軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皆で作りました

私の名は、カタリナ・クラエス、十歳。

公爵家の一人娘にして、この国の第三王子の婚約者であり……そして、この世界を舞台にした乙女ゲーム『FORTUNE・LOVER』の悪役令嬢である。

八歳のある日、頭をぶつけた拍子に前世の記憶を思い出し、ここが乙女ゲームの世界で、自分が破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまっていることに気が付いてしまった!

なので、私はゲームが始まる十五歳までになんとか破滅フラグを回避するために対策を立て、努力していたのだが……ここにきて大きな危機が訪れてしまったのだ!

それは、今朝のことだった。

いつものようにアンに布団をはぎ取って起こしてもらい、天気が良かったので『さぁ、畑作業に精を出そう』と、颯爽と庭に向かった私を待っていたのは……

無残に荒らされた畑の姿だった。

実っていた作物は穴だらけで、土の上に落ち、これから実りを迎えるであろうものも同じような有様。おまけにそこら中にべっとりと白いものが付いている。

クラエス家の庭に畑を作り始めはや数年、貴族の屋敷の庭ということもあり、狸や狐といった外敵が畑を荒らすことなく、虫の対策だけきちんとおこなっていれば、だいたい問題なかったのだが……。

ここにきてまさかの外敵が現れてしまったのだ。

庭は柵に囲まれているし野生動物も簡単に入ってこれないだろうと油断していたのだが……やつらは空からやってきていた。

チュンチュンと可愛らしくさえずるその姿は愛らしく、数羽が庭先に止まっているのは『可愛らしいな~』くらいの気持ちで見ていた。

ここのところ、どこから引っ越してきたのか、見かける数が増えてきたな~と感じてはいた。

しかし、まさか奴らがこんな風に私が丹精込めて作った畑を荒らすなんて……。

「くそ~、スズメのやつめ~!」

私は悪態をついた。

近づくと一時的に逃げ出すが、離れるとまた畑に戻ってようやく実ったものをつつき出す。

それをかなりの人数?いや鳥数でやるものだから、せっかくの野菜たちがなくなってしまいそうだ。

おまけにそこでフンもまき散らすので、そこら中、白いフンでべっとりだ。

これはまずい、何か対策を立てなければ!

議長カタリナ・クラエス。議員カタリナ・クラエス。書記カタリナ・クラエス。

では、今の状況を打破して畑の危機回避のための作戦会議を開幕します。

『え~、では皆さん、大切な畑を守るために意見をお願いします』

『は~い』

『……ちょっといいですか?』

『はい、どうぞカタリナ・クラエスさん』

『畑が荒らされてショックなのはわかりますけど、この案件、わざわざ作戦会議する必要あります?』

『まぁ、何、言ってるのよ!大切な畑が荒らされて危機的な状況なのよ!これは会議案件よ!』

『……でも畑は破滅フラグ関係には関係ないですし……』

『うっ、確かに土との対話にはならないってわかってからは趣味として楽しんでいるだけだけど……というか今は破滅フラグのことは一度、横に置いておいて、畑のことよ!』

『……いや、置いておいたら駄目でしょう破滅フラグ。カタリナの人生かかってますからね』

『だ、大丈夫よ、そっちの対策もばっちり立ててあるから……え~と、ヘビの玩具もだいぶよいものになってきたし、土ボコもこころなしか高くなってきたようなそうでないような感じだし!』

『ヘビの玩具は確かにクオリティもあがってきたけど、土ボコは最初の一年以降、まったく高くなってない気がするけど……』

『いえ、こう少し、数ミリだけど高くなったように感じる時があるわ』

『……それ気のせいでしょう。もう十五cmが限界な気がします』

『おっほん、破滅フラグ対策については色々としていますし、とりあえずはこうして集まったので、今は畑の対策について話しあいましょう』

『は~い』

『まぁ、そうですね』

『では、何かいい案のある方はいますか?』

『はい。畑に鳥避けをしたらいいんじゃない』

『鳥避けって例えば?』

『え、え~と、ペットボトルを置くとか?』

『それって猫じゃなかった?』

『あれ、そうだっけ。じゃあ、犬の匂いをつけるといいとか前世のおばあちゃんが言ってなかったっけ』

『それは狸対策とかだった気がするわ』

『じゃあ、鳥避けってなんだっけ?』

『……案山子とかでしょうか』

『そうだ。案山子よ!おばあちゃんは畑に案山子を置いていたわ!』

『いいすね。案山子を置けば鳥も人がいると思って近づいてこないかも』

『よ~し、じゃあ、さっそく案山子を作りましょう!』

『は~い』

こうして私は、案山子づくりに取り掛かることにしたのだが……。

「そもそも、どうやって作ったらいいのかしら、木があればできるのかしら?」

いまいち、作り方が分からず考えていると、義弟キースが、

「義姉さん、どうしたの?」

と優しく聞いてきてくれたので、ここぞとばかりに畑がスズメたちによって危機に陥り、その対策のために案山子を作ろうと思っている話をした。

「……鳥除けの案山子か……さすが義姉さんは考える事がすごいね。僕は聞いたことはあるけど、ちゃんと見たことがないから、庭師さんとか詳しそうな人に聞いてみる?」

「そっか!」

庭師のトムじぃちゃんとかに聞いてみればいいんだ。

私はさっそくトムじぃちゃんに案山子の作り方を聞いてみた。

物知りなトムじぃちゃんは、案山子の作り方を知っていて、こんな風に作るとよいと教えてくれた。

私は教えられたとおりに必要な材料をそろえた。

そして、手伝ってくれるというキースと共に『さぁ、案山子づくりに取り掛かろう!』と庭で準備していると、

「カタリナ、今度は一体、何をしようとしているんですか?」

この国の第三王子で、私の婚約者ジオルドがすっと現れて、笑顔でそう聞いてきた。

(ジオルドは屋敷にフリーパスで入ってくるので、いつも突然、やってくるのだ)

「ああ、ジオルド様、これから案山子を作るんですよ」

「かかしとはなんですか?」

おお、王子様は案山子を知らないのか、まぁ、王子様だものな。

「案山子は農村の畑とかにある人の形をしたやつですよ」

「ああ、遠目に見たことがある気もしますが、なぜそんなものを作るのですか?」

「それはですね――――」

私がスズメによる畑の危機を熱く語り、だから案山子を作ることにしたんです!と胸を張って答えると、ジオルドは俯いて肩を震わせた後で、(これはよくやるジオルドの癖である)

「なら、僕も一緒に手伝いましょう」

と言ってくれた。

ジオルドは畑仕事さえスマートにこなすスーパーハイスペックな人物なので、お手伝いはありがたい。

私は「お願いします」とジオルドにも協力を仰いだところに―――。

今度は、ジオルドの双子の弟アランと、その婚約者メアリも遊びにやってきた。

二人にも私たちがこれから案山子を作るのだと説明すると、アランは、

「いや、お前、畑だけでもあれなのに、鳥除けまで作るとか、もう何になる気なんだよ」

と爆笑し、メアリは、

「カタリナ様の大切な畑のために私にも協力させてください」

と言ってくれた。

しかし、ここまで人数が増えたなら、皆で一体の案山子を作るより、何体か作ったほうがいいのではないかということになり、じゃあチームを分けようかという話になった。

「僕はカタリナと一緒に作りますよ。なんせ婚約者ですからね」

「義姉さんは元々、僕と作るつもりだったんですよ」

ジオルドとキースがそんな風に言い始めると、

「カタリナ様、遊びにきました」

「お邪魔する」

ソフィアとニコルのアスカルト兄妹もやってきて―――案山子づくりメンバーはあっという間に七人にも増えたので、三体作ることにした。

「揉めると面倒だからクジにしよう」というニコルの提案で、クジにて三チームに分かれた。

「さぁ、じゃあ、頑張りましょう」

「はい。カタリナ様、素敵な案山子を作りましょう」

「私は可愛いのがいいです」

私、メアリ、ソフィアの女の子チーム。

「というか案山子ってどんなのなんだ? ニコル、わかるか?」

「ああ、前に農村の視察についていった際に見たことがある」

アラン、ニコルのチーム。

「……はぁ、なぜ、僕が君と二人で作業しなければいけないのでしょう?」

「ジオルド様、その台詞、そっくりそのままお返しします」

ジオルド、キースのチーム。

こうして皆でそれぞれに案山子を作った。

皆には畑のことも手伝ってもらっているけど、こうして違う作業を皆でするのもまた楽しかった。

そして、三体の案山子が出来上がった。

庭にならんだ三つの案山子、材料自体はそんなに変わらなかったはずなのに、かなりそれぞれの個性が出た形になった。

私たち女子チームの作った案山子は、ソフィアの「どうせなら可愛いものがいいです」という提案を受けて、フリフリ服で長い髪の可愛い女の子風だ。

ニコル、アランチームはニコルが以前、目にしたというものを忠実に再現したとのことだが……どうもそれが、がたいのいい男性風だったらしく……出来上がったのはマッチョ男性風の案山子だった。

そして、ジオルドとキースのチームは……すごくリアルな人間風の案山子を作り上げていた。

それは、なんでもできるジオルドと器用なキースの力が集結した芸術品のような案山子だった。

ただそんな案山子を見た皆の感想は、

「なんだか動き出しそうですわね」

「リアル過ぎて怖いです」

「なんでこんなにリアルに作ったんだよ」

「……」

といまいちだった。

そのため、

「人の形を作ると言ったので言われた通りにしただけです」

「……案山子を見たことなかったから。どんなのかわからなくて」

ジオルドはややふてくされた様子で、キースは少し困ったようにそう言ったが、私は二人の案山子を見て、これなら絶対にスズメも騙せると感動した!

「これだけ人間にそっくりならスズメも絶対に騙せるわ! 素晴らしい案山子をありがとう二人とも」

そう言って二人の手をとって感謝を述べると、二人は同じように少し俯き、

「……いいえ。こんなものなんてことないですよ」

「……うん。そうだよ」

と答えた。

なんだか様子がおかしな二人をよく見ると顔が赤らんでいた。

あ、しまった!

まだそんなに暑い時期ではないとはいえ屋外でかなりの長い時間、作業させてしまったので、のぼせてしまったんだ!

二人は特に大作を作ってくれたものね。

「気付かなくてごめんね。暑かったわよね。すぐに室内に入って水分補給しましょう!」

私ときたら、皆より精神的にお姉さんなのに、察しが悪くて申し訳ない。

私は慌てて、皆を室内に引き連れて、お茶を振舞った。

労働の後のお茶はまた格別に美味しくて、また皆で案山子を作ったのでその辺の話も弾んだ。

ジオルドやキースも、室内でお茶を取ったら、のぼせが落ち着いたようで顔色も戻っていてよかった。

そして、クラエス家の畑の周りには三体の案山子が置かれた。

女の子とマッチョ男性、そしてリアル人間風だ。

時々、見かけた使用人が人と見間違え驚きの声をあげていたが、お陰様でスズメの方も上手く騙せたようで寄ってこなくなり、畑の危機を脱することが出来た。