軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 新たな筆頭聖女

新国王の即位後、辺境伯嫡男のディオン・シャヴァリエは期間限定の宰相補佐に任命され、王宮で忙しく働いていた。

王宮と辺境伯邸には、映像と音声が同時に送受信出来る魔道具が設置されている。

有事の際の通信手段であるが、旧王家と辺境伯家は不仲が続いていたので、以前はあまり使われていなかった。

その魔道具を使った新国王との初めての通信は、ディオンのスカウトについての話だった。

「後継を奪われては困る!」

新国王から一人息子を宰相補佐に欲しいと言われた時、当然ながら辺境伯は猛烈に抗議した。

「前の宰相を始めとして、使えない者達をどんどん排除したら、人員が大幅に足りなくなってしまったんだから仕方ないじゃないか。

新しく宰相に任命した者も、まだ色々と慣れなくて優秀な補佐が必要なんだよ。

私が苦労しているのはお前達のせいでもあるのだから、少しは協力してくれたって良いだろう?

ランベールが即位するまでには後進を育成して解放してやるから、それまではお前が現役で頑張れば済む話じゃないか。

そう言えば、確か『楽ばっかりしていると早くボケちまうぞ』って誰かが言ってた気がするが?」

国王は涼しい顔で、自身が以前辺境伯に言われた台詞を引用した。

ウグッと言葉に詰まった父の肩を、ディオンがポンと叩く。

「まあ、仕方がないでしょうね。

暫くは王宮でこき使われて来ますよ」

と、言ったは良いが……。

実際、思った以上にこき使われている。

国のトップが急に変わったのだから、大小様々な問題が起こるのは当然の事。

ディオンは事務仕事も諜報活動も出来て、魔法騎士の才まである。

オールマイティに使える彼は、いつの間にか宰相補佐の仕事以外にも、護衛や情報収集や暗部の仕事など、何でも屋の様に便利に使われていた。

(この任命を受けたのは失敗だったかもなぁ……)

そう思い、ため息を漏らしながらも、まあ、それなりに楽しくやっていた。

好奇心旺盛な彼は、新しい環境で働く事が嫌いじゃないのだ。

彼の尽力の甲斐もあって、地獄の様な忙しさは少しずつ落ち着いて来ている。

そんな中、教会関係者達の処分が決定した。

献金を着服し私腹を肥やしていた教会幹部達や、聖女の管理を怠っていた神官達は軒並み処罰され、それぞれの刑が科された。

新しく配置された人員は、真面目で信心深い人間ばかりだそうだ。

ミシェルを虐げて来た聖女達にも、勿論裁きが下された。

元王太子でさえもあの騒動の責任を取ったのだから、聖女達もお咎め無しとはいかず、殆どの聖女が処罰の対象となった。

当然ながら、彼女達の『聖女』という権威ある称号は剥奪され、その実家もそれぞれ一段階降爵された。

ステファニーについては特に悪質だったとして、レスタンクール公爵は子爵位まで降爵され、同時にステファニーの父は当主の座を追われ、親族の中から新当主が選ばれた。

これによってステファニーは聖女の称号だけでなく貴族令嬢としての地位も失い、自身が今まで蔑んでいた平民となった。

とは言え、貴重な聖女の光魔法は今の王国にとっては必要不可欠である。

聖女を全員排除してしまっては国は立ち行かなくなってしまう。

新たな王は、聖女の力に頼り過ぎない国の運営を目標としているが、それは一朝一夕で叶う物ではないのだ。

そこで彼女達は大聖堂に併設されている簡素な宿舎に軟禁し、労役として聖女だった頃と全く同じ仕事をさせる事になった。

労役の期間は、個々の罪の重さによって決定されたが、ステファニーについては一生涯魔力を提供し続ける事が決まっている。

『殆どの聖女』という事は、処罰の対象外となった者がいた訳で……。

聖女の称号剥奪を免れた幸運な者の内の一人であり、現在は筆頭聖女となったニナ・ブレーズに面会する為に教会を訪れたディオンは、面会室に入って来た彼女にヒラヒラと親しげに手を振った。

「久し振りー。

とうとう筆頭聖女になれたんだって? おめでとう」

「……やはり、貴方でしたか」

あの時の恐怖を思い出したのか、微かに顔を引き攣らせたニナに、ディオンは楽しそうに笑みを深める。

「俺の正体、いつ分かったの?」

「あの後直ぐに、ミシェル様の関係者で赤い瞳の方がいないか調べました。

ところで、本日はどの様なご用件で?」

「ちょっと気になったんだよね。

あの時、どうして言わなかったのかなって。

ミシェルを手伝った事。

それを話していれば、怪文書の内容だって君にとって有利な物に変わったかも知れないのにさぁ」

そう、ニナを含めた三人だけは、ミシェルが体調不良の際などにステファニーには内緒でコッソリと聖女の仕事を手伝っていたのだ。

それを理由に、ミシェルが三人を罰しない様にと嘆願し、彼女達は聖女の座に留まる事となった。

「……元々私の仕事でもあるのだから、手伝うと言う表現は適切ではありません。

ミシェル様に仕事を押し付けていたのも、彼女がいなくなれば自分が筆頭になれるかもと期待していたのも、事実ですから」

ニナは俯いてポツリポツリと自分の心情を吐露した。

その瞳には罪悪感が滲んでいる。

(へぇ……)

最初はニナの事も、可愛い妹を虐めた敵だと思っていた。

しかし、どうやら彼女は思ったよりも真面目な人間だった様だ。

初めて話をした時には、聖女一人一人の人間性には興味が無かったので、彼女の気持ちを聞く様な質問はしなかったから、気付かなかったけれど。

目の前の彼女は、折角筆頭聖女になれたというのに、少しも嬉しそうじゃない。

どちらかと言えば、騒動に加担した自分が聖女の座に留まる事への葛藤を感じている様に見えた。

だが、そもそも没落寸前の伯爵家の令嬢が、公爵令嬢の意向に逆らえる訳がない。

手助けしたのがミシェルが病に倒れた時だけとしても、やはりステファニーに知られれば不興を買う恐れがあったのだ。

それなのに放って置かなかったのは、きっと国民を想っての事。

国の為に自らの不利益になるかも知れない行動が出来る人は、聖女としての資格がある。

ミシェルはそう言って彼女達を擁護したのだ。

「そんなに難しく考えなくて良いんじゃない?

悪かったと思うならさ、これからは筆頭聖女の仕事、頑張りなよ」

「そう、ですよね。……うん、頑張ります」

ニナは迷いながらもしっかりと頷く。

ディオンはそんな彼女に少しだけ好感を抱いた。