軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話 北に向かってるからな

『もう少しゆっくりしていってもよいでござるに』

腰に挿した剣が随分と不満げだった。

『ヤマトには富士の他にも色んな景勝地があるでござるよ。オオサカに近い古都に、北の広大なエゾ島、南の美しいリュウキュウの海……。もちろん美味しい食べ物も沢山あるでござる。温泉も捨てがたいでござるな』

リオンはジト目を腰に向ける。

「……あれでどうやってゆっくりするんだよ? どこに行っても人が集まってきて大変だっただろ」

というのも、神器を奪い去り、ヤマタノオロチ復活を目論んだ ニ(・) ン(・) ジ(・) ャ(・) 集(・) 団(・) を(・) 倒し、ヤマト国を救った英雄として、あっという間に国中にその名と特徴が知れ渡ってしまったのである。

しかも銀髪の少年などこの国の民にいないため、簡単に分かってしまうのだ。

『英雄ヤマトタケルの生まれ変わりと言われていたでござるな』

「本当は勇者なんですけどねぇ。……どっちが凄いんでしょう?」

『ヤマトタケルは、ヤマタノオロチを封印することしかできなかったでござるからな』

「完全にリオンさんの勝ちじゃないですか!」

『うむ、さすがは拙者が認めた男でござるな』

剣とゴーストが勝手に盛り上がっている。

当然ながら四つの将軍家もリオンの存在を放っておくはずもなかった。

どうにかしてリオンを客将に迎えようと、あの手この手で勧誘してきたのである。

将軍家の姫君たちから大量の求婚を受けたりもした。

……無論、すべて丁重、もとい、逃げるようにお断りしたのだが。

「ようにというか、完全に逃げておったがのう」

リオンの不幸が愉快だったのか、土船を操縦しながらメルテラがくっくっと楽しそうに笑う。

そんなわけで、リオン一行は今、再び海の上にいた。

ヤマト国を後にして、また新たな地へと向かおうというのである。

「「さむい」」

ぶるぶるっ、と双子が身体を震わせた。

「北に向かってるからな。ほら」

双子に寒冷耐性のバフをかけてやるリオン。

次に一行が目指しているのは大陸の北方だった。

一年中、分厚い雪に覆われた極寒の大地が近づいてきていることを示すように、急激に気温が下がってきているのだ。

「「……ん」」

身体が温かくなった反動か、双子の鼻から、つつー、と鼻水から垂れてきた。

……もしここに青髪の変態がいたら、きっと興奮して飲もうとしていたに違いない。

アンリエットたちとは、ひとまずヤマト国で別れたのである。

カナエの所縁の地でもあり、しばらくはゆっくりすることだろう。

『……というより、置いてきたと言った感じでござったが』

「何も言わずに国を出ちゃって大丈夫なんですか?」

「言ったら付いてくるって言いかねないだろうからな。特に青い髪のやつ。あんまり大所帯になっても身動きが取りにくいし。……あと、双子の教育にも悪い」

剣が一本増えるくらいなら問題ない。

できればうるさくない剣がよかったのだが。

◇ ◇ ◇

「そうか、まだ見つからぬか」

トクガワ当主イエトキは、家臣からの報告を受けて嘆息した。

「いや、仕方があるまい。聞けば、彼は各地を旅する異国の冒険者だという。ここヤマト国に留まる気などないだろう」

もしかするとすでに国を出てしまった可能性もある。

何せ魔法の船で大地を走ってしまうような少年だ。

定期船など使わなくとも、海を渡ることくらい造作もないことだろう。

「しかしまさか、本当に神器を取り戻してくるとは……」

四つの神器を奪われたときは、一体どうなることかと思った。

しかしそれから数時間後、あの少年がすべての神器を何事もなかったかのように持ち帰ってくれたのだ。

聞けば、ヤマタノオロチの封印が解かれる前にどうにか間に合い、ニンジャとの激戦の末、奪い返すことに成功したという。

「まったく、異国には信じられない少年がいたものだ」

万一、ヤマタノオロチが復活していたら、この国は大変なことになっていただろう。

かの化け物は天変地異を巻き起こす力も持っていたようで、周囲に雷や大雪を降らせ、街を燃やし尽くし、暴風を巻き起こしたというほどだ。

想像するだけでぶるりと身を震わせながら、窓の外へと視線を向ける。

今日も天気は快晴で、そのためエド城の頂上から遠くの富士がよく見えた。

その麓から中腹にかけての辺りだ。

そこに、ほんの数週間前まではなかったはずのものがあった。

「十」という文字である。

ここからでも見えるほどだから、近くに行くと恐ろしく巨大なものに違いない。

実際に調査隊に調べさせたところ、確かに山肌を抉る巨大な痕があったという。

まるで巨人が剣で山肌を十文字に斬ったかのように……。

そして麓は何か巨大な怪物が暴れ回った後のように、めちゃくちゃになっていたそうだ。

……あのとき、彼はトヨトミ家の当主とともにそれを目撃した。

遥か遠く富士の麓に、巨大な影が現れたのを。

ヤマタノオロチの封印が解かれてしまったのだと、揃って絶望したのである。

「ほ、本当はヤマタノオロチが確かに復活していて……あの異国の少年が、それを倒してしまったのだとしたら……?」

思わず口から出たその可能性。

しかし彼はすぐさま首を振って、それを否定するのだった。

「い、いやいや、そんなはずはない……そんな荒唐無稽なことは、あるはずがない……。ただ、わしらが見間違えただけだ……そうに違いない……」