軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69 議会は恙無く

錚々たる顔ぶれが集まる王宮内の議場に、いつもより疲れた顔をした国王が現れ、その場に居た者達は一斉に臣下の礼をとった。

今から始まる議会で、次期王太子について話し合われる。

とは言え、実際には継承順位により誰を立太子させるかはほぼ確定しているので、それを議員達が承認するかどうかの確認をするだけの場である。

アルフォンスが失脚した今、王位継承順位の一位は、王弟であり現在は公爵位を賜って臣下に降っているレアンドル・モーリアック公爵となっている。

彼は学生時代、現在の国王よりも優秀であると評判だった。

この国には第一王子が次期国王になるという明確な取り決めは無いので、先代の国王も、当時の議会も、二人の王子の内どちらを王太子にするか悩んだらしい。

結局、第二王子のレアンドルの母は側妃で後ろ楯が小さい事と、本人も玉座を望まなかった事を理由に、第一王子だった現在の国王が王太子に選ばれた。

『今思えば、あの時レアンドルが選ばれていれば、この国がこんなに混乱する事も無かったのだが……』

と、きっと、ここに集まった者の多くが思っているのだろう。

被害妄想に駆られた国王は、そんな風に考えて投げ遣りな気持ちになっていた。

愛していたはずの息子を信じられなくなった時から、無気力になったかと思えば些細な事で怒り狂ったりと、不安定な精神状態が続いている国王。

もういっその事、アルフォンスを遠ざけてしまおうと廃嫡にしたが、全く気分は晴れなかった。

「現在の継承順位ではレアンドル・モーリアック公爵が一位となりますが、モーリアック公爵は、陛下の退位後に王位を継いで頂くには少々年齢が高過ぎます。

そこで、陛下は継承順位二位のランベール様を王太子に指名なさるお考えです」

国王に代わって宰相が、王家の方針を発表した。

ランベール・モーリアックはモーリアック公爵家の長男である。

まあまあ常識的な選択に、集まった者達も納得の表情だ。

「レアンドルの考えはどうだ?」

「陛下の御心のままに」

国王に名指しで意見を求められたレアンドルは、肯定の意を示した。

「一つ宜しいでしょうか?」

シャヴァリエ辺境伯が挙手をした。

「発言を許す」

「有難うございます。

ランベール様は、これから王太子教育を受ける事となるのでしょうけれど、その終了には数年かかると予想されます。

考えたくは有りませんが、その間に陛下の御身にもしもの事があった場合、まだ若く教育も充分でない状態のランベール様が即位なさるのには少々不安が残りますよね?」

自身に不幸が降り掛かる事を想定した発言に、国王は分かり易く顔を顰めた。

「シャヴァリエ辺境伯、不敬ですよ」

宰相が窘めるも辺境伯は一歩も引かず、堂々とした態度で再び口を開く。

「国を想っての事ですので、寛大な国王陛下には何卒ご容赦願いたい。

私は、国政の安定を願うならば、最悪の事態も想定するべきだと考えております」

辺境伯の言う事も間違ってはいない。

レアンドルは叛意が無い事を示す為、アルフォンスがある程度の年齢になるまで子作りをしなかった。

だからランベールはまだ十五歳なのだ。昨日まで公爵令息だった彼は王太子教育も受けておらず、心構えも出来ていない状態。いきなり王になるのは難しい。

なんとか周囲が支えたとしても、他国に隙を突かれたり、情勢が不安定になる事が予想出来る。

国王は苛立ちながらも、辺境伯の懸念に答えた。

「では、万が一の事態が起きた場合は、ランベールの教育が終わるまでの期間のみ、レアンドルを国王代理に就かせよう。

それで良いか? シャヴァリエ辺境伯よ」

先代の王の時代、二人の王子のどちらが王太子になるかなかなか決まらなかった為、当時はレアンドルも王太子教育と同等の教育を受けさせられていた。

だから、もし仮に、レアンドルが今直ぐに玉座に座らされたとしても、問題無く国を運営していけるはずなのだ。

優秀なレアンドルを一方的に嫌っている国王は苦々しい表情だが、自分は健康そのものだし、万が一の事などどうせ起きないのだから問題は無いと思い込んでいる。

その『万が一』が健康上の問題とは限らないのだが───。

そう、彼は今、自分が嵌る落とし穴を自分で掘ったのだ。

シャヴァリエ辺境伯は、満足気に微笑んだ。

「お答え頂き有難うございます」

国王は鷹揚に頷き、宰相が再び口を開く。

「他に質問はございませんか?

無ければ、採決に移りたいと思います。

反対する者は挙手を───」

シンと静まった議場には、誰の手も挙がらない。

「では、満場一致で可決します。

これにて……」

「お待ち下さい」

閉会しようとした宰相の言葉を遮って、挙手をしたのはクリストフだった。

国王は嫌な予感を抱きながらも、クリストフに声を掛けた。

「デュドヴァン侯爵、なにか異議があるのなら申してみよ」

「いいえ。

先程の決定に異議は有りませんが、折角この国の中枢を担う方々にお集まり頂いているので、この機会にもう一つ議題を提供しようかと思います」

「議題……だと?」

「はい。

王太子殿下が廃嫡となった原因である此度の騒動について、他ならぬ国王陛下ご自身の責任についてはどうなさるのか、お聞かせ願いたいのです」

口元に笑みを浮かべてそう言ったクリストフの瞳には、静かな怒りの炎が灯っていた。

自身の責任を問う発言を受けた国王は、クリストフの絶対零度の眼差しに動揺して、直ぐには反論出来ずにいる。

その代わりに、顔を真っ赤に染めて怒りの声を上げたのは宰相だった。

「陛下に対して度重なる無礼な発言、流石に看過できませんぞっ!」

だがその瞬間、ボッという音がして、宰相の顔の前に小さな青白い炎が上がり、彼の前髪をチリチリと焦がした。

灰色の煙と共に、人毛が燃えた時の独特な臭いが漂う。

「ひぃっ……!!」

突然目の前に出現した炎に驚いた宰相は仰け反り、床に尻餅をついた。

「ザコは少々黙っていて貰おう」

低い声でそう言ったのは、シャヴァリエ辺境伯。

彼が無詠唱で魔法の炎を放ったのだ。