作品タイトル不明
42 似た者親子
今日も今日とて、朝から農作業。
とは言え、私は水を撒くくらいしか仕事が無い。
今日は、レオとチェルシーに加え、家庭教師の都合で勉強が休みになったジェレミーも、草むしりを手伝ってくれているから、あっという間に綺麗になってしまったのだ。
「皆様、そろそろ終了になさいませ」
グレースの声に、皆んなが一斉に立ち上がった。
「やっと終わった! あーー、疲れたぁ……」
ググッと腰を伸ばしながらそう言ったレオに、ジェレミーは冷たい視線を向ける。
「レオはさぁ、畑仕事の時だけ直ぐ疲れるよね。騎士の癖に、体力が無さ過ぎじゃない?」
「いや、逆に何で坊っちゃまはそんなに元気なんスか?」
などと言い合いながら、手を洗いに向かっている。
「奥様、私達も行きましょう」
チェルシーに声を掛けられ、私もジョウロを置いた。
あの後、旦那様は、新しい侍女を雇う事を諦めた。
その代わり、掃除や洗濯などの仕事も嫌がらずにやってくれる男性を何人か追加で雇用して、グレースとチェルシーを二人とも私の専属にしてくれた。
と言っても、何も私に付きっきりでいる必要も無いので、暇な時は今までの様に他の仕事もしてくれているらしい。
デュドヴァン邸に平和な日常が戻って来て嬉しい限りだ。
手を洗った私達は、ガゼボに集合し、グレースが淹れてくれた紅茶を楽しむ。
今日は、昨晩私が焼いておいたマフィンも提供した。
「母様、これ美味しいですね!」
両手で大事そうにマフィンを持って、モグモグしているジェレミーの姿は、小動物の様でなんとも愛らしい。
「そう? 気に入ったのなら、また作るわね」
チーズのマフィンとチョコチップのマフィン。
ジェレミーはチョコチップがお好みらしい。
「俺はこっちのが好きッス。ワインにも合いそう」
「ふふっ。晩酌用に一つ持ち帰っても良いわよ?」
レオが気に入ってくれたチーズ味は、甘さ控えめで、チーズの仄かな塩味と、アクセントに粗挽き胡椒が少し入っている。
大人の男性には人気がありそうな味だ。
「……あ、父様」
ジェレミーが建物の方に視線を向けてそう呟いたので、私もそちらを向くと、壁の影に誰かがサッと隠れた。
シルヴィが居なくなっても、視線を感じる事があるが、おそらくその正体は旦那様だと分かっているので、私は余り気にしていない。
旦那様ならば、きっと私を見ている訳じゃないだろうしね。
ただ、最近はその頻度がちょっと高い気がする。
新人侍女に出くわすリスクを考慮しなくて良くなったせいかな?
先程誰かが隠れた壁から、風に揺れる黒い髪の毛がチラチラと見え隠れしていた。
それを見て、レオがプッと吹き出す。
なんか、既視感。
ジェレミーと初めて会った時みたい。
前にも思ったけど、やっぱり親子って似るんだな。
「奥様、旦那様は仲間に入れて欲しいんじゃ無いっすかね?」
レオが可笑しそうにニヤニヤしながらそう言った。
「ええっ!? そうかしら?」
私は訝しみながら呟いた。
だって旦那様は女性が苦手なのだ。
他の女性に比べたら、私は少しはマシみたいだけど、それにしたって態々一緒にお茶を飲みたいだなんて思うだろうか?
もしかして、マフィンが大好物とか!?
「私もそう思いますよ。お声を掛けて差し上げたら如何でしょう?」
グレースまでもそう勧めるので、私は席を立ち、ソッと旦那様に近付く。
「旦那様」
壁に隠れてこちらに背を向けていた旦那様に呼び掛けると、彼はビクッと大きく肩を跳ねさせた。
「ビックリした……。
……ミシェル?……いや、あの、これは……」
しどろもどろになって、覗き見ていた事の言い訳をしようとしている旦那様がなんだか可愛らしく感じられて、思わず笑みが溢れた。
「今、皆んなとお茶をしていたのですよ。
もし宜しければ、旦那様もご一緒に、如何ですか?」
「私が参加しても、良い、のか?」
「ええ、勿論」
ちょっとだけ嬉しそうに頬を緩ませた旦那様の顔を見て、誘ってみて良かったと思った。