軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50 社交の誘い

衝撃のプロポーズからほぼ毎日、私の部屋に旦那様からの小さな花束やお菓子、メッセージカードなどが届くようになった。

特にメッセージカードは、小鳥や蝶、野の花などのとても可愛らしいデザインで、およそ旦那様がご自身で選んでいるとは思えないのだが、フィルマン曰く、「奥様のイメージに合わせて、旦那様がご自分で選ばれてます」との事。

これが彼の中での私のイメージだと思うと、嬉しい様な恥ずかしい様な……。

そんな旦那様と私は、約束通り、ジェレミーが部屋に去った後の時間を共に過ごしている。

最初の頃はお互いに緊張して、あまり自然な会話をする事も出来なかったのだが、そんな日々が二ヶ月も続けば流石に慣れて来た。

今は遠慮せずに言いたい事を言い合える様になって来たし、会話が途切れたとしても気まずい空気にはならない。

あの数日後に、医療機関の方へも旦那様に同行して貰い、無事に協力の約束を取り付ける事が出来た。

メルレ伯爵家のご子息が馬車の事故に遭われた時に付き添ってくれていた医師もその中に含まれていて、久々の再会を果たした。

彼は『奥様主導の実験ならば』と、自ら真っ先に手を挙げてくれたらしい。

薬草の実験の件は、色々と順調に進んでいる。

そんなある日、いつもの様に寝る前の僅かな時間を一緒に過ごしている時、旦那様が珍しく神妙な顔で私に頼み事をした。

「勝手なお願いで申し訳ないのだが、今後は私と一緒に、必要最低限の社交に参加して貰えないだろうか」

「それは……元々、旦那様が必要だと判断なさった物には参加しなければいけないだろうと思っていたので、全く構わないのですが。

寧ろ、何故今迄仰らなかったのです?」

お飾りであっても一応侯爵夫人となったのだから、義務は果たさねばならないと最初から覚悟をしていたのだ。

妻を伴った方が良い物があったのなら、言ってくれれば良かったのに。

「ミシェルは必要ならと言ってくれていたが、社交が苦手だとも聞いていたし、最初の契約の段階で『一切頼まない』と約束した手前、お願いし難くてな……。

当初は、私が君に触れられない可能性があったから、エスコートが出来ないならば夫婦での参加はそもそも不可能だろうと思っていたんだ。

だが今は、君の事だけはエスコート出来る。

いや、寧ろしたい。凄くしたい」

「……」

妙に力説されて、私は少し戸惑った。

(エスコート、そんなにしたかったの?)

切望されるのは嬉しい気もするが、部屋の隅に控えているフィルマンが生温かい目で私達を見ていて居た堪れない。

「それに君が同行してくれれば、他の女性は近寄って来難くなるだろう?」

「確かに、妻が隣について居れば、多少は女性避けになりそうですけど……。

逆に今迄はどうなさっていたのですか?

たまには夜会にも出ていらしたのでしょう?」

「護衛を帯同して、主催者に挨拶だけしたら、サッサと帰っていた。

多分他の参加者は、私が出席した事に気付いてすらいないだろう。

デュドヴァン家が所有している騎士団の中には、貴族家出身の者も多いから、王宮の夜会にも連れて行けるんだよ。

例えば、以前君が治癒したジャックなんかは男爵家の三男で、まだ実家に籍が残ってる」

この国では、王宮で開かれる王家主催の夜会や茶会の場合、貴族籍が無ければ会場に入る事は不可能だ。

逆を言えば、貴族籍さえあれば招待されていない下位貴族の者であっても、招待客の同行者としてならば参加する事が可能なのだ。

「稀に無礼な振る舞いをする者もいるから、君が一緒に来てくれる場合でも、護衛は連れて行くけどね」

常に護衛騎士を連れて参加していたのか。

下手をしたら好色じゃなくて男色の噂が立ちそうだなぁ……。と、一瞬思ったのだが、流石に口をつぐんだ。

まあ、そこに妻も加われば、今後はそんな噂が立つ心配も無くなるだろう。

「では、今後は私も出来るだけご一緒しましょう(男色の噂を予防する為にも!)。

今から多少は人脈を作っておかないと、ジェレミーが爵位を継承した時に困るかもしれませんしね」

私の言葉に旦那様はフッと小さく笑った。

「君は相変わらず、ジェレミーの事ばかりだな。

私も代替わりした後を考えて、なんとか最低限の夜会に出ていたのだが、挨拶だけするので限界だった。

君が付き添ってくれるなら、もう少しだけ頑張れそうな気がする」

「社交は得意では無いですが、私も頑張りますね」

「ああ。宜しく頼む。

手始めに、この夜会に参加しようかと思っているのだが……」

旦那様が私に一通の封筒を差し出す。

真っ白な封筒の中からは、金の箔押しで蔦の模様が描かれた、美しい一枚のカードが出て来た。

差出人の名を見て、私は勢い良く顔を上げた。

「これ……」

それは、シャヴァリエ家からの夜会の招待状だったのだ。