作品タイトル不明
第50話 なんで階段がなくなってるのよ
ミーナと名乗る自称お宝ハンターを捕まえたリオンたちは、探索を中断して地上に戻ることになった。
具体的な処罰については、エルフの公王の判断を仰ぐことになるだろう。
「うー、あたしとしたことが、こんなミスを犯すなんて……。でも、逃げるチャンスは必ずあるはず……」
「何をぶつくさ言っている。もし逃げようとしてみろ。今度こそその場で斬り捨ててやるぞ」
「逃げません逃げません! だから剣を抜くのやめて!」
英雄の墓を冒涜されたというだけでなく、真面目な性格のフィーリアにとって、そもそもミーナのようなタイプは我慢がならないのだろう。
先ほどから目に殺気がこもっている。
と、そこへゴーレムが現れた。
「任せてくれ!」
フィーリアはそう叫んでゴーレムに向かっていくと、怒りをぶつけるように渾身の斬撃をその身体へ叩き込んだ。
リオンたちが異常なだけで、彼女も伊達に騎士団を率いてはいない。
一撃では倒すことができないも、ゴーレムの反撃を見切って的確に回避しつつ、一方で確実にダメージを与えていく。
やがて何度目かの斬撃で、ゴーレムが機能を停止して倒伏した。
「あのゴーレムを一人で倒しちゃうとか……これは怒らせたらマジでヤバいわ……」
ミーナが戦慄している。
その呟きを聞き取ったリオンは疑問を覚えた。
「お姉ちゃんもあれくらいできるんじゃないの?」
「無理無理。あたしはお宝ハンターであって、戦闘はそんなに得意じゃないのよ」
「じゃあここまでどうやって一人で来たの?」
ここは塔の五階だ。
途中には何体ものゴーレムが徘徊しており、一度も遭遇しないなどあり得ない。
「そんなの簡単よ。あいつらが動くコースには一定の法則があるから、いったんそれを理解すれば回避することなんて造作もないわ。敵を感知できる範囲も決まってて、その中に入らなければ追いかけてこないし」
「へー」
色々と残念な女だが、意外と切れ者なのかもしれないとリオンは思った。
もっとも、そうでなければ危険なお宝ハンターなどやっていないだろう。
「トラップには引っかかってたけど」
「あ、あれはちょっとしたミスよ! いつもならあんなことないんだから!」
そんな話をしているうちに、四階に続く階段へと辿り着いた。
……はずだったのだが。
「……おかしいな? ここにあったはずだが」
フィーリアが訝しげに眉を寄せ、地面を睨みつける。
そこに階段はなく、ただの床があるだけだ。
「もしかして道を間違えてしまったのか?」
「ううん、合ってると思うよ」
リオンは首を振った。
ここに階段があったことを、リオンははっきりと記憶していた。
「ちょ、どういうことなの? なんで階段がなくなってるのよ?」
「……私に訊かれても分からない。何度か来ているが、こんなことは初めてだ」
これでは階下に降りることはできず、その場に立ち尽くすしかない。
「「こわす?」」
「試してみるか?」
こちらを見上げて訊いてくる双子を、リオンは軽く炊きつけてみた。
「「ん!」」
双子は床へ拳を叩きつけた。
凄まじい衝撃に、その余波だけで人が飛んでいきそうだ。
「は? ちょっ、何よ、今の!?」
ただの幼児だと思っていたミーナが目を丸くする一方で、双子は首を左右に振った。
「「……むり」」
床はリオンが予想していた通り、まったくの無傷だった。
この塔はリオンも知らない特殊な素材で作られている上に、魔法による強固な〝不壊〟性が施されている。
破壊するには 少(・) し(・) 時間がかかるだろう。
フィーリアが嘆息する。
「これでは階下に降りることは不可能か……」
「ど、どうするのよっ? これじゃ出られないじゃない!」
喚くミーナを、フィーリアが睨んだ。
「もしかしてこれは貴様のせいではないのか? 無断で侵入した者を逃がさまいとして、そういうシステムが働いた可能性がある」
「え? あ、あたしのせい?」
「もしここで貴様が死ねば、再び階段が出現するやも……」
「ひぃっ! た、助けて! このエルフ、怖すぎるんですけど!」
ミーナは怯えてリオンの後ろへと逃げ込んだ。
勝手に盾にされたリオンはやれやれと思いながら、二人に提案した。
「降りるのが無理ならのぼればいいんじゃないかな」
「「え?」」
それからおよそ二時間後。
フィーリアとミーナは、リオンの意見に応じてしまったことを死ぬほど後悔していた。
「ひ、左からもゴーレムが来たぞ!」
「後ろからもよ! 完全に囲まれたんだけどぉぉぉっ!?」
現在地はメルテラの塔、四十五階。
完全未踏のこの領域は、もはや戦場と言っても過言ではなかった。
どこからともなく湧いてくるゴーレムの群れ。
しかも一体一体の性能が低層にいた頃とは段違いだ。
そもそも土と岩ではなく、金属でできている。
いわゆるメタルゴーレムだ。
そのため防御力が異常に高いのに、それでいて動きは俊敏。
しかも剣や槍などの武器を手にし、その扱いはもはや人間の達人級である。
もはやゴーレムではなく、全身鎧を身に着けた人間なのではないかと思えるほどだ。
さらに、移動はできないが高威力の砲弾を放ってくる固定型のゴーレムや、小型だが飛行型のゴーレム、それから他のゴーレムに命令・指示を与えるゴーレムなど、多彩な種類が存在していた。
そしてそれらが訓練された軍人のごとき連携で襲い掛かってくるのである。
「何でこんなところまで上がってきちゃったのよ……」
「何でこんなところまで上がってきてしまったんだ……」
まったく性格の合わない二人の気持ちが、初めて一致した瞬間だった。