作品タイトル不明
53 義実家の夜会
「初めまして、僕はジェレミー・デュドヴァンです。
お祖父様とお祖母様とお呼びしても良いですか?」
ほんのり頬を染めて、少し緊張しながらそう言ったジェレミーの両手を握ったお義母様は、その手をブンブンと上下に振った。
「勿論よーーーっ!!
私がお祖母様ですよーー!
なんて可愛らしいのかしら? これから仲良くしてちょうだいね、ジェレミーくん」
わかりますよ、お義母様。そのお気持ち。
ウチの子、可愛過ぎますよね。
「はい、お祖父様とお祖母様にお会い出来て嬉しいですっ」
ハニカミ笑顔で元気に答えるジェレミー。
普段は厳めしいお義父様も、珍しく鼻の下を伸ばしたデレデレしたお顔でジェレミーの頭を撫でている。
私と旦那様は夜会に参加する為にシャヴァリエ邸を訪れていた。
折角なのでジェレミーも連れて行って、シャヴァリエの家族に紹介しようと言う事になったのだが……。
案の定、子供好きの義両親は、あっという間にジェレミーにメロメロになった。
「本当に天使みたいねぇ。
ディオンにもこんな頃があったのに、いつの間にか、あんなにむさ苦しくなっちゃって……」
「むさ苦しいとは失礼なっ!」
お母様の言葉にディオン兄が不服を示すと、ジェレミーが彼を見て首を傾げる。
「おじさんは、誰ですか?」
「初めまして、ジェレミーくん。
お兄さんはディオンって言うんだ。
ミシェルの義兄だから、君の伯父にあたる者だよ。
ミシェルとは、子供の頃からとっても仲良しなんだ」
ディオン兄に挨拶されたジェレミーは、珍しく少し不機嫌そうな表情になった。
「母様の義兄? じゃあ、やっぱりお兄さんじゃなくておじさんですよね?
それと、母様と一番仲良しなのは僕ですからねっ!」
そう言ったジェレミーは、私の腰にギュッと抱きついた。
やだ、どうしよう。本当に可愛過ぎる。
「おっ、チビの癖に一丁前に嫉妬か?
そーゆー所も誰かさんにそっくりだなぁ」
ハハッと笑ったディオン兄は、むくれているジェレミーの柔らかそうな頬をツンツン突いている。
「誰かさんって誰です?」
「分からないのか? ミシェルは意外と鈍感だからな」
揶揄う様にそう言われて、私は少々ムッとした。
「ディオン兄は、そうやってすぐ揶揄うんだから…。教えてくれないなら、もう良いです。
とにかく、ジェレミーもディオン兄も、ちゃんと仲良くして下さいね」
「……はーい」
渋々と言った感じで首肯したジェレミーは、ディオン兄と仲直りの握手をした。
一方、混ぜるな危険のお義父様と旦那様も、握手をしながら挨拶を交わしている。
「デュドヴァン侯爵も、良く来てくれたね」
「本日はお招き頂き有難うございます。
家族になったのですから、義父上も義母上も、どうぞお気軽にクリストフとお呼び下さい」
「ああ、そうさせて貰おう。これから長い付き合いになるのだからね」
ほのぼのした台詞とは裏腹に、二人の笑みは微かに黒い。
あと、長い付き合いになるかどうかは、まだ分かりませんっ!
「お義父様と旦那様は、随分と仲がよろしいのですね」
「そうなんだよ。
クリストフくんとは何度も手紙で遣り取りをしていて、狩りの話とかで盛り上がったんだ。
やはり、共通の趣味があると打ち解けるのも早いよな」
笑みを深めたお義父様の言葉に、うんうんと頷く旦那様。
何やら裏の意味を感じるのは私だけだろうか?
「狩り、ですか……」
その狩りの獲物って、鹿とか猪とか熊とかですよね?
まさか、とある高貴なホモ・サピエンスを標的にしてないですよね?
お願いだから、違うって言って。
「共通の獲物を狙ってるって分かったから、協力し合う事にしたのよね♪」
無邪気な顔して意味深な事を言うお義母様。
お義母様が言うと、もう、そういう意味にしか聞こえないんですがっ!?
「わぁ……。母様、凄く綺麗です。
女神様も嫉妬するくらいに美しいですね」
夜会用に着飾った私を初めて見たジェレミーは、大袈裟なまでに私を褒め称えてくれる。
「ふふっ。私の天使はどこでそんな素敵な褒め言葉を覚えてくるの?」
「この前読んだ小説に出て来ました。
でもきっと、その小説のヒロインよりも、母様の方がずっと素敵です」
旦那様が選んでくれたドレスは、私の瞳の色である水色の生地に、旦那様の瞳の色と同じ青色のレースの生地を重ねたデザインで、とても上品で美しい。
胸元と耳元を飾るアクセサリーの宝石は旦那様の髪色と同じ黒で、オニキスかと思いきや、なんとブラックダイヤモンドだった。
小振りな石ではあるが、値段を想像すると目眩がする。
落とさない様に気を付けねば。
「ああ、本当に美しい。想像以上だ。
瑠璃色の羽根を持った妖精みたいだ」
囁く様にそう言った旦那様は、微かに頬を染めている。
その後もジェレミーと旦那様の褒め言葉は止まず、私が「恥ずかしいので、もうやめて下さいっ!」と悲鳴を上げるまで続いた。
その夜開かれた夜会は、事前に言われていた通りのアットホームな物だった。
夜会が始まって暫くすると、ダンスの音楽が流れ始める。
「お嬢さん、一曲お相手願えませんか?」
「ふふっ。ええ、喜んで」
旦那様の冗談めかした誘いに、笑顔で答えた。
一曲目はデュドヴァン侯爵邸でも何度か練習した曲だったせいか、旦那様のリードも堂々としたものだ。
フィルマンとの秘密特訓の成果が良く出ている。
旦那様とフィルマンも、この曲を一緒に踊ったのかと想像して、つい口元が緩んでしまった。
「今日は楽しそうだな。来て良かった」
「はい。里帰りさせてくださって、本当に有難うございます」
「いや。ジェレミーは邸の外の人間との交流の機会が少なかったから、丁度良かったかもしれない」
踊りながら、ふと旦那様が向けた視線の先にはジェレミー達がいた。
今回の夜会は子供連れでの参加も歓迎されている。
人懐っこいジェレミーは、参加者が連れて来た同年代の子息達と直ぐに打ち解けて、一緒に軽食を楽しみながら談笑していた。
「それに着飾った君を見られたのも嬉しい。
普段の君も美しいが、ドレス姿もまた違った良さがあるな」
「そう、でしょうか? ありがとうございます」
甘い微笑みを向けられて、照れ臭くなった私はそっと視線を逸らした。