軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17話 ここが最短ルートだしね

ゼタは腕のいい鍛冶師でありながら、剣術にも自信があった。

現在、クラスⅡの【戦場鍛冶師】という珍しいジョブも取得している。

元々は父親が営んでいた鍛冶工房で、幼い頃に修行を始めたゼタは、優れた剣を打つには自らが剣を扱える必要があるという考えを持っており、剣の修行にも励んできた。

恐らくその経験が【戦場鍛冶師】というジョブを発現させる要因となったのだろう。

そんな彼女は、熟練冒険者ですらパーティで挑むダンジョンでも、素材採取のためソロで潜ることが多かった。

その最高到達階層は十二階。

この町を拠点とする冒険者たちの中でもトップクラスの記録である。

その男より男らしい言動とルックスから女性ファンも多くいた。

「ブモオオオオオオッ!」

「ぎゃあああっ! ブラックミノタウロスぅぅぅっ!?」

「グルアアアアアッ!」

「ひぃぃぃぃっ! ボストロールぅぅぅっ!?」

「シャアアアアアッ!」

「ぬあああああっ! ツインヘッドワームぅぅぅっ!?」

……そんな彼女が恥も外聞もなく泣き叫ぶ姿など、一体誰が想像できただろうか。

次から次へと現れるのは魔物の上位種ばかり。

その危険度は小さな都市なら単体で滅ぼせるほど。

たった一体ですら、上級冒険者たちがパーティを組んで戦うような強敵が、フロア中にゴロゴロしているのだ。

「何でマジで三十階層まで潜ってきてんだよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」

そう。

ここはダンジョン三十階層。

普段彼女が潜っているところより、二十階層近くも深い場所で、未だ誰も到達したことのなかった領域なのである。

「え? だから最初に行ったよね? 目標は〝ひとまず〟三十階層だって」

「ブモオッ!?」

そう平然と答えながら、躍りかかってきたブラックミノタウロスを軽く片手で剣を振っただけで両断してしまったのは、まだ十代前半の可愛らしい少年だ。

少し前に工房にやってきた彼の剣の腕を確かめるため、ゼタは一緒にダンジョンに潜っているのだった。

普段ならこんな子供の依頼など突っぱねていただろう。

だが彼女の勘がそれを許さなかった。

普通の子供ではない、と。

それにこの歳でDランクの冒険者だというから才能はあるのだろうが、「三十階層まで行く」などと宣言するその無謀さに、つい放っておけないと思ってしまったのである。

そして十階層ぐらいまで潜ってやれば、嫌でも痛感するだろう、と。

まさかこんな事態になるとは想定していなかった。

彼女一人だとあっさり殺されているだろう三十階層の魔物たちが、少年の前ではゴブリン、いや、スライムのごとき雑魚と化しているのだ。

一方で少年が引き連れている従魔のスライムは、とても雑魚とは呼べそうになかった。

さっきからボストロールの巨体を吹っ飛ばしたり、触手を伸ばしてトラップを解除したりしていて、ゼタなどよりよっぽど活躍している。

「てか、ひとまずって何だ!?」

「もっと深部まで潜った方が確実に採れるだろうからね」

「まだ行く気なのかよ!?」

いつもの毅然とした態度はどこへやら、先ほどからゼタは叫びっぱなしだった。

そうしてないと恐怖に押し潰されそうなのだ。

まったく戦っていないというのに、下着まで汗でびしょびしょである。

そんな彼女のことなど気にも留めず、階段を発見したリオンはさらに下層へと降りていく。

もはや一人で戻ることもできないので、ゼタは後をついていくしかない。

「マジかよ……まだ行くのかよ……早くおうちに帰りたい……だいたいそんだけ強かったらアタシの打つ剣なんて要らねぇだろ……その量産品でもレッドドラゴンを倒せるんじゃねぇか……」

その呟きを聞き取ったようで、リオンが振り返る。

「量産品だとすぐダメになってしまうんだ。ほら」

そういって見せてきた剣は、すでにボロボロで、鍛冶師の彼女には見ただけでもはや修復不能だと分かる状態だった。

だがダンジョンに潜る前は新品だったはずだ。

ダンジョン前に並んでいる露店の一つで買ったのをゼタは見ていたのだ。

「ただの鋼製とはいえ、こんな短期間でここまで早くダメになるのは初めて見たぜ……」

しかし考えてみると無理もない。

さっきから高い防御力を有した魔物を何度も斬っているのだ。

そもそも鋼製の剣では斬ることすら難しい魔物なのだが……。

「あ。折れちゃった」

そしてあっという間にその剣は根元からぽっきりいってしまった。

「お、おい、どうすんだよ? 予備なんて持ってねぇだろ? ……アタシの剣を使うか?」

「ううん、その必要はないよ」

そう言って少年は、空から躍りかかってきたハイグリフォンをワンパンで吹っ飛ばした。

「剣要らねぇじゃん!?」

ゼタは思わず全力でツッコミを入れた。

(そこそこ潜ってきたなー)

汗びっしょりの同行者とは対照的に、リオンは汗一つ掻いていなかった。

鼻唄交じりに三十階層に到達し、そこからさらに下層へと向かう。

ここまでリオンは一切進む方向に迷うことはなかった。

というのも、盗賊系統のジョブは探索スキルに優れているからだ。

その最上位である【盗賊王】をマスターしたリオンの場合、この程度の迷宮ならばフロアに立ち入った瞬間、ほぼ完璧にマッピングされた状態になるほどである。

「おっ、ここはモンスターハウスになってるな」

三十三階層で、魔物がうようよしている空間にぶち当たった。

モンスターハウスと呼ばれる部屋で、階層中から魔物が集まってくる場所だ。

「お、おいっ、どうすんだよっ? さすがにこれは迂回した方が――いや、嫌な予感しかしねぇ……」

「ここが最短ルートだしね?」

「やっぱり行く気だぁぁぁぁぁぁっ!」