軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝負を変更しました

後日、アランが再び『勝負だ!』とやってきたのを余裕で打ち負かした。

その後も、たびたび我が家に『勝負しろ!』と乗り込んでくるアランを打ち負かす日々が続いた。

結構、頻繁にくるので今では割と仲良くなり、勝負の後には一緒にお茶をしたりする仲になった。

しかも、最近では負けっぱなしにも関わらずアランがなんだか生き生きして楽しそうに見える気がする。

気のせいだろうか。

そんな風に、なんとなくうまくやっていたのだが……

しかし、ついにその日がやってきた。

「ジオルド!?なんでここに!」

くしくもクラエス家の庭にてジオルドとアランが鉢合わせてしまったのだ。

片方は三日とあけずにやって来るし、片方は週一のペースでやって来るんだから鉢合わせてもなんら不思議ではない。

アランより少し多めの週二ペースのメアリは、すでにジオルドに挨拶済みだった。

ちなみにジオルドには、アランが勝負にやって来ることを少し話していた。

しかし、アランにジオルドが三日とあけずに来ていることは言っていない。

さすがに私がジオルドの婚約者であることは知っている様子だが……

ジオルドをだいぶ敵視している様子のアランには、ジオルドの話を振るのを躊躇われた。

そして、まったく交流のない様子の兄弟はお互いの予定を把握していなかったようで、こうして偶然に我が家で鉢合わせとなったのだ。

「なんでとは不思議なことを言いますね。ここは僕の婚約者の家なのですから、いても何もおかしくないでしょう」

ジオルドがそう笑顔で返す。

確かに、その通りだが、三日とあけずにやって来るのは来すぎだと思うのだが……

それとも皆どこもこんなものなんだろうか。

「……とにかく、今日はこいつと勝負するから、邪魔をするな」

アランはなんだがいつもより勢いがない。

いつもの俺様オーラはどうしたのだろう。

そんなどうも様子のおかしなアランに、こちらもいつもよりどことなく笑顔が嘘臭いような気がするジオルドが言う。

「その勝負なんですけど、もう何回もして勝てていないらしいじゃないですか?そろそろもう諦めたほうが良いのではないですか」

そう言ったジオルドの目はなんだかとても冷たかった。

確かにそれは私も薄々思ってはいたが……そんなストレートに言っちゃうなんて…

私はアランがまた怒り出すのではないかと恐る恐るアランの方を見たが―

その顔には怒りは見られなかった……

ただ、すごく辛そうな表情を浮かべていた。

「……だ、駄目だ!!まだ勝負はついてない!俺だってできる!俺だって……俺だって……」

なんだか切なくなるような必死な声でアランは叫んだ。

もう、アランの目にはジオルドしか映っていないように見える。

クラエス家の庭になんとも言えない空気が流れる。

き、気まずい……

私自身は蚊帳の外感が半端ないけど…この空気は気まずい。

よし、ここは何か別の話題でこの空気を変えなければ。

そしてそんな空気を払拭すべき、私は最近、常々考えていた提案をしてみることにした。

「……あ、あのアラン様。よろしかったら勝負の内容を変えてもよろしいでしょうか?あまり木登りばかりしていると、そろそろお母様にばれて怒られてしまうので」

実は、今はまだ奇跡的にお母様にばれていない木登り勝負だが、そろそろやばい気がする。

もう、私が木に登るのは諦めている様子のお母様だが、さすがに王子にも木を登らせていたとばれたならば、それは大きな雷が落ちるだろう。

アランの訪問時には、お母様の相手をしてくれている頼りになる義弟キースの話では、そろそろお母様が何か疑い始めている様子らしい。

ここはそろそろ勝負内容を変更しないと本気でまずい。

「……そういうことなら……では、何で勝負する」

「……う~ん」

やっとアランが私の方を見た。

さっきまでの気まずい空気も少し薄れた気がする。

よかったよかった。

しかし、自分から違う勝負内容にしてくれと言ったのはいいが……

正直、魔力もしょぼく学力も平均すれすれの私に勝負できることなんてあまりないのが現実だ。

それとも、いっそコテンパンに負けてしまえばアランも満足するのだろうか。

でも、それはそれで悔しい。

私が『う~ん、う~ん』と頭を捻っていると、アランの召使さんの一人が声をあげた。

「あの、ボードゲームなどなら怪我の心配などなくできるのでは」

確かに、ボードゲームならば怪我もなく、男女差もなくよいかもしれない……

しかし……前世の時から、トランプやオセロと言った頭を使う系なものはどうも苦手なのだ。

こちらで、はやりのチェスなんてさらに苦手だ。

できなくはないが、負けるのは悔しい。

私のだいぶ不服そうな様子を見て、召使さんはこれは駄目そうだと思ったらしく。

「では、楽器ならいかがですか?より上手に演奏できた方が勝ちということで」

新しい提案をしてくれた。

楽器か……ちなみにこちらでは楽器が弾けるのが貴族のステータス的なものがあるらしく、私もそうそうにピアノやバイオリンを習わされている。

前世ではリコーダーとピアニカしか演奏したことのない私だったが、現在では少しピアノが弾ける。

バイオリンは……残念ながら私には向いていなかった。

「私、ピアノならいいですよ」

私が元気よく答えるとアランも同意を示してくれた。

こうして、勝負は木登りから、ピアノの演奏対決へと移った。

一気に貴族らしい勝負になったな。

これなら、お母様に見つかっても雷は落とされないだろう。

そうして安堵する私の横では、アランの召使さんたちが『木登りが終わって本当によかった』と喜んでいる。

先ほどの楽器対決を提案した召使さんは他の召使さんから『よくやった』と褒められていた。

そうして皆、安心のピアノ対決のためにピアノのある部屋へと移動となった。

クラエス家のピアノは公爵家らしく大きく立派なピアノだ。

前世で音楽室にあったのよりずっと立派な感じがする。

演奏対決なのでアランの召使さんたちと我が家の召使さんたち、あとは一緒についてきたジオルドに審査をお願いすることとした。

こうして勝負の舞台は整いはじめに私、その後にアランが演奏することとなった。

私は椅子に座りピアノに向かった。

前世では猫ふんじゃったしか弾けなかった私が、今世のなんたらという子供用の練習曲を演奏した。

何度か小さな失敗したが、まあそこそこには弾けたと思う。

実際、ジオルドが「カタリナにピアノが弾けるんですね」と驚いていた。

それは褒めているのよね?

そして、続いて、アランがピアノに向かい演奏を始めた。

公平差を期すために曲は私と同じ子供用の練習曲だ。

同じ曲……のはずだったのだが、それはまるで別の曲のように部屋に鳴り響いた。

私をはじめ部屋にいた誰もが思わず息を飲んだ。

それほどにアランの演奏は素晴らしかった。

私は演奏に聴きほれた。

ただの俺様の我儘王子だと思っていたら、こんな素晴らしい才能を持っていたなんて驚きだ。

そうして、演奏が終わると私の演奏後にはおきなかった拍手がおこった。

「すごいわ。アラン様。本当にお上手です」

私は思わず声をあげた。

正直、音楽のことなどほとんどわからない私が聴いても上手いのがわかるほどだった。

しかし、肝心のアラン本人は固い顔をした。

「別に、たいしたことない」

「そんなことありませんわ。素晴らしい才能ではありませんか」

「……俺には才能なんて呼べるものはない」

なぜだか、褒めれば褒めるほどアランの顔は固くなっていく。

そして―

「カタリナの言うとおり、本当に素晴らしかったよ」

私と同じようにジオルドがその演奏を褒める。

「……思ってもいないくせに」

アランが吐き出すように言った。その顔は先ほどと同じひどく辛そうな表情だ。

「つまらないお世辞はやめろ!どうせ俺を何もできない出来損ないだと思って馬鹿にしているんだろう!」

アランは叫び。まるで何かから逃げるように部屋を飛び出して行った。

一体、何がなんだかわからなかったが……

こんなに激しく逃げられるとなんだか追いかけなきゃいけない気持ちになる。

突然のことに茫然としている召使さんたちをしり目に、私は少女漫画のヒーローのごとくアランの後を追った。

人は逃げてもなんとなく慣れた場所に行ってしまうというのは本当らしい。

アランはいつも私と木登り勝負を繰り広げている木の下にいた。

私が近づくと顔を少し上げたアランだったが、私の顔を確認するとまた俯いてしまった。

「……お前も笑いにきたのか」

「え?」

アランが呟いたが、私にはまったく意味がわからない。

何を笑いにきたというのか。特に愉快なことはなかったと思うのだが。

「……たかがピアノを少し弾けるくらいでいい気になるなと俺を笑いにきたんだろう」

「……ピアノを少し弾けるって……あれはもう少しのレベルではなかったと思いますよ。素晴らしい才能です」

あれだけの演奏を披露しておいて少しとはアランは俺様だと思っていたが、実は謙虚なのか。

あれを少しとされてしまうと私の演奏がそこそこからダメダメにランクダウンしてしまう。

「お世辞などいい。どうせ俺は何もできない。ジオルドの残りかすだ」

アランは俺様かと思ったら実はネガティブ王子だったようだ。

「……お世辞ではないんですけど……アラン様はどうしてそんなに自信がないんですか?」

「はっ。生まれてからずっとジオルドと比べられて、何をやってもあいつに勝てない。腹の中でジオルドにいいとこを全部、持っていかれた残りかすだと言われ続けて、どうやって自信など持てというんだ」

ああ、そうか。そういえばゲームでもそういう設定だった。

生まれた時からジオルドと比べられ何をやっても敵わない。

自分がどんなに必死に頑張っても、ジオルドは涼しい顔でその上を行くのだ。

たしかにそんな状況で、自信を持って頑張れなんて言われてもそう簡単にはいかないだろう。

なにせ、ゲームでは優しくて可愛い婚約者のメアリでもアランを救えなかったのだ。

それでもアランは決して劣っているわけではない。ゲームでは学園の成績だっていつもトップクラスだったはずだ。兄のジオルドが超人すぎるだけだ。

それに先ほどのピアノの演奏は本当に見事だった。アランには音楽の才能があるのかもしれない。

確かゲームで主人公にバイオリンを演奏してあげるくだりもあった気がする。

おそらく音楽に関してはジオルドよりも才能があると思う。

つまりは―

「……向き、不向きの問題だと思うんだけどな」

「……どういう意味だ?」

やばい。つい口に出してしまった。アランがめっちゃこっち見てる。

「えーと、その……ジオルド様にはジオルド様の得意なものや苦手なものがあって、アラン様にはアラン様の得意なものがあるのでしょうから、向き不向きがあって当たり前ですよという意味です」

しどろもどろになったが、なんとか説明した。

「向き不向きか……じゃあ、ジオルドに苦手なものはあるのか?いまだかつて聞いたことがないけどな」

確かに、何でもそつなくこなす天才ジオルドには苦手なものなどないように見える。

剣術の腕はもとより頭だって非常に良い。

こんなに我が家に遊びに来ているはずなのに……

ぽっと手伝ってくれた畑の収穫だって、明らかに私より効率よく早い。

できないことも、苦手なものもないのだろう。

私もずっとそう思っていた。

しかし……

「ふっふっふっ。ジオルド様の苦手なものわかりますよ」

「!?」

私は不敵に笑った。

実は最近、おそらくジオルドが苦手だと思うものに気付いた。

というより発見したと言った方がよいだろう。

私だって、最初はジオルドが完全無欠で苦手なものなどない王子様だと思っていた。

しかし、日々ともに過ごし、畑の収穫をおすそわけしたりと、近所のおばちゃん的な付き合いをするようになった今だからこその気づきもあった。

「ジオルド様の苦手なものそれはですね」

「……それは?」

固唾を飲んで見守るアランに、私は邪悪な笑みを浮かべる。

それは数週間前の話である。

その日はジオルドとメアリも来ていて、畑でおすそわけの野菜を収穫していた。

手伝いを申し出てくれたジオルド、メアリ、キースとで野菜をとっているとそれは現れた。

私の足元を通り過ぎようとしたそれを、メアリの方に行ったらびっくりするかなと思って捕まえた。

すると、それを見て近くにいたジオルドが飛びのいたのだ。

普段、冷静沈着な彼があんなに狼狽えた様子は始めてみた。

そして、気づいた。もしかして、ジオルドはこれが苦手なのではないかと。

アランに邪悪な笑みで微笑んでいると、なかなか帰ってこない私たちをジオルドが探しに来たのが見えた。

これはチャンスだ。

苦手かもしれないとは思っているが、確信はなかったのでここで試してみよう。

そうして私はいつか使おうと数日前からポケットに忍ばせていたものをつかんだ。

アランを引き連れ木の陰に隠れるとそこからジオルドの様子を窺った。

そして、こちらに歩いてきたジオルドの前に『それ』を放り投げた。

「うわ!?」

突然、目の前に現れた『それ』にジオルドが声をあげて飛びのいた。

そして、その顔はただ驚いただけというにはだいぶ狼狽えており、いつもの余裕な感じも見られない。

「これは間違いないわね」

私は木の陰で思わずほくそ笑んだ。

「おい、ちょっと待てジオルドの苦手なものって結局なんなんだ。そして今、一体、何を投げた?」

アランがいぶかしげに聞いてきたので、私は得意げに教えてあげた。

「あれはヘビですわ」

「ヘビ!?」

「……といっても作り物ですけど、本物だと動いてポケットにしまっておけないですから」

「……いや、それ以前にヘビはポケットに入れるものではないと思うが……というか今、なぜそれを投げた」

「ですから、ジオルド様の苦手なものを教えると言いましたでしょ」

「苦手なものって……ヘビが!?」

「そうですわ。薄々は思っていましたけれど、先ほどの反応で確信いたしました。ジオルド様はヘビが苦手なのですわ」

私が高らかに告げた。これは素晴らしい発見だった。

ついにあの完璧王子の弱点を見つけ出したのである。

ちなみに放り投げたおもちゃのヘビは紙を丸めて作成した私のお手製だ。

ジオルドの弱点を探るためにと準備しておいたのだ。

まだ、本物には似ても似つかないが、それでも効果はてき面だったようだ。

「……苦手がヘビって……いや、確かにひどく狼狽えてたけど……俺が言ってたのはそういうものの話ではないんだけど……でもヘビって……いや、でもすごい狼狽えてたな……」

なにやら一人ぶつぶつ言うアランを横に私は小躍りせんばかりに喜ぶ。

ジオルドの弱点を発見。これはいざという時に―破滅エンドを迎えた際にきっと役に立つに違いない。

そうして喜びに踊る私は背後から近寄るどす黒い存在に気が付かなかった。

「カタリナ。とてもご機嫌なようだけど、どうかされましたか?」

「!?」

振り返るとそこにはそれは美しい笑みを浮かべたジオルドが立っていた。

その手には私の放り投げたヘビのおもちゃがしっかりと握られている。

顔は笑っているのに目がまったく笑っていない。

「……ジ、ジオルド様」

「アランを追いかけていったまま二人ともなかなか戻らないから心配してきてみれば、これは一体なんなのだろうね」

そう言ってジオルドは握っていたヘビのおもちゃを私の前に掲げた。

「あの、えっとそれは……」

ジオルドのあまりの迫力に何の言葉も出てこなく、私はただ狼狽えた。

やばい、軽い気持ちで試してみようとしたら想像以上にジオルドを怒らせてしまった様だ。

そして見えていなかったはずなのに、ヘビのおもちゃを投げたのが私だと確信している。

なぜなのだ。

「カタリナは先月、九歳になったのだよね」

「……はい」

「九歳にもなった公爵家の令嬢がまさか自分の婚約者に、こんなおもちゃを投げつけたりしないよね」

「……うっ」

ジオルドの笑みが段々濃くなっていく。

……これは、怖すぎる。

もしかして、私このまま『ヘビのおもちゃ王子様に投げつけた罪』で国外に追放されるのかもしれない。

「そういえば、クラエス夫人は今日、お会いしていないけど、どうされたんですか?」

「…あ、キースとお茶をしているはずです」

突然、変わった話題に戸惑いつつ、私はあわあわと答えた。

すると、ジオルドはまたにっこりとほほ笑んだ。

「そうですか、ではぜひご挨拶をしなくてはいけませんね。アランとの木登り勝負のことや、カタリナがおもちゃを投げて遊んでいる話などをクラエス夫人とお話ししたいですね」

「!?」

なんと!?ジオルドはおもちゃのヘビを放り投げられた報復に私をお母様に売る気なのだ!

さすが、腹黒王子、恐ろしい奴だ。

そうして、お母様の所へと向かう腹黒王子を私は必死に追いかけ懇願する。

しかし、素敵な笑顔と嫌味を返されるだけである。

あぁ、私は怒らせてはいけない人物を怒らせてしまった。

絶望する私の背後から、なんだか声が聞こえた気がして、思わずジオルドを追う足を止め振り返るとすっかり忘れていたアランが―

耐えきれないといったように笑っていた。腹を抱え笑うその姿はまさしく爆笑だ。

アランめ、人の不幸を笑うなんて……まあ、自業自得ではあるのだが……

だが、今はそんなアランに構っている暇はない。

私は必死にジオルドを追いかけた。

しかし、私ごときが怒れるジオルドを止められるわけもなく……

私はお母様に隠していたアランとの木登りのことを知られ、ジオルドにヘビのおもちゃを放り投げたことを知られ……数時間にわたりお説教を食らうこととなった。

しかし、今回のことは災難ばかりではなかった。大きな収穫もあった。

ジオルドの弱点を見つけたのだ!

いざ、破滅エンドでジオルドに剣で切り付けられそうになった際には、ヘビのおもちゃを投げつけ、狼狽えている隙に逃げればいいのだ。完璧である。

私ったら、かなりの策士だわ。

学園に行くまでに、より精度の高いヘビのおもちゃを完成させ、常にポケットに忍ばせておかなければ!

こうして私はまた破滅エンドの素晴らしい回避案を見出したのだ。

ちなみにその後のアランだが、なぜかもう勝負を挑んでこなくなった。

しかし、勝負をしなくなってからも屋敷にやってくるのはなぜだろう……

しかも、いつの間にかジオルドとも普通に話すようになっている。

なぜだろう……

気にはなったが、今はそんなことに気を取られている暇はない!

私は来るべき日にジオルドを撃退するため、よりリアルなヘビのおもちゃを作成する必要があるのだから。