作品タイトル不明
04 少年の看病
まずは少年でも食べられる、飲めるようなスープ作りだ。
叔母さんの家だが、調理道具は勝手に使わせてもらう。
といっても、あまり裕福な家ではなさそうで、道具も限られているが。
「お鍋さえあればなんとか……」
煮沸し、鍋も清潔にしておいた方がいい。
材料なんて探しに出ていく余裕はない。叔母さんの家に備蓄もない。
「なら、これしかないわよね」
私はイメージする。必要なのはシンプルなもの。
それを私のギフト、【植物魔法】で生成する。
「……まず一つずつ。イメージするのは…… ショウガ(・・・・) よ」
ショウガ。定番中の定番ね。
もちろん、食用・薬用になる根茎の部分を求める。
それを包丁で削いでいこう。
「う……」
包丁に錆が。叔母さん、いつから家にいないの……。
今はいい。考えない。
錆は浄化効果の適用範囲に入るか。とにかく今はやるしかない。
「 浄化(ピュアリファイ) 」
幸い、生活魔法の効果は有効なようで、包丁は使えそうな輝きを取り戻す。
欠けてはいないようだ。念のため、包丁も煮沸しておきたい。
どうにか準備をしつつ、ショウガの皮むきをし、千切りにしていく。
「あとは……ネギね」
これもまた定番中の定番。
異世界だからといって奇をてらった不思議な植物は望まない。
地味で、堅実な効果のあるものを望む。
冒険や新しい挑戦を楽しむのは、他人の命が懸かっていない時だけだ。
前世のイメージ通りの、台所で使っていたネギを生成すると、それを斜め切りに。
子供が飲むものだと考えて細かくしておく。
本当なら、もっと混ぜたいものもあるのだけど、この環境で用意できるのはこれぐらい。
今は料理に凝っている場合ではないのだ。
少年に早く栄養を与えないといけない。
刻んだショウガとネギを水に入れ、熱する。
生活魔法には軽い火を 熾(おこ) せるものもあるが、出力はせいぜいがライターの火だ。
ずっと燃やし続けるためには薪がいる。
王都や都市部であれば、生活魔法のアーティファクトによって、前世でいうガスコンロに近いものもあるのだが、あいにくとこの家にそんなものはない。
家の中にある薪は少量だ。なんとも心許ない。
叔母さんがいないことばかりが目についていたけれど、あの少年が叔母さんの子供だというなら、父親はどこに?
このご時世だ。亡くなっているのか、それとも。
「……嫌な話」
きっと少年を取り巻く真実は、目を背けたくなるようなもののような気がした。
でも、今はそういう考察もあと回し。
「薪が心許ないなら当然やることは一つ」
ただ残念ながら〝乾いた枝〟といったものは【植物魔法】ではできない。
前提のイメージとして、魔法によって〝今から生まれ、成長するもの〟なのだ。
要するに 生木(なまき) が基本である。
みずみずしいのだ。燃やすのには適さない。
「いえ、でも、ものは考えよう、使いようよ」
細い枝をイメージして生成する。できる限り乾いたものを。
それをさらに成長促進させていく。成長を促し、そして〝枯らす〟のだ。
こういう使い方は今までしたことがなかった。
必要がなく、求められていなかったから。
水を与えないで成長だけ促された枝は、まさに乾いた枝のよう。枝というか幹だけど。
細ければ細いほど使いやすい。少し太めのものは時間がかかる。
形状はある程度、生成・成長過程でコントロールできるみたい。
無理やりに乾いた枝を用意し、燃料を確保して調理を進めていく。
「……うん」
どうにかこうにか、ショウガとネギのスープを作ることができた。
子供でも飲めそうな熱量。でも温かい方がいいと思う。
きちんと自分で確かめてから。
味も意外と悪くなさそう。
私は少年にスープを持っていく。
寝てしまったのなら、そのまま寝かせてあげたいが……少年が、いつから食事をしていないかわからなくて、少しでも栄養を取らせたかった。
「起きて……スープを作ったわ。どうか、飲んでちょうだい」
「…………」
今にも儚くなってしまいそうな少年に優しく声をかけながら、スープを飲むことを促す。
手に持たせたら木製のスプーンを落としてしまいそうだから私が持って。
「ゆっくりでいいのよ。口に含んで」
「…………」
補助をしながら促すと、少年はゆっくりとスープを飲んでくれる。
急(せ) かさないように、少年の状態を観察しながら時間をかけて。
「……おいしい……」
「本当? 嬉しいわ」
ショウガとネギしか入っていないスープだけれど。悪くはなかったようだ。
「スープを飲んだら寝ていいのよ。汗をかいていて気持ち悪いなら私が拭いてあげるからね」
「……、……あり、がとう……」
「ええ、いいの。だって私とあなたは親戚、 従姉弟(いとこ) なんだもの。家族も同然よ」
「…………」
少年を安心させるように声をかける。そうしてしばらくすると少年は眠りについた。
呼吸はきちんとしている。死んだわけではなく、本当に眠っただけだ。
もしかしたら脱水だけじゃなく空腹なども発熱の理由なのかもしれない。
私は、そのまま少年の様子を見ながら看病を続ける。
少年の様子が幾分か落ち着いたのを見てから、改めて気づいた。
アレルギーとか……。だ、大丈夫よね?
今世でアレルギーという言葉は聞いたことがない。
でも、どう見ても人間は人間というか、前世と同じ生態だと思う。
だとするとアレルギー問題だってあるはずだろう。
なのであとから思い至って心配したが、ひとまず発作とかそういう症状は見られない。
今、少年はベッドで眠っている。呼吸は正常だと思う。
風邪などの病というより、脱水や空腹、体力の低下が原因の発熱だったのではないか。
そう思うけど、あくまで私は門外漢。少年が目覚めて元気になるまで油断はできまい。
「ふぅ……」
まさか叔母さんの子供がいたなんて。
家族ができていてもおかしくないことを失念していた。
でも、問題なのは。
「この家、ヘレーネ叔母さんが帰ってくるような気配がしない……」
少年が眠ってから改めて家の中を見て回った。
そう広くない、二階もなく一階だけの民家。
家具はあるが、薪や食料備蓄といった消耗品がほとんどない。
それに叔母さんの着るものとかも残されていない……。
この時点で、叔母さんがこの家に帰ってくる気がないとしか思えなかった。
誘拐の可能性とか、どうなんだろう。
叔母さんは今、三十代だろうか。
わざわざ誘拐する年齢層には思えないが正直わからない。
だけど事件である場合は、もっと家の中に生活感が残されていると思うのだ。
残された物の様子からして、本人が意思をもって家を出て、帰ってきていないとしか。
家出。それも子供を置いて。
……やるせない気持ちになる。許せないとも思う。
でも、叔母さんの事情まで私はわからない。
市井の民の生活の苦しさは前世の比ではないだろう。
子供を家から追い出すのではなく、大人である叔母さんが出ていくのは……なんだろう?
「……考えてもわからないわね」
あの子が無事に起きてくれたあと、いろいろと聞いてみるしかない。
「熱が引いて夜中に起きて不審者だって騒がれたら……」
心配にはなるけど、だからといってあの状態の子供を放置して出ていくのもだめだろう。
私は少年のベッドの横に椅子を運んで休ませてもらうことにした。