軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新事実が発覚しました

無事にお茶会を終えた数日後、約束通りにメアリはうちの屋敷にきてくれた。

なんとメアリは私の畑のために、野菜についても勉強してくれていた。なんて優しい子だ。

話をするうちに年も同じで、さらにメアリも魔力をもつ人であるとわかりすっかり仲良くなった。

はじめはかなり怯えられていたようだったが、今では笑顔もみられるようになった。

そして、その後も何度も様子を見に来てくれたメアリによって我が畑はすっかり復活した。

「メアリ。本当に、ありがとう。あなたのお蔭で畑もすっかり元気になったわ」

私は元気を取り戻した畑を見つめながらメアリにお礼を言った。

「いいえ、カタリナ様が頑張られたからですわ」

メアリがそう言って微笑む。

愛らしい美少女の微笑みは、それはそれは眼福だ。

「もう、枯れてしまうかもしれないと思っていたのに……メアリは本当にすごいわ」

「……そ、そんなことありませんわ」

メアリは謙遜するが彼女は本当に植物を育てるのがうまい、メアリの手にかかれば、枯れかけていた植物だって途端に息を吹き返すのだ。

メアリの手は特別なのだ。そういえばこんな風に特別な手のことを確か……

「メアリの手は緑の手なんだわ」

「……緑の手?」

「そう、緑の手。植物を育てる才能ある人の特別な手よ」

「……特別な手……」

「そう、メアリは植物を育てる才能にあふれた特別な手を持っているのよ!」

私はそう言ってメアリの両手を強く握った。

メアリは握りしめられた手を見開いた目で見つめている。

「……私の手が特別……」

「ええ、緑の手をもつあなたは特別で素晴らしい存在だわ!」

私がそういって笑うとメアリも微笑んだ。

それは花が咲いたような愛らしい微笑みだった。

「カタリナ様、畑は元に戻りましたけど……よろしかったら、またこちらに伺ってもよろしいですか」

「もちろん、いつでも遊びにきて頂戴」

どこか遠慮がちに言ってきたメアリに「大歓迎よ」と告げるとそれは嬉しそうに笑った。

「緑の手って素敵ですね」

メアリを見送ると、今まで私とメアリの横で大人しくしていたキースがポツリといった。

「確か、メアリのように植物を上手に育てることができる人の手をそういうのよね」

「そうだね。僕は『緑の手を持つ女の子』という物語を昔読んだのだけど、姉さんもその本を読んだの?」

「う~ん。本ではなかったと思うんだけど……何で知ったのかは思い出せないわ」

なぜだか、メアリを見ていたら突然浮かんできたのだ。

本当にどこで知ったのかしら?

「それにしても、メアリ様は本当に明るくなられたね」

「そうね。最初はだいぶ私に怯えていたから」

「え、姉さんに怯えていた?」

「……ええ、きっとこの悪役顔のせいよ」

驚くキースに私は自嘲気味に返す。

お母様から受け継がれた悪役顔遺伝子が本当に恨めしい。

「……悪役顔って……そんなことないと思うけど……。それと、メアリ様は姉さんにだけ怯えていたわけじゃないと思うよ。誰に対してもあんな感じだったんだよ」

「……え、そうなの?」

「うん、誰にたいしてもオドオドしている感じだったよ……きっと家で色々あってすっかり自信を無くしてしまっていたんだろうね」

「……家で色々って何かあったの?」

私が不思議に思って聞き返すとキースはあきれたというように返した。

「姉さんはハント家のお茶会で何していたの?お茶会で色々な話が聞けただろう」

「……うっ」

挨拶が終わってからはお菓子を持って帰れないかと考えるのに忙しく。

キースに見つかってからはお菓子をどれだけ食べて帰れるかに忙しかった。

よって、私はほとんどお茶会での話に参加していない。

まあ、だからこそボロがでなかったのだ。むしろ、そういう作戦だったのよ。

うん、そういうことにしておこう。

じっと私を見つめていたキースが何かをあきらめたようにため息をついた。

うん、なんかごめんよ。義弟よ。

そして、キースはお茶会で聞いたと言う話を私に教えてくれた。

なんでも、ハント家の四姉妹は、上の三人までは母親が一緒だが、四女のメアリだけ後妻さんの子で母親が違うのだという。前妻が病気で亡くなられその後、すぐにメアリの母親が後妻に入ったそうだ。

だが、メアリの母親はあまり身分の高い女性ではなく、ハント侯爵の再婚はあまり歓迎されなかったらしい。

しかも、そうして反対を押し切って再婚したメアリの母親もメアリが五つの時に病死したとのこと。

そうして、残されたメアリは父親にこそ大事にされてはいるが、姉妹たちには煙たがられているらしい。

そして、メアリは日々、「身分の低さが滲みでている」「品がない」などと姉たちに悪く言われているらしい。

「……それで、メアリは最初、あんなにオドオドした感じだったのね」

確かに日々、身内に悪く言われ続ければ、自信などなくなるだろう。

自分は駄目だと思い込み、人前に出ることも怖くなるのかもしれない。

「でも、だいぶ変わったみたいだから、メアリ様はきっともう大丈夫だよ」

キースがなんだか、何かわかっているような顔をして言った。

しっかりものの義弟は他にも何か知っているのだろうか。

聞いてみたけど、軽くかわされてしまった。

来た当初こそ私の後ろをピョコピョコついてきた義弟は、たった数か月でなんだかすっかり大人びてしまった。

マナーも学問も魔力の訓練も必死に取り組んで、どんどん大人びていく義弟に「そんなに急いで大人になることないのに」と言ったら「早く力をつけて守りたいんだ」と、とても大人びた表情で言われた。

正直、非常に寂しい気持ちになった。

しかも、その守りたいものとやらも教えてもらえず、お姉ちゃんはすっかりいじけてしまった。

「そういえば、メアリ様はそろそろアラン王子との婚約も決まる頃だね」

「…へぇーそうなの」

適当に相槌を打ちつつキースを見る。

もう少し可愛い義弟でいてもいいと思うのに、どんどん大人になっていってしまうなんて……

しかも、守りたいものってなんだ。もしかして、誰か好きな子でもできたのだろうか!?

ちょっと、まずはお姉ちゃんにちゃんと紹介しなさい!変な子だったら許しませ……

……ん?いまキースなんて言った。

「……キース。いまなんて言ったの?」

「……姉さん」

キースがまたあきれた顔をする。すみません。

「メアリ様はそろそろアラン王子との婚約も決まる頃だねと言ったんだよ」

「……え?メアリが誰と婚約ですって……」

「アラン王子だよ。ジオルド王子の双子の弟でこの国の第四王子のアラン様」

「!?」

「メアリ様は今のところアラン王子の婚約者の有力候補なんだよ」

「……アラン王子の婚約者?」

「まだ確定じゃなかったけど、そろそろ決まるんじゃないかな。ハント家は侯爵家の中でもかなりの資産家でその地位も高いし、アラン王子と年も同じでちょうどよいってことらしいけど……って姉さんどこいくの?!」

キースの説明も半分に、私は部屋へと走り出した。

アラン王子ことアラン・スティアートは主人公の攻略対象の一人だ。

部屋に戻って早急に『前世でのゲームの記憶を書き出した帳』を確認しなければならない。

部屋に戻るとすぐに机から『前世でのゲームの記憶を書き出した帳』を引っ張り出し、件のアラン王子のページを広げた。

アラン・スティアート。

ジオルドの双子の弟で、国の第四王子である。

五歳をすぎるまで、かなり病弱で生死をさまよったこともある。

そのため、まわりから過保護に育てられ、やや甘えん坊な俺様王子に育つ。

しかし、何をしても出来の良すぎる双子の兄と比べられるため、少しひねくれている。

常に自分の上を余裕でいく兄ジオルドに激しいライバル意識と強い劣等感をもっており、兄とはほとんど交流をもたない。

そんなアランは学園に兄とともに入り、常に兄をライバル視して学問、魔力の訓練に励む。

そんな中、はじめての学術テスト結果がはりだされ、アランの順位は三位だった。

一位は兄のジオルド、二位は主人公だ。兄にも敵わないばかりか、平民の女の子にも負けてしまったアランは、今度は主人公もライバル視して絡むようになる。

そうして、主人公と関わるうちに明るく前向きな主人公と恋に落ちるのだ。

そして、主人公に「アランはアランのままでいいのよ」と言われ兄への激しいライバル意識、強い劣等感はしだいに薄れ、やがて兄のジオルドとも交流をもつようになる。

ちなみにアランのルートには悪役カタリナ・クラエスは登場しない。

平民で成績のよい主人公を多少いじめるが、ジオルドやキースの時ほど出張ってはこない。

代わりに別のライバルが登場するのだ。

それが、アラン王子の婚約者、メアリ・ハント侯爵令嬢だ。

アラン王子を心の底から慕っているメアリは、主人公に嫉妬するが……

カタリナのように嫌がらせはしない。

メアリは主人公の前にそれは素晴らしいご令嬢として立ちはだかる。

マナーやダンスなどで平民との違いを見せつけ、堂々と主人公のライバルとして立ちはだかる。

ジオルド王子がカタリナにまったくの無関心なのに対して、アラン王子は恋愛感情こそないが、メアリを可愛い妹のように思っていて二人の仲はとても良好である。

ゲームの最後もカタリナとはまるで違う。

主人公がアランを攻略成功し、ハッピーエンドを迎えるとー

メアリは主人公にアランを譲り、「これからもアラン様を支えていってください」と祝福する。

ただ、その瞳には涙が浮かんでいてとても哀れさを誘う。

そして、主人公がアランを攻略失敗し、バッドエンドを迎えるとー

アランは当初の予定通りメアリと結ばれ、めでたしめでたしとなる。

この情報を前に私は強く思う。

なんでカタリナだけ!!

同じライバルキャラなのになぜ、メアリには破滅はないの!

そもそもメアリはライバルなのになんでこんな素敵なキャラなの!

なぜ、カタリナだけがひどい悪役なの!!

制作スタッフどういうつもりだ!なぜ、カタリナだけこんな残念な感じにした!

設定かわいそうすぎるでしょ!

あんたたちも一度、カタリナ・クラエスに生まれ変わってみればいいのに!

それにアランなんか、ハッピーでもバッドでも幸せってどんな贔屓だ!

ジオルドやキースなんかバッドだとカタリナ殺して犯罪者として姿を消すのに!

理不尽だ!制作スタッフ許すまじ!

もう一度、前世に戻れるなら、この乙女ゲームの製作会社に乗り込んで文句いってやりたい!!

……と、熱い思いをかなり放出しつつ改めてページを見つめる。

『メアリ・ハント』間違いなく、私の優しく可愛い友人のことのようだ。

ゲームのメアリは堂々とした完璧な令嬢だったので、いまのどこかオドオドしたメアリとまったく結びつかなかった。

そもそも、ゲームではカタリナとメアリに友人関係はなかったような気がする。

むしろ、親の権力に物を言わせて好き勝手するカタリナを、メアリはあまり好ましく思っていない様子だったはずだ。

まさか、メアリが私と同じライバルキャラだったなんて。

しかし、今のメアリからはアランのアの字も出てこない。

婚約はまだ決定していないらしいし、きっとまだ出会っていないからなのだろう。

たしか、二人の出会いはアランルートで主人公がメアリと対じした際にメアリの口から語られていた。

幼い頃、母親違いの姉妹に煙たがられていたメアリは、姉妹たちから日々、悪く言われて育ち、すっかり自信をなくし自分は駄目な人間だと思いこんでいた。

そんな、メアリの前に現れたアラン王子が、メアリが育てていた庭をみてメアリを褒めてくれた。

「メアリはすごいね。緑の手を持っているんだね」

緑の手と言うのは植物を育てる才能のある人が持つ特別な手だという。

そして、緑の手をもつメアリは特別で素晴らしい存在なのだと王子は言った。

メアリはアラン王子の言葉で少しずつ失っていた自信を取りもどした。

そうして、気づけばアラン王子を誰よりも好きになっていたのだ。

それからのメアリはアラン王子の隣に立つのに、ふさわしい存在になろうと日々、努力を重ね、学園に入る頃には誰もが称える立派な令嬢となるのだ。

ジオルド王子の後ばっかり追いまわして学問も魔力も疎かにしていたカタリナとは大違いだ。

メアリは本当に素晴らしい。

緑の手をもつメアリは特別で素晴らしい存在か…アラン王子も素敵なことを言うわね。

……緑の手……そうか!?私はこのゲームで緑の手のことを知ったのか。

ああ、ようやく思い出せてすっきりだわ。

そうか、アラン王子がメアリに言ったことだったのか……

緑の手を持つ特別な存在ね……

あれ?私、この台詞さっきメアリに言ったよね……

……やばい!?私、アラン王子の台詞を先に使ってしまった!?

まさかの王子の名台詞をパクったうえに先に使っちゃうなんて!!

どうしよう、これアラン王子、二番煎じになっちゃうよ。

せっかくの名台詞も二回目じゃ、威力が半減だよ。

ああ、私の馬鹿たれ、もっとはやく気が付いていれば……

私はしばらく部屋でひとり悶え反省したが……

まあ、言ってしまったものは取り消せないので仕方ないわ。

という感じに開き直った。

それに、アラン王子は乙女ゲームの素敵な王子様なのだから、ひとつ台詞を取られたくらい大丈夫よ。

きっと、もっと素敵な台詞を駆使してメアリを魅了するわよね!

私が一つ台詞を取ったくらいなんともないわ!問題なしよ!

最終的にそう結論を出した私は、気持ちを切り替え、置き去りにしてきたキースの元へと戻った。

★★★★★★★★★★★

メアリ・ハントというのが私の名前だ。ハント侯爵家の四女として生まれた。

私のお母様はとてもきれいな人だったけど、身分が低いということで屋敷ではあまりよく言われていなかった。

それでも、お父様とお母様にはとても可愛がられていた。

ただ、三人の姉たちにはあまりよく思われていないようだったけど……

しかし、お母様が亡くなってしまうと―私を取り巻く環境は一変した。

お父様はお仕事で家を空けていることが多かったため、お母様を失うと私の居場所はほとんどなくなってしまった。

もともと召使の人たちも身分の低い身で侯爵家に嫁いできたお母様にあまり寛容ではなかったため、その娘である私にもあまりよくはしてくれなかった。

そして、三人の姉たちはお母様という後ろ盾を失くした私に嫌がらせをするようになった。

物を隠されたり、壊されたり、たくさん悪口を言われるようになった。

「赤褐色の髪の汚らしいこと」「身分の低さがあふれ出ている」「品がない」

日々、繰り返される悪口や嫌がらせに私の心はすっかり弱って、人と接することが怖くなり、いつも怯えていた。そして、そんな自分がどうしようもない駄目な子だと思うようになっていた。

私の唯一の逃げ場は中庭だった。そこでひっそり植物の世話をしている時だけが私の安らぎだった。

そんな、ある日、ハント家で開かれたお茶会で私は彼女に出会った。

怯えてばかりの私とは対照的に堂々とした少女はカタリナ・クラエスと名乗った。

初対面の私たちに堂々と素晴らしい挨拶を返すカタリナは、まるで私とは別世界の人のように見えた。

人が怖くて弱虫な私はお茶会も半ばで、限界をむかえた。

そして、そうそうにいつもの中庭に逃げ込んでいた。

そこへ、件のカタリナ・クラエスが現れたのだ。

颯爽と庭に降り立ったカタリナは私の世話している庭を絶賛してくれた。

こんな風に誰かに褒められたのはお母様が亡くなられて以来で、私はすっかり萎縮してしまった。

そんなカタリナは、私に自分が作っている畑の具合が悪いので見て欲しいと頼んできた。

正直、公爵令嬢が畑を作っているという事実にはひどく驚いたが、瞳をキラキラさせて熱心に畑について語るカタリナはとても可愛らしかった。

そうして、成り行きからクラエス家に出向き、畑の世話を手伝うこととなった。

私は少しでもカタリナの役に立ちたくて野菜についても必死に勉強した。

カタリナはいつも堂々としていて、明るく前向きで、とても素敵だった。

そして、そんなカタリナに褒められるたびに私は少しずつ失くしていた自信を取り戻していった。

「メアリは植物を育てる才能にあふれた特別な手を持っているのよ。緑の手をもつあなたは特別で素晴らしい存在だわ」

私は自分を臆病者で弱虫のダメな子なのだと思っていた。

でも、カタリナはこんな私を特別だと言ってくれた。素晴らしい存在だと言ってくれた。

すごくすごくうれしかった。

私はカタリナの友人として隣に立つのにふさわしい存在になりたいと思った。

だから、臆病者で弱虫なメアリ・ハントとはさよならする。

きっと、いつかカタリナの隣に堂々と立てる存在になるために。