作品タイトル不明
10 遭遇
村の中と、近隣の村で対策を取りながら日々を過ごす。
それぞれ冬支度を始める時期だ。
私はなんだかんだで数年ぶりの市井での冬越し。
以前は教会にお世話になりながらだったし、新鮮ね。
お肉の燻製や塩漬けなどを村の人に教わりながらこなす。
食料は最悪、【植物魔法】でどうにかできると思うんだけど、寒さ対策がね。
この地方の雪はそこまでひどくはないらしいが……心配だな。
前世のように機械の暖房器具で空調をどうにかできるわけではない。
冬場の対策ができていないのは死活問題となる。
ある意味、今世で一番の試練かもしれないのが冬越しだ。
準備できるものはできる限りしてきたつもり。
村の人に聞きながら、必要以上に。
布を縫い合わせたものに『綿』を詰め込んだものとかまで用意している。
ちょっと趣味だけど。
枕というかクッションというか。
もっとがんばれば掛け布団にできるのだが中々難しい。
もちろん、これはこの世界にも元からある道具だが【植物魔法】を駆使したお手製だ。
つまりチートというより金銭の代わりに時間と労力をかけたシロモノである。DIYだ。
労力をかけたせいか不格好ながらもけっこう気に入っている。
冬に向けて何より心配なのは、子供であるリーフェルトくんである。
ちゃんと彼に冬を越させてあげることができるだろうか。これは命の責任だ。
出会った当初の弱りきった彼の姿が時折、脳裏にちらつく。
今は私が彼の保護者なんだもの。きちんと守ってあげなくちゃいけない。
「他に何か……そうだわ」
「どうしたの?」
「ちょっと思いついたことがあってね。やってみるわ」
「……? うん!」
私はいろいろな不安に対する、ある対策を思いついたのでその用意をすることにした。
ただ、村人に広めるのは……どうかな。なんか植生をぶち壊しそうだし。
扱いを考えると慎重にならざるを得ない。
たぶん、農村の暮らしレベルを考えると……この国にはない植物かも。
もし、私に前世の記憶なんてものがなかったら【植物魔法】でも生成できないシロモノだ。
その名は……トウガラシ。
たぶん、まだこの国にはない。
公爵家の料理にも出てこなかったはずよ。私が知らないだけかもしれないけど。
トウガラシを靴の爪先に入れておくと、辛さ成分で防寒になると聞いた気がする。
また、魔獣と遭遇した際に投げつけるための武器にしようと思う。
すりつぶしたトウガラシの粉が入ったトウガラシ袋の作成だ。
この地方にトウガラシがないということは、人間だけではなく魔獣にも辛さ耐性がないはずだ。
そんなものを目にぶつけられたら? 魔獣でもつらいんじゃないかしら。
とてつもなく取り扱いに注意なシロモノね。
やるなら絶対に私が管理しないと。
私も、リーフェルトくんにも、用心のために洗い流すようの水を常時持つようにしよう。
前世で見たような赤いトウガラシの実をイメージ。
トウガラシが赤くなるのはたしか完熟して緑の要素が分解されてからだったはず。
実際はたしか強い日差しが必要なんだっけ?
それに緑色のままの方が辛いと聞いたことがある。
でも、緑色のままだと他のものと一緒にしてしまいそうだし。
そうなると慣れない人たちが間違って食べて、それで毒だなんて思われたらたまらない。
【植物魔法】を駆使して赤い実を収穫するのがいいだろう。
ちなみに粉にするためのすり鉢的なものは、ちゃんとこの国にもある。
こういうのってはるか昔からあるものなのよね。
まぁ、地球の過去とは思えない場所だけど。
村ではその後も警戒しつつ、どうにか過ごしていた。
神父様の通達からすでに数週間過ぎている。
最初の警戒心も少しずつ緩まってきた。
だんだんと涼しいより肌寒さを感じるようになってきた頃合い。
それでも森に入る時は子供だけではなく保護者同伴と決まって、そのままだ。
魔獣の対処を村の大人ができるかという話もあるのだけど。
なおのこと子供だけを森に行かせるワケにはいかないだろう。
そんなワケでリーフェルトくんと一緒に森へ行く日だ。
「一緒ー!」
「ふふ、楽しみね。私はあんまり慣れていないからリーフェルトくんについていくわね。できれば奥までは行かないで、ゆっくり進んでほしいな」
「はーい!」
きちんと昼間、明るい時間に出発する。
森の奥に入りすぎないようにしないとね。
秋も半ばになったこの頃、葉の隙間から空がきちんと見えるようになっている。
「け、結構大変なのね、森歩きって……」
実は夏場、私は村でのお仕事をさせてもらっていたので、こうしてリーフェルトくんと一緒に森に入るのは初めてなのだ。
まったく来なかったわけではない。例の鳴子を仕掛ける時に私も来ている。
その時は他の村人と一緒だったけどね。
リーフェルトくんと違って、私に村人の引率がつくことはない。
大人なのだから自分で何とかするのがあたり前というわけだ。
農村はシビアなのである。
なので森に入る機会があまりなかった。
「足元、気をつけてね! アーシェラお姉さん!」
「うん、ありがとう、リーフェルトくん」
これは、本当にあまり長居は無理かもしれないなぁ。私の体力的に。
いつもより楽しそうなリーフェルトくんには悪いけど。
「あんまり奥に行っちゃだめだよー」
「はーい!」
鳴子を仕掛けた辺りから、かなり手前の一帯にとどまる。
「紐に引っかからないようにねー」
「はーい!」
リーフェルトくんは採取したものを籠に入れる。手慣れているなぁ。
私も一緒になって集める。
しばらく一緒にがんばって、採取したものをまとめて帰ろうとした時だ。
──ガサッ。
「……!」
……ゾクリ、と。身体が震えた。
あきらかに何かがそこにいるような音と、何かの気配を感じた。
まさか。よりにもよって私たちがいる時に現れるというのか。
それに、ここは鳴子が張られた一帯より村側のはず。
森の向こうから来たんじゃないの?
誰か他の村人であってほしい。或いは小型の、危険の少ない小動物か。
そう願いながら音のした方を振り向く。
リーフェルトくんは私のそばにいる。
音がしたことに彼も気づいたようだ。
おそるおそる私たちは音のした方角を見る。
『グルル……』
数十メートル先、そこにいたのは……え? 鹿(しか) ?
熊のような、私の知っている中ではっきりと害獣と呼べるものとは違うものがそこにいた。
ただし、そのサイズはとてつもなく大きい。
四、五メートル級の大きさで自動車なんかよりずっと巨体だ。
さらにその巨躯にふさわしい大角が生えていて、すさまじい威圧感を覚える。