軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 バルナークの屋敷

そのあともフィン様といろいろと話し合いを重ねた。

私に隠すことはもうないだろう。

ああ、前世の記憶のことだけは言っていない。

言ってどうにかなるものでもないから。

混乱させるだけだと思うし。それで話はリーフのことに及ぶ。

村を出ていく時にリーフに話し、一緒に行くと決めたこと。

私はもう、あの子の〝母親〟なのだということ。

本当にすべて、余すところなく話した。私の生きてきた〝物語〟を。

「……そうか。すまないね、長々と話させてしまった」

「いえ、私も聞いていただけて、心が晴れた気がします」

「だといいのだが。それはそうと、キミたちの事情は概ね理解した。キミをバルナーク家で保護することは決定事項として、これからのキミの待遇だな」

「なんでもします!」

私はグッと前のめりになってフィン様を真っすぐに見つめる。

「意外かと思われるかもしれませんが、こういう生い立ちですので貴族関係の仕事も逆に使用人関係の仕事もどちらもこなせます! 掃除・洗濯・事務、なんでもお任せください!」

今の私は働く女性なのである。

うちには七歳の子供がいるのだ。ごはんを食べさせたい。

「お、おう……。それはありがたいが」

フィン様はなぜか頬を染めて、私から視線をそらした。

ぐいぐいと行き過ぎただろうか。

「コホン。あー。ただね、アーシェラさん」

「はい、フィン様」

「我がバルナーク領は今、困難な状況のうえ、人手不足だ」

「……それは、そのようですね」

「バルナーク領自体が余所と比べると、いろいろなことを、どうにかやりくりしているのが現状だ。嵐や魔獣などの被害もあったから、とにかく厳しい状況なんだ」

応接室に案内される際、屋敷にどうも人の気配がない気がしていた。

「フィン様、どこまでお役に立てるか分かりませんが。私の【植物魔法】を使ってください」

「うん?」

「ローデン侯爵家では、確かに使えないと言われましたが、あの時とは私の考えが変わりまして。他にはない植物を生成できるかもしれません。この力で、バルナーク領にしかない特産品などを作ることができるかも?」

あの頃の私と、今の私。何が違うか。それは前世の記憶の有無である。

といっても『七海』の記憶には、そこまで専門知識はないのだが。

トウガラシのように前世ではありふれていても、まだこの国にはない植物などがあるはずだ。

「何か考えがありそうだね」

「はい! 自信……は微妙ですが、やってみる価値はあるかと。もしかしたら、バルナークだけの特産品が作れるかもしれません。それが領地の助けになれば」

「バルナークの特産品、か。面白いな。もし、それができるなら。いや、それを作ろうとしてくれるなら」

フィン様はそこで立ち上がると私の前へと歩いてくる。

「キミは俺のビジネスパートナーだ。一緒に領地を盛り上げられるよう、手を取ってくれるかな」

そう言って私に向けて差し出される手。

それはフィン様が私を対等な人間として見てくれているようで。

なんだかとても嬉しい気持ちになった。

私はすぐに立ち上がり、彼の手を取る。

「はい! 私はこの力をバルナーク領のために使います!」

私たちは握手をしたまま、互いに微笑み合う。

そのあと、フィン様は部屋の準備をすると言い、その間、私はリーフェルトくんを迎えに行くように告げられた。

正式な私の待遇、及び契約は追って話し合うとのことだ。

けれど、ひとまず暮らす場所として、私とリーフはバルナークの屋敷に入らせてもらうことになった。

私は街の宿に戻り、リーフに今日のことを伝える。

「リーフ、フィン様と会えたよ」

「ほんとう⁉ フィンお兄ちゃん!」

「そう。それでね、話をしてきてね。これから住む場所と仕事ももらってきたの。もちろん、リーフと一緒よ」

「わぁ!」

私はリーフェルトくんと手を取り合い、喜ぶ。

さっそく宿を出る手続きをし、私はリーフの手を引いて再び領主の屋敷へ。

屋敷に着くと再び門番さんに出迎えられる。

挨拶を交わし、中へ入れてもらった。

「リーフ! よく来たな!」

「フィンお兄ちゃん!」

三ヶ月ぶりの再会で、ほんの少しの交流だったというのにリーフがよく懐いているのが伝わってくる。印象に残っていたのよね。

「アーシェラお母さんと一緒に来ていいって……」

「ああ。アーシェラさんと話してね。これからこの屋敷に住み込みで働いてもらおうと思っている。一応、使用人とその家族ということになるか。ちょっと待遇面については細かく話してからだな」

「フィン様、ありがとうございます。これからは『ご主人様』とお呼びするべきですね」

「あっ。使用人だとそうなるのか。それは……」

フィン様は視線を私たちから外し、そばに控えていた老齢の侍女へ向けた。

侍女は首を横に振った。ん?

「……ちょっとそれは待ってくれないか、アーシェラさん」

「はい?」

私は首をかしげる。

「アーシェラさんには働いてもらうと言ったけど、かなり特殊な状況になる。単純な使用人扱いをするのはおかしいかなと。どちらかといえば共同経営者に近い立場にいて、バルナーク領のために動いてほしい」

「共同経営者」

「ああ、だってそうだろう? キミの【植物魔法】で、バルナークの特産品を開発するというのならその担当者はキミだ」

「……ありがとうございます」

期待されているのだろうか。

フィン様の期待には応えたい。そう強く思った。

応接室に行き、私とリーフはソファーに座らされる。

そこでフィン様に何人か紹介された。

「こいつは門番をしてくれているゴンツ。馬の管理もしてくれている。妻もいて、街に家があるからこの家では暮らしていない」

門番さんだ。何度か顔を合わせた。

見た目の年齢は四十を越えているだろうか。

「こちらは、元は私の乳母で、今は侍女をしてくれている、料理も担当してくれているベラだ」

紹介されたのはフィン様のそばにいた老齢の女性。

年齢は定かではないが、かなりお年を召していらっしゃる様子。

背は小さく人柄は良さそう。

それより元乳母ということはともかく、侍女で料理も担当とは?

「こちらの彼女はリンダ。彼女も侍女をしてくれているが、メイドの仕事であるいろいろな雑務を行ってくれている。掃除や家内の家事全般担当だ」

「よろしくお願いします、アーシェラ様」

「こちらこそよろしくお願いします、リンダさん。私に『様』はつけなくていいですよ」

侍女で、メイドの仕事をしてくれているというリンダさんは比較的若い女性だ。

といっても三十代だろうか。他の二人よりは若い。

「彼女にも夫がいて、暮らす家は街にあるんだ」

若い女性なのでフィン様との関係など何かあるかなと思ったけど、結婚しているのね。

ちなみにフィン様は見た目的に二十代前半から中盤に見える。

前世だったらまだ大学生か、新卒社会人といったところだろう。

「以上が、我がバルナークの屋敷で働く精鋭たちだ」

「……はい?」

え? 精鋭?

私は紹介された三人とフィン様の顔を見比べつつ、何度か視線を往復させた。

最後にリーフと顔を見合わせる。

リーフはコテンと首をかしげるばかりだ。うん、かわいい。

「まさか」

「……以上が、この屋敷で働く、全員だ」

マジか。三人。三人? 思わず脳内で前世風の言葉遣いになる。

この屋敷の規模に対して、ずいぶんと少ないのでは?

「まぁ、いろいろと間に合っていなくてね。まだ俺が伯爵を継いで、そうは経っていなくて、とにかく人手不足なのが現状だ」

「もしかして魔獣討伐をフィン様が一人で担当されていたのは」

「それは、危険な魔獣討伐なんてできる人間が、この領地には俺以外にいないからだね」

フィン様は伯爵家の騎士ではなかった。

また騎士団のエースでもなかった。

でも、高位貴族の彼にしかできないことはあるのだろう。

「住み込みで暮らしているのは、侍女のベラぐらいなものだ。もちろん、俺も住んでいるが、部屋は十分に余っている。どこでも好きに使ってくれていいんだが、日あたりのよい部屋を掃除するから、そこを使ってくれればいい」

フィン様がそう言ってくれた。私はというと。

「……とても大変だったのですね、フィン様も、皆さんも」

そう言うしかなかった。

みんなが苦笑いしながら互いに困った顔を浮かべ合う。

何もわかっておらず、キョトンとした様子なのはリーフだけだった。