軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お茶会に招待されました

季節は流れもうすぐ夏がやってくる。

私、カタリナ・クラエスは九歳となった。

誕生日プレゼントにお父様からは可愛らしいドレスを、キースからは花束をもらった。

そして、お母様からは山のようなマナーの本を押し付けられた。

ジオルド王子は、なんだか高価そうな宝石のついたネックレスを持ってきてくれたが……

そんな高価なものは貰えないので、全力で受け取りを拒否させてもらった。

それでも、なにか贈らせて欲しいと言ってきた王子には、スイカの苗をお願いした。

我が畑にフルーツが欲しいと思っていたのだ。

苗を頼むと王子はしばらく固まっていたが、翌日には立派な苗をいくつも届けてくれた。

さっそく、畑に植えさせてもらった。

スイカが実ったあかつきには王子にもおすそわけしよう。

ちなみに娘大好きお父様は私の誕生日に盛大なパーティーをもくろんでいたらしいが……

私がひどく嫌がったのと、お母様の「恥をさらすだけなのでやめてください」との助言により見送られた。

それでも、社交界へのデビューとなる十五歳の誕生日には公爵家の面子としてパーティーを開かなくてはいけな

いらしい。

「それまでには何とかしないと」とお母様は今から意気込み、私はただでさえスパルタなお母様のマナー訓練がよりパワーアップすることを恐れている。

念願の魔力の家庭教師もきて、魔力の訓練も始まった。

魔力の先生から「己の魔力の源との対話は土と話をするという意味ではありません」と教えられ、どうやら畑作りは魔力磨きにはならないと知った。しかし、すっかり趣味となったので続けている。

魔力の訓練が始まり数か月、キースは魔力をだいぶコントロールできるようになった。

さすが、私の義弟だ。

私はといえば……なんと、土ボコが二、三センチから七、八センチまで高く上がるようになった。

我ながら、なかなかのものだ。この分なら、キースのように土の人形を自在に操れるようになる日も遠くないだろう。

こうして、すべてが順風満帆とは言えないが、それなりに充実した日々を送っていたのだが……

「……はあ。どうしてかしら」

私は畑にしゃがみ込み大きなため息をついた。

そんな私の横には、すっかり私に懐いてくれた可愛い義弟キースと、三日とあけずに通ってくる婚約者のジオルド王子が並んで立っている。

「どうしたの?姉さん」

「どうしました?カタリナ」

キースとジオルド王子が聞いてくる。

そんな、二人に私は畑の一角を示す。

「これをみて」

そうして私が指した部分の野菜たちはすっかり萎れている。

もうすぐ収穫の時期を迎えるというのに……これでは実をつけそうにない。

「ここ、私が植えて世話をしている所なの」

私はしょぼんとうなだれた。

……どうして私が植えて世話をした所だけ……

前世の私はあまり植物の世話が得意でなかった。

朝顔の鉢から、クラスのみんなでつくったヘチマまで、私が世話した植物はだいたいが枯れてしまった。

だが、私は生まれ変わったのだ。きっと今度はうまく育てられるはず!

……と思っていたのに。

私は萎れた野菜たちをせつない目で見つめた。

「姉さん、ずっと作業で疲れたんじゃない。ちょっと、こっちで休憩しようよ」

「そうですよ。カタリナ、こちらで少し休まれたほうがいいですよ」

うなだれる私にキースとジオルド王子が声をかけ、それぞれ手を差し出してくれる。

二人はお互いの手を私の方に差し出したまま見つめあった。

「ジオルド様、姉さんは僕が連れていきますから。それにこう毎回、出向いてきていただかなくても結構ですよ」

「カタリナは婚約者である僕が連れて行くよ。キース、お前こそ毎回、カタリナにべったりついてこなくてもよいのだよ」

ゲームでは、ほとんど接点のなかったはずの二人だが、今ではすっかり仲良しのようだ。

笑顔で見つめあい、おしゃべりしている様子はとても楽しそうだ。

そんな、二人を横目に私はもう一度、萎れた苗たちを見つめ大きなため息をついた。

★★★★★★★★★★★

「カタリナ、お茶会の招待状が届いているのだけど、行ってみるかい?」

「…おちゃかい?」

私はパンを口いっぱいにほおばりながらお父様に聞き返す。

そして、お母様にギロリと睨まれ、あわててパンを飲み込んだ。

「そうだよ、お茶会。九歳になったことだし、そろそろ行ってみてもいいんじゃないかい」

こちらでのお茶会は、九、十歳くらいから参加して十五歳の社交界デビューに備えるのが一般的とされ

ている。同年代の貴族の子息、令嬢で集まり交流を図るのが目的だ。

「そうで……」

「無理です!旦那様、カタリナはこの通りまったくマナーがなっていないのですから!」

私の返事をお母様が勢いよくさえぎる。

「それは、まあその通りかもしれないけど……やっぱりマナーも実践で学んだ方が少しは身につくかもしれないよ。それに今回はうちの親戚筋からの招待で、まったくよその家というわけではないから、初めて参加するには丁度よいと思うんだ」

お父様はちらりと私の顔をみて目をそらした。

ん?お父様いまその通りとか言いましたか?なんで目をそらしたのですか?

「……確かに、実践で学べば少しは身につくかもしれませんが……」

お母様が虚ろな目を私に向ける。

なんですか、その目は?

「そうだ、キースにもついて行ってもらったらどうだい。キースがいれば安心だろう」

「…そうですわね。キースについて行ってもらえば少しは安心ね」

お父様が名案だという風に言えば、お母様もそれに同意する。

数か月で、かなりしっかりしてきた義弟の評価は姉と違ってうなぎのぼりだ。

「キース、カタリナのお茶会についていってくれないかい?」

「はい、姉さんと一緒なら喜んでいきます」

お父様に頼まれ、できた義弟キースは笑顔で答える。

あれ?私、姉なのに?なんかキースに付き添われないとダメな子?

色々、腑に落ちない点もあったが、こうして私はキースとともに初めてのお茶会に参加することとなった。

★★★★★★★★★★★

お母様からみっちりマナーの訓練と、たくさんの小言を受けて、ついにお茶会当日を迎えた。

お父様がこの日のためにと新調してくれたドレスを着せられ、キースとともにお茶会の主催であるハント侯爵家にやってきた。

「カタリナ様、キース様。本日は我が家のお茶会へのご参加ありがとうございます」

そう言ってカタリナとキースを迎えてくれたのはハント家の長女リリア・ハント令嬢だ。

蜂蜜色の髪に瞳の彼女は、年は十四歳でもうじき社交界にデビューされる予定だという。

リリア嬢の後ろには少女が三人立っていた。おそらくリリアの妹たちだろう。

ハント家はリリアを含めた四姉妹だ。

リリアの妹たちは順番に挨拶をはじめた。

次女、三女がにこやかに挨拶をしてきた。二人とも蜂蜜色の髪に瞳で姉によく似ていた。

私もお母様に暗記させられた挨拶をできるだけ優雅に返した。

そして、二人の挨拶が終わると……後ろからオドオドした様子でもう一人の少女が歩みでてきた。

「……は、はじめまして。四女の…メ、メアリ・ハントです」

まるで消えてしまいそうな声でそう名乗った少女は、赤褐色の髪に瞳で他の姉妹たちとはあまり似ていなかった。

しかし、大きな瞳に形のよいピンクの唇がとても可愛らしい美少女だ。

そんな、メアリに私は先ほどと同じように暗記した挨拶を優雅に返す。

すると、挨拶が終わるとすぐにメアリは後ろに引っ込んでしまった。

私のこの悪役顔が怖かったのかしら?

確かに顔はザ・悪役だけど苛めたりしないよー。

ちょっぴりせつない気持ちになりつつ、私は次の招待客の元へと去っていくハント姉妹を見つめた。

ちなみに、今回のお茶会においては―

お母様との約束で私は極力しゃべらずに、微笑んでいるように言われている。

お菓子もバクバクほおばって食べない。お茶も少しずつ優雅に飲むこと。

間違ってもスカートをたくしあげたりしないこと。間違ってもスカートをまくりあげたりしないこと。

などなどお母様からそれは耳にタコができるほどにきつく言われている。

よって、今日の私に許されているのは、優雅に微笑んで、お茶を啜るのみだ。

今回のお茶会は社交界のダンスパーティーを意識した立食形式だ。

ハント姉妹が去った後にも他に招待された貴族の子息、令嬢たちが次々に挨拶にやってくるため、いっこうにお茶にありつけない。

同じように挨拶を繰り返し、気が付けば部屋の中をくるくるまわり歩き、もうそれだけでヘトヘトになった頃にようやくお茶にありつくことができた。

私的にはだいぶ頑張ったので、クッキーにも少しだけ手を延ばさせてもらう。

あら?このクッキーおいしい。うん、もう一枚。もう一枚。

あ、こんな所にマフィンがあるわ。一つ頂こう。

それにしても、お菓子がいっぱい残っているわね。

どの招待客たちもおしゃべりに夢中で、用意されたお茶菓子がいっこうに減らないようだ。

もったいないな。……タッパーがあったらもって帰りたい。

ハント家からタッパー借りられないかしら。

「姉さん」

「……キ、キース!?」

突然、後ろから現れた義弟に私は思わずとびあがった。

挨拶まわりの途中ではぐれたキースがいつの間にか私の背後に立っていた。

「びっくりした。キースも挨拶まわりは無事に済んだ?」

「うん、だいたい終わったよ。それより、ぼんやりしてどうしたの?」

「……えーと……」

「まさか、余っているお菓子を家に持って帰ろうとか思ってないよね」

「!?」

キースすごい!?なにこの子エスパーなの?すごいわ。なぜ、私の考えていることがわかったのだ。

「すごいわ。よくわかったわね!」

「……よくわかったわね……じゃないよ姉さん。そんなことしたらクラエス家の品位を疑われるよ。それにお母様にばれたら姉さん、またしばらくお菓子を食べさせてもらえなくなるよ」

「……うっ。たしかに」

先日、マナー訓練の際に床に落ちたクッキーをつい三秒ルールで、パクっと食べてしまった際に三日菓子抜きにされてしまったばかりだ。

タッパーに入れてお菓子を持って帰ったことがバレたら、三日どころか一週間はお菓子抜きにされてしまう。

それは困る……

残念だけど……仕方ないわ。

そして、持って帰れないならと……テーブルに並んだ様々なお菓子をどんどん口に入れていく。

お母様との約束はすでに忘却の彼方である。

何度かキースに「姉さん、もうそのくらいにした方が」と止められたが「もう少しだけ」とパクパク食べた。

だって、こんなにいっぱい残ったらもったいないもの。それにお菓子のおいしいこと。

あ、これもおいしい。これも、もひとつこれも……

結果、調子に乗ってお菓子を食べすぎお腹に激しい痛みが……

様子のおかしい私を心配してくれるキースに大丈夫だからと言い残し、私はトイレへと小走りした。

召使さんにトイレを聞いて、「案内いたします」というのをお断りして一人トイレへと走った。

優雅に案内なんかされていたら間に合わない。

そしてなんとか、間に合ってほっとしたはいいが……

必死に走ってきたのでお茶会の部屋への帰り道がいまいちわからなくなった。

ハント家はクラエス家ほど大きくはないが、侯爵家だけあって立派なお屋敷である。

自力で簡単には部屋に戻れそうになかった。

召使さんか誰か、いてくれれば部屋への帰り道を聞くのだけどな……

そうやって、ぼんやりと歩いていると。

目の前にそれはきれいな光景が飛び込んできた。

おそらく中庭と思われる空間にきれいな花たちが広がっていた。

あまりのきれいさに思わず、扉から庭へと降りた。

すると、花の中に一人の少女がぽつんと立っているのが見えた。

声をかけるべきか、迷っていると少女の方が、私に気が付き声をかけてきた。

「……カ、カタリナ様。どうしてこんな所へ?」

そう言って、振り返ったのは先ほど挨拶を交わしたハント家の四女のメアリであった。

「……えーと、ちょっと気分転換に」

まさか、お菓子を食べすぎてお腹を壊しトイレに駆け込み、しかも帰り道がわからなくなりました。

なんて、言えるわけもないので、私は適当にごまかした。

「メアリ様こそどうしてこちらに?」

お腹壊し迷子の私はともかく、今日の主催であるハント家のご令嬢がこんな所にいたらまずいだろうに。

「……私は、あまり、にぎやかな所が得意でなくて……」

メアリは挨拶の時のようにまた消え入りそうな声でそう言って、俯いてしまう。

せっかく愛らしい美少女なのに、そんなに俯いてしまっては顔が隠れてしまいもったいない。

……それにしても、やっぱり悪役顔だから怯えられているのかしら……

しかし、この悪役顔で「意地悪しないよー」とか微笑めば、さらにこの可憐な美少女を怯えさせてしまう可能性が高い。

とりあえず、害意はないと知ってもらわなくては!

「こ、ここの庭はすごいですね。花いっぱいで本当にきれいですね」

とりあえず、できるだけ悪役に見えないように微笑み、話かけてみる。

しかし、咄嗟に口にしたそれは本心だ。

ここの庭は本当にきれいで、クラエス家の庭よりずっと素敵だ。

花々はどれも立派に咲き誇っている。

ここの庭師さんは本当に植物を育てるのが上手なのだろう。

……そうだ!!いい考えが浮かんだ。

花をこれだけ立派に育てられる人なら、私のあの萎びた畑も復活させられるかもしれない。

思い付いた私は早速、メアリに尋ねる。

「ねぇ、メアリ様、この庭を世話している庭師さんを紹介してくださらない」

「……え……」

「これだけ立派な花々を育てることができる庭師さんにぜひ、相談したいことがあるの」

困惑した様子のメアリに私はぜひ、ぜひと鼻息荒く迫った。

すると、メアリがまた消え入りそうな声で言った。

「……わ、私です」

「え?」

「この庭を世話しているのは、私なんです」

なんですと?!メアリ自身が世話をしているですと!?

「メアリ様が世話をされているんですか!?この庭を全部!?」

「いえ、全部ではないのですが、ここの一角の花や植物は私が世話をしているのです」

では、この一角のすばらしく咲き誇った花々はメアリの仕事なのか……

「……すごい」

「……え……」

「こんな立派な庭が作れるなんてすごいわ!一体どうやったらこんな風に全部の花を見事に咲かせることができるの!なにか裏ワザがあるの!それとも土に秘密が!」

「……あ、あのカタリナ様」

私は興奮のあまり思わずメアリに詰め寄っていた。

気づけば、鼻息の荒い令嬢に可憐な美少女がすっかりビビッていた。

いけない…興奮しすぎた。

私は一息つき、できるだけ優雅に微笑んだ。

「その、それでぜひ、このお庭を作られているメアリ様にご相談があるのですが」

「…相談ですか?」

「はい」

私はメアリに我が畑が夏の収穫を前にして萎れてきていることを相談した。

はじめは「畑を作られているのですか」と、とても驚いていたメアリだったが、私が語る畑の状況を真剣に聞いてくれた。

そしてその表情にそれまでのような怯えた感じがなくなり内心ほっとした。

そして、話を聞き終わると。

「……私などでお力になれるなら、ぜひお力になりたいのですが……私は野菜を育てたことはありませんし、やはり、お話を聞いただけではなんとも言えません。お役に立てずに本当にすいません」

「では、ぜひうちにきていただけませんか?」

愁傷に頭を下げてきたメアリに、私はここぞとばかりに言った。

「あの、でも……」

戸惑った様子のメアリに、私は何だったらうちから迎えを出すのでと必死に言い募る。

大事な畑の命運がかかっているのだ。前世の朝顔やヘチマの二の舞にはしたくない。

そして、必死に迫る私についにメアリは折れ、畑を実際に見にきてもらう約束をこぎつけることに成功した。

ただ、「迎えは本当にいいです」と断られてしまったが……

そうして、約束を取り付けご機嫌になった私は、その後メアリの案内の元、無事にお茶会の会場に戻った。

そして、いつになっても戻らない私を心配していたキースにいったいどこに行っていたのだと小言を貰うこととなった。

なんだか、もうすっかり姉弟の立場が逆転している。

こうして、初めてのお茶会は大きな失敗をさらすことなくなんとか無事に終えることができた。