軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話 邪竜でも倒しに行くかのう

「ふんふんふーん♪」

自らが作り出した土船の船首に陣取り、上機嫌に鼻歌を歌う小柄なエルフがいた。

その名はメルテラ。

かつて魔王討伐を志して勇者リオンの仲間になろうとしたが、断られてすごすごと故郷に戻り、自作の塔に百年もの間、引き籠っていた悲劇の英雄(?)だ。

「はぁ……」

そんな彼女を見ながら溜息を吐くのは、伝説の勇者リオンその人。

ただし転生したことで、現在は子供の姿になっている。

「「?」」

いつになく消沈しているリオンを、両側に座る双子が不思議そうに見る。

あくどい奴隷商人からリオンが保護し、アルク、イリスと名付けた獣人の子供たちだ。

『りおん、だいじょぶー?』

スライムのスーラもどこか心配そうだ。

相変わらずリオンの頭の上に乗っかり、ぷるぷると身体を震わせた。

メルテラは笑顔のまま振り返り、そんなリオンを咎めた。

「何じゃ、そんな辛気臭そうな顔をしおって」

「誰のせいだと思ってるんだよ」

リオンは半眼でメルテラを睨む。

本当ならこんな危険なエルフを仲間にする気などなかったのだ。

だがリオンが勇者リオンと同一人物であることを言いふらすと脅され、仕方なく応じたのである。

「もう決まったことじゃ! 諦めるがよい! 伝説の勇者ともあろう男が、いつまでもうじうじしておってはカッコ悪いぞ!」

責めるような口ぶりとは裏腹に、喜びを隠しきれていない。

以前、セドリアの塔で対峙したときはリオンへの怒りを露にしていたというのに、態度が一変していた。

「……何でそんなに嬉しそうなんだ?」

「この素晴らしい天気、そして気持ちのいい風! 誰だって気持ちがよくなるのは当然のことじゃろう!」

短い腕を目一杯広げてみせるメルテラ。

リオンが空を見上げると、釣られて双子も顔を上げた。

「いや、風はともかく、思いっきり曇り空なんだが?」

「細かいことは気にせんでよいのじゃ! なお、決して百年越しにお主の仲間になれたことを喜んでいるわけではないからな! その辺は勘違いしてはならんぞ!」

「はいはい」

何ともわざとらしく主張するメルテラだった。

「それで、これからどこに向かうつもりなのじゃ?」

目を輝かせながらリオンに訪ねてくる。

「早速、魔王討伐かっ?」

「いや魔王はもういないって」

「む、そうじゃったか。では、邪竜でも倒しに行くかのう! それとも魔界に行って上級悪魔でも狩るかの? くくくっ、お主とわらわがいたら、どんな相手も怖くないのじゃ!」

やる気満々のメルテラである。

「じゃりゅう!」

「あくま!」

それに触発されたのか、双子も目を輝かせてしまっているが、もちろんリオンにそんな予定はなかった。

「とりあえず決まってるのはこの国を出ることだけだ。色々あって有名になり過ぎてしまったからな」

たとえメルテラがリオンの秘密を言いふらしたりしなくとも、もはやこの国で静かに冒険を続けるのは難しいだろう。

そう判断したリオンは、国外へ逃げることにした。

今世のリオンとってこの国は生まれ故郷だが、前世からすれば幾つもある国の一つに過ぎない。

異国の地へ行くことへの抵抗はなかった。

「ふむ、ここから近い外国となると、西にあるリュメル聖王国かの。わらわのこの土船があれば日が暮れるまでには国境を越えられるじゃろ」

メルテラはそう言って土船を加速させる。

さすが本家だけあって振動が少なく、多少の坂でも難なく超えていく。

「「まもの!」」

双子がそれに気づいて声を上げる。

見ると、進行方向に複数の魔物がいた。

ゴブリンの群れだ。

「「えい!」」

双子は船から飛び降りると、協力してゴブリンを倒していく。

あっという間に片づけ終わると、すぐに船に戻ってきた。

「ゴブリンなど相手にする必要ないじゃろ?」

「いや、放置していたら人を襲うかもしれない。ちょうどすぐ近くを通りかかったんだし、倒しておいて正解だ。よくやった」

「「ん」」

リオンが頭を撫でてやると、双子は嬉しそうに破顔した。

「ぐぬぬ……」

それを見て、なぜか悔しそうにするメルテラだった。

「む? あれは何じゃ!」

しばらくして、今度はメルテラが何かに気づいた。

リオンが視線を向けると、まだ距離があるため豆粒程度にしか見えないが、どうやら人の集団のようだ。

別に珍しいことではない。

西方へと向かう隊商などがよく通る道だからだ。

ただ、少し様子がおかしかった。

「魔物と戦っているのか」

【盗賊王】の高い視力で、リオンは状況を認識する。

どうやら商人たちが魔物に襲われているらしかった。

襲っているのは狼の魔物の群れだ。

商人らが雇った護衛の戦士たちが応戦しているが、高い連携で攻めかかる狼の群れにかなり苦戦している様子である。

「これは助けねばならぬの!」

メルテラはなぜか嬉しそうに言う。

「今度はわらわに任せておくのじゃ! いいの、そこの双子! お主らは手出し無用じゃぞ!」

「「?」」

メルテラは双子にそう釘をさすと、そのまま土船を戦場へと突っ込ませた。

「な、何だっ?」

「船っ!?」

「こ、子供が乗ってるぞっ?」

荷馬車の上で震えていた商人たちが、こちらに気づいて驚きの声を上げる。

確かに知らない人から見れば、リオンたちは子供の集団にしか思えないだろう。

「アースパイル!」

メルテラが無詠唱で放ったのは、お得意の土魔法だ。

「「「ギャンッ!?」」」

地面から突如として突き出した幾多の杭が、狼たちの身体を次々と貫いていく。

それでニ十体以上いた群れはほぼ壊滅した。

「「「ワオオオンッ!?」」」

運よく直撃を免れた数体は、突然の事態に慄き、一目散に逃げようとする。

「逃がしはせぬぞ! ストーンバレット!」

「「「~~ッ!?」」」

石礫が逃走を図った狼たちの頭部に直撃。

頭蓋を貫き、あっさりとその命を刈り取った。

気づけば狼の群れは全滅していた。

「ま、こんなところじゃのう!」

メルテラが鼻息荒くリオンを見てくる。

だがリオンが静観していると、なぜか怒りだした。

「な、何でわらわは褒めてくれぬのじゃ!?」

お前は子供じゃないだろ……。

そう心の中でツッコミながら、リオンは大きな溜息を吐くのだった。