軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その2

心配と不安で、朝食はほとんど喉を通らなかった。

父と母のこと。レニア領のこと。

そして、単身でその場に向かったサルジュのこと。

色々なことを考えてしまう。

何とか朝食を終えたあとは談話室に移動して、ユリウスからの連絡を待つことにした。

アレクシスは父である国王と今後について相談するため、ユリウスがレニア領に向かってすぐに、部屋を立ち去っている。

朝食のときは一緒だったソフィアは、息子のライナスの世話をするために部屋に戻った。

ここにいるのは、エストとマリーエ。そしてアメリアの三人だけだ。

ユリウスが向かってからどれくらい経過したのか。はっきりとわからなかったが、時間がとても遅く感じてしまう。

向こうの状況がまったくわからないので、不安も募る。

それはマリーエも同じだったようで、彼女もレニア領に向かったユリウスを心配しているに違いない。

それなのに、アメリアを気遣ってくれた。

気持ちが落ち着くようにと、温かい飲み物を持ってくるように指示を出したり、声を掛けたりしてくれたのだ。

「ごめんなさい。私……」

自分のことだけで精一杯だったと反省するが、マリーエは優しく笑う。

「そんなこと、気にしなくていいのよ。わたくしは義姉だもの」

「ありがとう」

マリーエの優しさに触れて、アメリアの気持ちも少しずつ落ち着いてきた。

事件について、冷静に考えてみる。

(ユリウス様は、穀物畑に魔法陣が現れて、収穫前の穀物のほとんどが消滅したと言っていたわ。つまり……)

その魔法陣は、攻撃を仕掛けてきたのではないのだろう。

攻撃魔法として使われる火や風の魔法ならば、穀物だけではなく、周囲にも大きな被害をもたらしたはずだ。

けれどユリウスは、穀物だけが消えたと言っていた。

ならばレニア領の領民や、両親は無事に違いない。

そう思うと、冷静になることができた。

(攻撃する意図がなかったとしたら、目的は?)

アメリアはさらに思考を広げる。

まだ状況はよくわからないが、レニア領の農地はかなり広大だ。もし収穫寸前の穀物畑がすべて消滅してしまったのだとしたら、甚大な被害となる。

しかも今年はサルジュの研究のお陰で、豊作になるはずだった。

それらがすべて失われてしまったとすれば、もうレニア領だけの問題ではない。

今は気温の低下により、大陸全土が食糧不足に陥っているような状況である。

そんな中、サルジュの研究の成果によって、今年のレニア領はかなりの豊作だと言われていた。収穫量が増えれば、今年は他国に輸出することができるかもしれないと期待されていたのだ。

(それなのに……)

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

アメリアの実家であるレニア伯爵家は、領地はそれなりに広いが、王都から遠い田舎である。ほとんどは農地で、アメリアも学園に入学するまでは、領民たちに交じって農作業の手伝いをしていたくらいだ。

のんびりとした平和な領地で、まさかこんなことになるなんて思わなかった。

(いったい誰がこんなことを)

心当たりなど、まったくない。

けれどアメリアが王子妃となり、その故郷の領地が、サルジュの研究と魔法の恩恵を受けていることは、広く知られている。

少し前なら、誰もがベルツ帝国の仕業だと思ったに違いない。

魔導具の暴走によって砂漠化した国土に作物は実らず、困窮していたからだ。

けれど新皇帝が即位してからは、ビーダイド王国とは協力関係にある。今は砂漠化してしまった国土を元に戻すために、全力を尽くしているところだ。

他国を攻撃する余裕などなく、新皇帝のカーロイドも、誠実な人間だ。

そもそもベルツ帝国には、魔導師がいない。

ベルツ帝国だけではなく、他の国でも、血統を守ってきた王族に魔力がある程度である。貴族すべてが魔力を持つビーダイド王国との大きな違いは、そこである。

さすがにビーダイド王国の貴族が、こんなことをするとは思えない。

「アメリア」

名前を呼ばれて、我に返る。

「あ……」

いつのまにか談話室から出ていたらしいエストが戻ってきて、ふたりを呼んでいた。

「ユリウスが戻った。今、状況を父上と兄上に報告している。レニア領の人たちは、全員無事のようだよ」

「……よかった」

エストの言葉に、アメリアは深く安堵した。

被害があったのは穀物畑だけで、人や建物に危害を加えられた様子はなかったそうだ。

アメリアの両親も無事だった。

「教えていただいてありがとうございます。あの、サルジュ様は……」

戻ったのは、ユリウスだけなのか。

不安そうなアメリアに、エストは少し困った様子で告げる。

「残された魔法陣を詳しく調べたいと言って、向こうに残っているようだ。でも安全は確認されているし、カイドが傍にいる」

サルジュの護衛騎士であるカイドも、ユリウスとともにレニア領に向かっていたらしい。彼が傍にいてくれるのなら、アメリアも安心できた。

「ユリウスも、父上と兄上に状況を説明したら、またレニア領に戻るらしい」

「安全が確認されたのなら、私も連れて行ってもらえないでしょうか?」

無事だと聞いて安心したものの、それでも生まれ育ったレニア領のこと、そしてサルジュのことが心配だった。

「……そうだね」

エストは頷く。

「私も例の魔法陣の調査のために、レニア領に行くつもりだ。そのときに、アメリアも一緒に連れて行こう」

エストもサルジュに次いで、魔法について詳しい。

「わたくしも行くわ。魔法研究所の副所長ですもの」

マリーエがそう言い、エストも頷いた。

「そうだね。王城には兄上が残ればいいだろうから」

こんなときは率先して現地に向かっていたアレクシスだが、さすがに即位を間近に控えた今、簡単に王城を離れるわけにはいかない。

アメリアは急いで身支度を済ませ、マリーエ、エストとともに、ユリウスが報告から戻ってくるのを待った。