軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13.変わっていく(Y)

「ユリ、珍しく眠そうじゃないか」

「…すみません、気を付けます」

あくびを噛み殺していたらバレてしまった。

少し寝不足だからとあくびが出るなんざ気が抜けている証拠だ。気を引き締めなくては。

「何、珍獣ちゃんとデートでもしてたの?」

「私が悪かったのでその呼び方は止めて下さい」

「はいはい。でも、デートは否定しないんだ?」

「しますよ。ダンスの特訓です」

「ダンス!お前が!?」

何だ、その言い方は。

「や、そんな顔するなよ。だって今まで 頑(かたく) なに拒んでたじゃないか」

「……いきなり気絶したり、泣きだしたり、しまいには海の悪魔のようにへばり付いて離れない令嬢ばかりだったからです」

「海の悪魔って、クラーケンのことか?確かになぁ、剥がれなさそうだけど。なら、婚約者ちゃんは?」

「彼女は私に対してそういう意味での興味は無いので問題ありません」

「いや、逆に問題だろ」

……問題無いと思ってたんだがなぁ。

「そうですね」

「お?ようやっとお前もその気に?」

「ちゃんと婚約者として努力しないと、最低な男色家扱いされるようなので」

「……は?」

休憩時間に根掘り葉掘りと聞かれまくり、今は大爆笑されている。

「アハハハッ!すっごい子だな!お前を男色で更に妻呼ばわり!ダハハハハッ!!」

「……先輩、うるさいですよ」

絡んでくるのが面倒だったから話したのに、余計にうるさくなってしまった。

「あー、久しぶりにこんなにも笑ったわ」

「よかったですね」

「で?ダンスは踊れるようになったのか?」

……アレは踊れたになるのか?

「失敗してもフォローするから大丈夫です。楽しめればいいだけですから」

あんなにも軽いのだから、どうにでもなるだろ。

「…お前は顔に似合わず、本当に脳筋だよな。

でも、大切にしてるじゃないか。ちょっとは好きなんじゃないの?」

「婚約者を大事にするのは当然でしょう」

「2階までショートカットで助けに行って、嬉しそうに頭を撫でまくってたくせに?」

「…うっ!あれはっ」

だってめちゃくちゃふわっふわだった。いや、サラッサラか?こう、猫のお腹の毛みたいなふわサラだった!

「ダンスしたんだろ?ドキドキとかしなかった?」

「……しましたね」

「おおっ!」

「すんごく軽いんです。中身が入ってるのか心配になりました。夜ごはんはしっかり食べてたから大丈夫だとは思いますが」

「お母ちゃんかよ。というかまさか泊まったの?」

「いえ、無理をさせたのでマッサージを」

「お前が!?」

「やりませんって」

「……驚かせるなよ」

「あんなにも細っこいの、力加減が分かりません」

「力加減が分かればマッサージする気だったの!?」

「得意ですよ?」

「……こわい……無自覚なユリちゃんが怖い……」

先輩はいい人なんだけど、ちょいちょい言動がおかしいんだよな。

「まぁいいや。とにかく一歩前進したんだな?婚約者としての自覚が生まれたんだな!?」

自覚か。そうだな、自分で言ったんだ。未来の夫であると。

「そうですね。自覚したようです」

「おっしゃ!いや~、夜会が楽しみだな!」

「先輩は仕事ですけどね」

「お前らがくるっくる踊ってるのをしっかり見守っとく。頑張れよ」

お人好しだな。他人の事をそんなにも心配して。

「ありがとうございます。頼もしいです」

◇◇◇

あれから何度かダンスの練習をした。

踊るたびにピッタリと合うようになってきたな。

「上手くなったじゃないか」

「それがですね、ユリシーズ様限定のようで」

「は?誰と踊ったんだよ」

「ダンスの授業は男女合同じゃないですか」

「ああ。で?」

「……大変申し訳ない事に、クラスメイトの足を踏みまくってしまいました……」

それはそれは。様を見ろ。

「運動神経の差だな」

「それもありますけど、ユリシーズ様みたいな安心感が無いというか…任せるのが怖いというか……」

「安心感?」

「はい!だってユリシーズ様は絶対に私を落っことさないし転ばせないって知ってますもの」

「普通、ダンスでは落ちないし転ばないぞ」

「ん~?でもですね、こう……」

ジャスミンが、キュッと手に力を入れてきた。

「ふふっ、こうやってユリシーズ様と手を繋いでいると、気持ちが落ち着くの。私を支えてくれる手が、絶対に守ってくれるって知っているから」

小さな手から伝わる温もりは、どうやら私の心にまで伝わったらしい。だって心臓がとくりと跳ねた気がした。

「それは騎士にとって最高の褒め言葉だな」

「そう?本当の気持ちよ?」

「だからだ。君は嘘を吐かないから」

「よかった」

安心しきった顔を見て俺も嬉しくなる。ずっと笑っていて欲しいと思うんだ。

そして、たかがダンスだけど、俺だけがその笑顔を与えられたということが、思ったよりも嬉しいらしい。

「子供かよ」

「何がです?」

「ん~、お前の特別になれたのが嬉しいらしい」

「確かに特別ですけど……私だけなのがズルいです」

「俺と普通に踊るのなんてお前くらいだぞ」

「え、皆様どうなるのです?」

「号泣、失神……変体?」

「変態!?何ということでしょう……普通でいられる奇跡に感謝しますわ」

「お互いな」

少しずつ少しずつ、何かが変わっていく。

でも、その変化は心地のいいもので。

「夜会が少し楽しみになった」

「私もです」