作品タイトル不明
28 突然の訪問者
更に数日が経過した。
ずっと探し続けているけれど、万年筆の行方は未だに分からぬまま。
でも、新たな宝物を手に入れた私は少しだけ心の余裕が出来て、気長に探せばいいと思えるようになっていた。
クヨクヨしても始まらないからね。
さあ、今日も元気に農作業に勤しみましょう!
作業中、急に立ち上がり周囲を見回した私に、レオが「またですか?」と、微かな緊張を滲ませて問い掛ける。
「ええ」
謎の視線は最近益々頻繁に感じるようになった。
「殺気とかを帯びていれば、流石に俺も気付くので、危険は無いとは思いますが……」
「そうよね」
デュドヴァン邸の敷地内だし、私もそういう心配はあまりしていないのだが……。
ただ、正体が分からないので、少し気持ち悪い。
気を取り直して、薬草がスクスクと育ち始めた畑に、ジョウロでたっぷりと水を撒く。
細かな水滴に強い日差しが反射して、小さな虹を作った。
「あ、ソレは雑草じゃないよ? 抜いちゃダメ!」
「マジっすか? ヤバっ!」
私が水やりをしている間に、レオとペネロープが草むしりをしてくれている事は、とても有り難いのだけど、レオは雑草と薬草の区別がイマイチついていないので目が離せない。
「奥様っ。
今日は日差しが強いから、帽子を被って下さいと言ったではないですか」
つばの広い麦わら帽子を手に持ったグレースが、慌てた様子でこちらに駆けて来た。
「ごめんなさい、つい忘れてしまったわ」
根っからのご令嬢と違って、元平民の私はあまり美容にこだわりが無い。
だから、こうして頻繁に侍女達にお説教されてしまうのだ。
「健康的になられたのは喜ばしいですけど、少しはお肌の事も考えてくださらないと」
「はい、気を付けます」
食事、睡眠に加えて、最近では農作業という適度な運動も始めたせいか、私はすっかり健康体になった。
長年消えなかった隈も消えたし、侍女の皆んなが手入れしてくれるから、髪の毛だって艶々のサラサラ。
あのガリガリに痩せて窶れていた頃とは別人のようだ。
今後は太り過ぎない様に気を付けなきゃと思っているのだが、チェルシーには『まだ痩せ過ぎです!』と言われてしまった。
私に帽子を被せたグレースは、ついでにタオルで額の汗を拭ってくれた。
「子供じゃ無いんだから、自分で出来るのに」
「ふふっ。私から見れば、奥様も子供みたいな物ですよ」
グレースを見ていると、シャヴァリエ家の侍女ロメーヌを思い出す。
どちらも母の様に優しい、大好きな人だ。
(ロメーヌにも会いたいなぁ)
そんな風にシャヴァリエ家の事を思い出していたせいか、懐かしい声が耳を掠めた気がした。
なんだか門の方から聞こえたみたい……と、その方向に顔を向ける。
心なしかそちらが騒がしくなって来た様だった。
「何か、揉めているのでしょうか?」
ペネロープが首を傾げる。
「ちょっと見てこようかしら?」
「何を仰るのです! ダメですよ、奥様」
グレースが止めようとするが、私は気になって仕方がなかった。
「大丈夫よ、離れた所から様子を見るだけだし、ちゃんとレオを連れて行くから」
そう言ってレオに視線を送ると、彼は渋々腰を上げ、膝に付いた土をパンパンと払った。
門の方へ近付くと、言い争うような声が聞こえて来る。
「やっぱり揉めてるみたいっすね」
「ええ」
「───だからっ!! お約束のない方は、どなたであってもお通し出来ないと言ってるでしょう!?」
「だからぁ、一応ミシェルに確認してくれって言ってるだろ!?」
苛立ちが混じったその声には、やはり聞き覚えがあって……。
「───奥様っ!?」
私は、レオが止めるのにも気付かずに駆け出した。