。

「ああ、心配はいらない。ここはもう安全だ。念のため、カイドを置いていくか」

アレクシスにそう言われ、カイドは無言で頷いた。

その傍には、彼の妹であるミィーナもいる。

ふたりにこの場を任せ、アメリアとサルジュは、いったん屋敷に戻ることにした。

「緊急事態だ。魔法で移動しよう」

アレクシスはそう言うと、サルジュとアメリアも一緒に移動させる。

気が付いたときには、もう屋敷の前に到着していた。

アレクシスが言っていたように、屋敷の前にはユリウスとエストの姿がある。

ふたりは険しい顔をして話し合いをしていたが、アメリアたちが移動してきたのを見て、こちらに駆け寄ってきた。

「サルジュ、アメリア、無事だったか」

ユリウスはそう言って、ふたりの肩に手を置く。

そんな彼も、何だか疲れているようだ。

ユリウスはここに残って、魔法陣の見張りをしていたはずだ。

何があったのだろう。

そう思って振り返ったアメリアは、あの巨大な魔法陣が薄れていることに気が付いた。

「魔法陣が……」

形はそのままだが、陽炎のように揺らいでいて、実体がない。

「大丈夫です。これは封印された状態ですから」

エストがそう説明してくれた。

この魔法陣も、このまま残しておいたら危険だということで、アレクシスが封印したらしい。

(こんな大きな魔法陣を……)

撤去するならともかく、それを残したまま封印するとなると、魔法陣を起動させるよりもさらに多くの魔力が必要となる。

あのアレクシスが疲れていたのは、そのせいだろう。

危険なものだとわかったのに、なぜ撤去せずに封印したのか。

王都でいったい何が起こったのか。

その話を聞くために、そのまま全員で屋敷の応接間に移動することにした。