軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 彼らは私の客人だ

「これは一体どういうことですかな? 神聖な王宮に汚らわしい獣の子を連れ込むとは」

現れたのは四十がらみの男だ。

でっぷりとよく肥えていて、お世辞にも容姿が良いとは言えないが、王太子にも負けない華美な服を着ている。

蔑むような言葉と視線を露骨にぶつけられて、双子は「うー」と獣のように唸った。

ただし食べる手だけは止めようとはしないので、最近ちょっと食い意地が張り過ぎではないかと、心配になるリオンだった。

「バゾロ宰相。彼らは私の客人だ」

シリウスが不快気に言った。

「おお、これはこれは、殿下」

するとバゾロと呼ばれた男は、ワザとらしいほど慇懃に、いかにも今気がついたといった風に反応する。

もちろん部屋に入ってきた時点で、あるいはそれよりも前に、この場所にシリウスがいることなど分かっていただろう。

そうした態度から、王太子のシリウスに表面上は敬意を払っているようでも、実際には決して服従しているわけではないことが見て取れた。

(宰相? ってことは、この国のナンバーツーってことか)

宰相は国王を補佐する最上位の官吏である。

リオンは知らなかったが、現在、この国の宰相は病気の国王に代わって政務を取り仕切っており、実質的に最高権力者と言えた。

「しかしこのような輩を王宮に招くとは、少々軽率ではございませぬか?」

「私の命の恩人だ。持て成すのは当然のことだろう」

「おお、ではこの子供が?」

値踏みするような目でリオン見てくるバゾロ宰相。

「ふん、ただの子供にしか見えませんがねぇ」

小馬鹿にしたように鼻を鳴らすバゾロに、シリウスは咎めるような口調で問う。

「一体、何の用だ? 今は客人との食事中であることは見れば分かるだろう?」

「それは失礼いたしました。急ぎではありませぬゆえ、出直してまいりましょう」

バゾロが去っていくと、シリウスはリオンに謝ってくる。

「すまないね。不快な思いをさせてしまって」

まぁ貴族なんてそんなものだと、リオンは気にも留めていなかった。

双子は未だ不満そうにしているので頭を撫でてあやす。

「それにしても君は本当にしっかりしている。あの強さといい、一体何者なんだい?」

「ただの冒険者だよ?」

「出身は?」

「ええと、バダッカよりさらに東の――」

それよりも色々と訊いてこられる方が困った。

強さの秘訣を問われても、当然ながら話すことはできない。

シリウスの探るような質問に、リオンは曖昧な返答を返し続ける。

助け船を出してくれたのはセリア王女だった。

「お兄様、せっかくのお食事会ですのに、そんなに質問攻めにしては楽しめませんわ」

「む、それもそうか」

「リオン様、美味しいデザートもありますの。よろしければ食べてくださいまし」

(はー、疲れた……)

食事が終わり、一息つくリオン。

生憎ほとんど味は覚えていなかった。

「「おなか、いっぱい!」」

一方で、双子は美味しい宮廷料理をたくさん食べることができて満足そうだ。

これで帰らせてもらえれば嬉しいのだが、シリウスに案内され、今度は別の部屋へと連れていかれることになった。

先ほどセリア王女に遮られたので、再び質問タイムがくるのかと身構えていると、シリウスが神妙な顔で切り出した。

「実は一つ、話しておかないといけないことがあるんだ」

「?」

「先日、君が捕まえてくれた狙撃手の男。当然、牢に捕らえて厳重に監視していたんだけれど……何者かに殺されていたんだ」

シリウスは推測を語る。

「間違いなく内部犯だろう。拷問で自白されるのを恐れ、消されてしまったと見るのが妥当だ」

その口振りから、黒幕の正体にもすでに予想が付いているようだった。

(でも言わないでいいよ。知りたくもないし)

リオンは心の中でそう願ったが、しかしシリウスはその名を口にした。

「バゾロ宰相だ」

(だから言わなくていいってば……)

シリウスやセリアの父である現国王は病に侵されており、いつ死去するか分からない状況にあるらしい。

バゾロ宰相は王家と縁戚関係にあり、王位継承の資格を有するという。

そのため王太子であるシリウスが死亡した場合、彼が王位に就く可能性もあった。

「ゆえに野盗の仕業であると見せかけ、私を殺そうとしたのだろう」

ただ、現状では宰相を捕えることは難しいそうだ。

確たる証拠がない今、下手をすれば王太子派と宰相派に分かれた全面戦争が勃発し、泥沼の内戦と化す可能性もあった。

「王太子様も大変だねー」

ぼく子供だから何も分からないやーと、何も知らない子供アピールをしつつ、相槌を打つリオン。

「……」

それが功を奏したのか、シリウスは何かを考えるように口を噤む。

(そうそう、子供を政争に巻き込んだりしないでくれ)

大方リオンの実力を知って、利用できないかと思ったのだろう。

そうしたことは勇者であった前世では少なくなかった。

リオンを味方に引き入れようと、権力者たちが言い寄ってきたものだ。

「ははは、難しい話をしてしまったみたいだね。今のは忘れてくれ。もちろん誰にも話してはいけないよ?」

幾ら強くても、さすがに子供を引き入れるのはどうかと思い直したのか、シリウスは笑って話を打ち切ったのだった。

リオンが去っていくのを見送った後。

王太子シリウスは小さく呟いた。

「やはりただの子供なのか……? いや、もう少し時間をかけて見極めるべきだろうね」