軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第165話 怪しい者じゃない

「離してくれ! 僕たちは決して怪しい者じゃない!」

「良いから大人しく歩け!」

扉の向こうからそんなやり取りが聞こえてくる。

「いいか、ここから先は獣王陛下の御前だ! 不敬な態度は許されんぞ!」

やがて扉が開かれ、数人の男たちが兵士に囲まれて謁見の間へと入ってきた。

「シアン様、件の怪しい男たちを連れてまいりました」

「ご苦労だった」

少し前に彼女は配下から報告を受けていた。

この王都の街に、幼い子供たちを見ながら「はぁはぁ……やっぱりここは聖地だ……」「可愛い獣人幼女がいっぱいいる……ぐへへへ……」などと、気持ちの悪い顔で気持ち悪い言葉を口にしている人族の集団がいる、と。

事件が起こってからでは遅い。

シアンはこの集団を危険視し、衛兵に彼らを取り調べるよう命じたのだった。

すると彼らは、猫の獣人の幼女を探し、危険な砂漠を超えてこの国にやってきたと主張したのである。

幼女の名は「イリス」。

しかも金色の毛並みで、一緒に双子の男の子がいたと聞けば、もはや別獣人と考えることはできない。

弟妹を溺愛する姉としては看過することなどできず、こうして自分のところまで連行させたのだった。

シアンはじろりとその男たちを睨む。

「それで、貴様たちは一体何のためにこの国に来た?」

「もちろん、僕らの愛するイリス様を追って! ここなら何か彼女の情報を得られるかもしれない! そう思ったんだ!」

「……貴様らとイリスの関係は?」

「彼女は天使だ! 僕たちは天使を崇める信者たち……イリス様賛美崇拝会――通称、イリス教団のメンバーたちだ! せーの!」

何を思ったか、男たちが声を揃えて一斉に叫ぶ。

「「「超絶かわいい! イリス様!」」」

「「「僕らの天使! イリス様!」」」

「「「世界で一番! 愛してる!」」」

「「「もふもふお耳が超キュート!」」」

「「「もふもふ尻尾は超プリティ!」」」

「「「ラブリー、ラブリー、イリス様!」」」

「「「ラブリー、ラブリー、イリス様!」」」

謁見の間に響き渡る男たちの一体感に溢れた連呼。

それを聞き終え、シアンは言った。

「よし、牢屋に入れておけ」

「な、なぜだ!?」

確かにイリスは天使のように可愛く、崇め奉りたくなるのも理解できる。

だがこの男たちからは危険な匂いがすると、シアンは直感していた。

「僕たちはただイリス様を尊んでいるだけだ! 決して疚しい気持ちなどない! もちろん手を出すなんてもってのほかだ! YES!ロリータNO!タッチの精神に乗っ取って活動している!」

「なるほど」

「わ、分かってくれたか!?」

「……最後に一つ問う。ではもし仮にイリスが『おにーちゃん、ちゅーして♡』と言ってきても、きっぱり断ることができるわけだな?」

男たちは一斉に目を泳がせた。

「こいつらを牢屋へ押し込んでおけッ!!」

「「「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!?」」」

◇ ◇ ◇

ランスロットたちイリス教団の信者たちが、シアンによって投獄されている頃。

土船を走らせていたリオン一行はというと、大陸の東端へと辿り着いていた。

見えてきたのは、どこまでも続く大海原だ。

「あれが海だぞ」

「「おっきい……」」

初めて海を前にした双子が、圧倒されたように思わず後退った。

リュメル聖王国の湖も巨大だったが、当然ながら海はそれを遥かに凌駕する。

元勇者であるリオンも、まだまだ海の世界については知らないことが多くあった。

ざぶ~~~~~~んっ!

盛大な水飛沫を上げながら、土船が海へと突入する。

この船は大地を走るだけではなく、水の上も問題なく進むことができるのだ。

そのまま波の上を走り続けること数時間、前方に大きな島が見えてきた。

「あれがヤマト国だ。二人の好きなスシの発祥地だぞ」

「「すし!」」

双子が目を輝かせる。

バルバラで食べたスシがよっぽど美味しかったのだろう。

「しかも海の近い島国だからな。魚介が新鮮でもっと美味しいぞ」

「「たべたい!」」

双子はすでに涎を垂らしている。

ヤマト国では、スシのような食文化の他にも、大陸とは違う独特な文化や風習が存在していた。

現在リオンたちが渡っているこの海は、非常に天候が荒れやすいことで知られている。

それゆえ造船技術が未発達な時代には、行き来がなかなか難しかったという。

そのせいか、独自な発展を遂げたのだろう。

「今はどうなってるか知らないが、百年前はチョンマゲと呼ばれる謎の髪形をした人がたくさんいたな」

「ちょんまげ?」

「剃った頭のてっぺんに小さなヤシの木が乗ってるようなイメージだ」

「「やしのき……ぷふっ……」」

想像したら可笑しかったのか、双子がそろって吹き出す。

他にも独自のサムライ文化があったり、ハラキリという斬新な自害方法があったり、ニンジャと呼ばれる危険な集団がいたりする。

「「はらきり?」」

「文字通り自分の腹を切って自害するんだ。そうすることで名誉を保って死ぬことができらしい」

「「……?」」

それに何の意味があるのだろうという顔をする双子。

生憎とリオンにも理解はできない。

そんな話をしていると、あっという間に岸へと辿り着く。

不安定な天候が変わることもなく、島への上陸を果たしたのだった。