軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.レッツ・ダンス(J)

何これ、楽しいっ!

軽快にステップを踏んで、時折間違う私の足をユリシーズ様は華麗に避けていく。

でも、体はブレることなくしっかりと私をホールドしてくれていて。

あら、笑ってるわ。いつも失敗しないようにと緊張してばかりいたのに、今は笑ってるわ!

『俺を見とけ』

もう、また誑し込むような台詞をお気軽に言ってしまうのだから困った人ね。

でも、ユリシーズ様も楽しそう!

紳士じゃなくて、少年みたいに屈託の無い笑顔だわ。

そう、ペーパーウェイトの不思議を語った時の、飾らない笑顔。このお顔、すきだな。

……あら?そういえば『俺』って言ったわ!

うん、少年ユリシーズには『私』より『俺』の方が似合いますね。

気が付けばユリシーズ様のお顔から目が離せない。

彼の手のひらが次の動きを教えてくれる。私はそれを信じてついていくだけ。

ほら、ここでターンッ!

ユリシーズ様が良く出来ました、と言わんばかりの笑顔を見せてくれる。

不思議。あれ程ミスをしないようにと頭がいっぱいだったのに、今はユリシーズ様がいるから無敵かも!

それから3曲踊って、ユリシーズ様が動きを止めました。

「お疲れ様、疲れただろ」

「ん~ん、すっごく楽しかった!こんなにもダンスが楽しかったのは生まれて初めてよっ!」

曲が終わり、 労(ねぎら) いの言葉を掛けられても、興奮しているせいか疲労感は無い。

「いや、絶対に筋肉痛になるぞ」

「いいです。楽しかったから」

「駄目だろ。母上の侍女を呼んでくる。マッサージしてもらった方がいいからな。少し待ってろ」

そう言って、頭をポンポンっと撫でてから部屋を出て行ってしまいました。

………ポンポンされたわ。これは何。子供扱いなのかペット扱いなのか。

「天然女誑し恐るべし……」

さっきまで、すぐそばにあった笑顔を思い出す。

あれは駄目ではないかしら。あんなにも麗しく、時折少年の様な姿を垣間見せ。

……何よりも優しい。ユリシーズ様は本当にお優しくて、真摯に私と向き合って下さる。

理解出来なくても、呆れない。馬鹿にしない。

おざなりにする事なく、私の気持ちに寄り添おうとしてくれる。

こんなの───

「キュンキュンしてしまいますっ!」

青春……青春なのでしょうか!?

ともに汗を流し、心を通わせ、芽生える友情!

「素晴らしいです。新しい世界が見えましたわ」

ブラボー、ハラショー、マーベラス!

これが友愛の世界の素晴らしさか。

白百合の会の皆様も、この世界をお知りになれば、もっと世界は輝きますのに。

………嫌かも?

どうやら私の心は狭いようです。この美しい世界を独り占めしたいみたいです!

「……これが若さか」

「俺への嫌味か、こら」

「あら?ユリシーズ様、おかえりなさいませ」

「はい、ただいまさん」

ふふ、まだ俺様モードだわ。

「母上が一緒に晩餐をって誘ってきてるけどどうする?」

「……そこまで甘えてしまってもいいのでしょうか?」

「俺が独り占めして狡いって拗ねてたから、嫌じゃないなら付き合ってやってくれ」

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「伝えとく。とりあえず、君は汗を流してマッサージな」

「汗を流す……えっ!?」

「普段運動しないであろう君が、いきなり全力で踊ったんだ。ちゃんとケアしないと本当に明日は起き上がれなくなるぞ」

……何それ恐ろしい。

「子爵家には連絡するから心配するな」

「……ありがとうございます」

それからは磨き上げられ、マッサージで天国に行きかけ、今は美味しいもの攻撃を受けております。

「よかった。そのドレス、よく似合ってるわ」

「ありがとうございます、ドレスまでお借りしてしまって」

「ああ、違うわ。もともと貴方用の物だから気にしないで?」

え!?気にしますよ!?

「夜会用のドレスを選んだ時に、普段使いの物もいくつか用意しただけだから気にしなくていいぞ」

「こら!似合ってるとか、他に言葉があるでしょう?」

「ん?」

今着ているのは、落ち着いたグリーンのドレスです。

普段はあまり着ないお色なのですがどうなのでしょうか。

「似合ってなくはないけど、これじゃない感」

「そうね。貴方の意見が正しかったわ」

「て、え?ユリシーズ様も一緒にお選びになったのですか!?」

「んふふ、ドレスにアクセサリー、靴まで。すべて、この子と選んだから楽しみにしていてね!」

「……そうやって言うと変態っぽいだろう!」

驚きました。てっきり夫人が選ぶか、店のおすすめを買って終わりかと思っていましたわ。

「…ありがとうございます。楽しみにしていますね」

「ん」

「こら、返事!」

「はいはい、楽しみにお待ち下さいませ!

あ、そろそろ出るわ。ジャスミン嬢はそのまま楽しんでくれ。送って行けなくてすまん」

「えっ、えっ?」

「言ってなかったの?今日は夜勤なのよ」

「そんな、寝ていないのでは?」

「仮眠したし大丈夫だ。じゃあ、行ってくる」

「玄関まで一緒に行きます!あ、夫人、食事中なのに」

「ありがとう。お願いね?」

「はいっ!」

玄関まで二人で歩く。

「わざわざ良かったのに」

「わざわざ練習に付き合って下さったのに?」

「頑固者」

「お互い様です」

少し無言になっても不思議と気にならない。

「…ダンス、楽しかったか?」

「はい、とっても!」

「それならよかった」

「私、ユリシーズ様となら無敵になれるようです」

「……そうか」

あ、また笑った。

「今みたいな笑顔、好きです」

「……口説いてるのか?」

「もう!」

「ハハッ!」

それからは、またお互いに黙ってしまった。二人の足音だけが響いています。

「では、いってらっしゃいませ」

「ありがとう。送って行けなくて悪かったな」

私が返事をするよりも早く、ユリシーズ様が私の手を取りました。

それは、指先に触れるか触れないかの口付け。

「おやすみ。行って来る」

「……はい」

フワッと微笑んで、あとはもう、振り向くことなく行ってしまわれました。

………………今のは何?

チュッって。チュッってしたわ!

指先だけど、ただの挨拶だって分かるけど!

今までこんな事しなかったくせに。

うぅ~~~っ!女誑し!白百合めっ!!