軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 興味深い論文

その日は朝から畑仕事に勤しんでいた。

剣の稽古場の隣にスペースを貰った私は、その場所で薬草を育てることにしたのだ。

薬草の種や苗は、予め庭師に頼んで手配して貰っていた。

お義母様が交渉して獲得して下さった王家からの慰謝料が送られて来たので、その一部を使って様々な種苗を購入したのだ。

「ああっ!! なんで俺がこんな事を!?

奥様、もしかしたらご存知無いかも知れませんけどねっ、俺は農夫じゃなくて騎士なんですよぉっっ」

ぶつくさと文句を言いながら鍬を振るうレオに苦笑を返す。

「知ってるわ。農夫ならもっと効率的に鍬を使えるもの。

はい、もう少しだから頑張って!

そんなに立派な筋肉が付いてるのだから、使わなければ勿体無いでしょう?」

「鬼ーーっっ!!」

どうやら剣術に必要な筋肉と、農業に必要な筋肉は種類が違うらしく、レオはヒーヒー言いながら屁っ放り腰で畑を耕している。

本当は私が一人でやるつもりだったのだが、ジェレミーとフィルマンに止められてしまったので、耕し終わった土に肥料を撒いて混ぜ込むだけの係をしていた。

「こう見えても俺は、風魔法を扱う上級魔法騎士なんですよ!

騎士としては旦那様に次ぐ実力を誇っているのです」

「残念ね。土属性だったら開墾ももっと楽だったのに……」

「役立たずを見る目で見ないで下さいっ!!」

不本意そうに口を尖らせるレオを笑っていると、視線を感じた気がして顔を上げた。

「……ん?」

「奥様、どうかしました?」

レオが私の様子に気付いて声を掛ける。

「いえ、気のせいだったみたい。

さあ、サッサと終わらせちゃいましょう」

「ちょっとは休みましょうよー!!」

悪態を吐きながらも指示に従ってくれるレオ。

後で筋肉痛にならないように、治癒をかけてあげようと心に決めた。

簡単な昼食を挟んで、なんとか開墾が終了したのは、夕刻近くだった。

私はレオの腰や腕に手を翳して魔力を流す。

「おおっ! 怠かった体が一瞬で楽になりました!

これなら明日も頑張れますっ」

「今日はありがとう。お疲れ様」

翌日は種を蒔いたり、苗を植えたりする作業を行う。

この作業はレオは勿論、ジェレミーやペネロープも手伝ってくれたので、比較的短時間で終わった。

女性は土いじりとか嫌がるかと思ったので、強制はしなかったんだけど、ペネロープは自ら志願してくれたのでお願いする事にした。

最初は彼女も土から這い出て来たミミズに悲鳴を上げていたが、すぐに慣れたようだ。

順応性が高くて素晴らしい。

皆んなのお陰で早く終わったので、ささやかな慰労会として、今日は協力してくれた使用人達も一緒にお茶を楽しむ。

昨夜、料理長に厨房を借りて私が焼いたクッキーを、グレースが淹れてくれた紅茶と共に、皆んなに振る舞った。

「でも、どうして急に、薬草を育てようなんて思ったんすか?

この国では薬草はなかなか育たないって聞いた事ありますけど……」

「実験よ」

レオの疑問に私が答えると、ジェレミーがリスみたいにクッキーを頬張りながら、キラキラした目を向けて来た。

「実験っ!?」

「うん、ワクワクしてる所ごめんね。

実験って言っても、ジェレミーが面白がるような物じゃないの。

王宮にいた時、古い論文を見つけてね。

それによると、本来、この国の土壌はあまり薬草の栽培に向いていないのだけど、土に光属性の魔力で浄化を施す事で土壌が改良されて、薬草の栽培が可能になる。

しかも、通常の物より薬効が高くなるんですって」

魔獣の森に隣接している我が国の土地には、動物の健康には全く影響しない程度の、ごくごく微量の瘴気が含まれているのだそうだ。

この大陸で生産されている薬草の多くは、瘴気を含んでいる土壌では育ち難い。

そこで光魔法の浄化によって、瘴気を取り除くのだ。

本来は土壌の改良と言えば土魔法の領域だが、薬草の栽培に関しては、土魔法の土壌改良ではあまり効果が無いとされているのは、瘴気が関係しているからなのだと論文の筆者は結論付けている。

因みに野菜や穀物などは、国内で生産しても、育成にも安全性にも問題がないらしい。

現在、この国で流通している薬の原料の殆どは、他国からの輸入に頼っている状態だ。

それが国内生産出来るならば、国内経済の活性化が見込めるし、薬価が安くなり、市井の人々も薬を買い求め易くなる。

実際にやってみると、魔力の使用量も然程多くなく、しかも薬効まで高いのならば、聖女が治癒で一人一人を治すよりもずっと効率が良い。

画期的な論文だと思うが、論文発表当時は全く注目されなかったらしく、王宮図書館の片隅に埃をかぶって埋もれていた。

何故なら、その当時は五十人以上の聖女がいたと言うのだ。

それだけ居れば、わざわざ薬草畑など作らずとも、治癒魔法をかけた方が簡単だと思われてしまったのだ。

そうは言っても実際に治癒魔法の恩恵を受けられるのは一部の人間だけなのだが、この国の中枢の連中はクズばかりだから、市井で暮らす民の事など全く考えていなかったのだろう。

私がその論文を見つけたのは偶然だけど、その内容にとても惹かれた。

残念ながら、あの頃は、実験をする暇など無かったけど。

「やっこう?」

「お薬の効き目の事ですよ。

『薬効が高い』は、とてもよく効くって事です」

耳慣れない言葉に首を傾げたジェレミーに、ペネロープが解説をしてくれた。

「そうよ。もし成功したら、治癒魔法を使うよりも沢山の人を助けられるでしょ?」

「ふーん……それが出来たら、とても凄いですね」

天使に『凄い』って言ってもらう為にも、私頑張るっ!!

そう決意した時、また誰かに見られているような気がした。

だけどやっぱり、視線の主は見つからなかったのだ。

部屋に戻った私は、栽培記録を付ける為にノートを開いて……。

その時漸く気が付いた。

旦那様に頂いたお気に入りの万年筆を、紛失してしまった事に。