軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第26話 天国はここにある

「アンリエット様っ……」

「何があったのですか?」

「は、はいっ!」

職員が慌ててアンリエットと呼ばれた女性に事情を説明した。

「なるほど。つまり、この子が先に手にしていた依頼書を奪おうとしたところ、従魔が攻撃してきたということですね」

話を聞き終えると、彼女はそう頷いてから、青年の方を見て確認する。

「間違いありませんね、グリス?」

「あ、ああ……」

さっきまでの勢いはどこへやら、青年は忌々しそうに顔を歪めながらも大人しく頷いた。

「……オレが悪かったよ」

そしてしぶしぶといった態度ながらリオンに謝ってくる。

どう見ても本気で謝罪しているとは思えないが……剣を抜いただけでまだ攻撃されたわけではない。

今日のところは許してやることにした。

青年は苛立たし気に肩を怒らせて去っていく。

「大丈夫でしたか?」

「うん、助かったよ。ええと……アンリエット様?」

彼女は苦笑した。

「アンリエットで構いませんよ」

「偉い人なのかなって」

「今はただの冒険者ですから」

「今は?」

ということは、やはり身分の高い人間なのだろうと、リオンは推測する。

「よう言うわ~」

と、そこへやってきたのは黒髪の女だった。

アンリエットと同じくらいの年齢だろう。

魔法使いらしく、杖とローブを装備している。

しかしローブ越しでも分かるくらい胸が大きく、グラマラスな体型だ。

「Aランク冒険者サマが、ただの冒険者? 謙遜も過ぎると嫌味に聞こえるんやで」

「や、やめてください、カナエ。私はそういう意味で言ったわけでは……」

アンリエットはAランク冒険者のようだった。

さっきの青年が大人しくなったのはそのせいだろうか。

「それにしても……うち好みの美少年や……うへへへ……」

カナエと呼ばれた女はリオンをじろじろと見て、変な声を漏らす。

背筋に寒いものが走って、リオンは一歩後ずさった。

「よかったら今からお姉ちゃんと遊ばへんか? すごーく気持ちええこと教えてあだっ!?」

「何をしてるんですか! ……いたいけな少年をいやらしい道へ引きずり込もうとしないでください」

アンリエットに頭を叩かれ、カナエは涙目ながらも我に返った顔になる。

「堪忍堪忍。つい、な」

「つい、じゃありません。まったく……美少年が好きなのは構いませんが、犯罪者にだけはならないでください」

「心配要らへん。無理やり手を出したりはせえへんから。……たぶん」

「……万一のときは私の手で斬首して差し上げましょう」

「冗談! 冗談やから! 真顔で剣を抜かんといて!」

と、そこへ別の人物が歩いてくる。

「カナエの目は節穴。注目すべきは少年の後ろ。ロリとショタこそが至高」

なんかまた変なのが現れたなと、リオンは思った。

こちらはカナエとは対照的に小柄でスレンダーな女性で、表情が乏しい。

だが瞬き一つせず、ただただリオンの背後に隠れる双子を凝視していた。

「しかもセット。天国はここにある」

「あなたも何を言ってるのですか、ティナ……」

「……お姉さんと遊ぼう?」

「「いや!」」

アルクとイリスは断固といった感じで拒絶した。

するとティナと呼ばれた女性はポケットから何かを取り出す。

「アメちゃんあげるから」

「「いや!」」

双子はにべもない。

「やめなさい、ティナ。怖がっているじゃないですか」

アンリエットは再び疲れたように息を吐き出してから、彼女たちのことを紹介してくれる。

「……失礼しました。彼女たちは私のパーティメンバーで、こっちがカナエで、こっちがティナです」

「よろしくなー」

「よろしく」

一応面倒な相手を追い払ってくれた恩があるので、リオンも名乗っていく。

「僕はリオン。この双子はアルクとイリス。それからスーラだよ」

「じぶん、テイマーなんか?」

「まぁそんなところかな?」

「ふぅん。一見すると普通のスライムやけど……」

カナエはスーラをまじまじと見てから、

「なんにしても災難やったな。あいつちょうど昇格試験に落ちたばっかなんや。恐らくそれでイライラしとったんやろ。子供に八つ当たりするなんて、ほんま小さい奴やなぁ。ただの自分の実力不足やのに」

どうやら先ほどの青年はAランクへの昇格試験を受け、不合格になったばかりだったらしい。

それで虫の居所が悪かったようだ。

「それにしても随分と面倒な依頼を受けるのですね」

リオンが受けようとしている依頼は、まずレジーナの村まで行かなければならなかった。

その労力を考えると報酬が少なめで、だから放置されていたのだろう。

あの青年は自分が目をつけていたと言っていたが、いちゃもんをつけるための嘘に違いない。

「そうです」

アンリエットが良いことを思いついたとばかりに手を叩いた。

「せっかくですし、その依頼、私たちがお手伝いしましょう」

「それはええアイデアや!」

「最高。ロリショタと一緒にいれる素晴らしい口実」

「そういう意図ではありませんから……」

リオンは丁重にお断りすることにした。

「僕はこれでもDランクの冒険者だから。心配はいらないよ」

「その歳でDランク、ですか?」

「凄いやん。アンリエット並みの早熟やん」

「それでも心配です。しかも二人の幼い子供も連れてだなんて……きっと苦労してきたんでしょうね……」

アンリエットは慈愛に満ちた目でリオンを見てくる。

「もちろん私たちは報酬をいただく気はありません」

「うーん……」

結局、リオンは押し切られてしまった。

たとえ断っても勝手に付いていくというのだから仕方がない。

なぜそこまでして同行したいのかと思ったが、

「それにレジーナと言えば温泉で有名な村ですからね。最近、忙しかったからゆっくりできるいい機会です」

「せやな。……そして美少年と混浴……ハァハァ」

「かわいいロリショタと温泉……もはや最高の向こう側……じゅるり」

下心がありまくりのようだった。