軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話

「『エイ』、スル?」

「『トウ』、スル?」

「『セヤ』デ、相手ヲ凍ラセルコトモデキルンヤデ」

捨て台詞を聞いた魔物たちが、無邪気に惨劇を勧めてくる。

しない。しない。いや、してもいいかもしれないが、今、ここですると王宮自体が大変なことになる。よくない器物損壊。私は一度、王宮を破壊してるしな……。

あと、クドウの力って自動製氷機になるだけじゃなくて、人にも使えたんだね。こわいね。

「久しぶりに会ったけど、やっぱり偉そうで、私は嫌い」

コウコちゃんがふんっと息を吐いて、もふもふのしっぽを揺らす。

「あー……あれが、話に出たマッカンダル侯爵。ということは、王子が声をかけた女性がマッカンダル侯爵の娘、元婚約者ってことですか」

たしか猫王子の立太子を後押ししていたのがマッカンダル侯爵だったはずだ。

娘を猫王子の婚約者としていたが、コウコちゃんが現れたことで、婚約破棄をしたという、あの……。そりゃ、邪険にされるというものだ。

「魔王になるはずが、こんな風に言われるなんて……! 元のフレアグリフォンの姿であれば、八つ裂きにできたはず。どれもこれもあなたがペット化したせいだ!」

白いコウモリが私の頭の周りを飛び、ペシペシと髪を叩く。

たしかにフレアグリフォンには怯えるだろうから、あんな態度にはならなかったかもしれない。

あ、それか猫王子と壮年の男性――マッカンダル侯爵が同じ感性を持っていた場合、フレアグリフォンの力で国を支配しようとすることは考えられる。魔王とその腹心的な?

その世界を想像し、自分がしたことが間違いではなかったと確信。

あの性格マズそうなマッカンダル侯爵と性格がマズイ猫王子がフレアグリフォンの力で支配した世界は、一般人にはさぞ過ごしにくかったことだろう。

猫になった第一王子はかわいい。この世界にかわいいを増やしたということで、やはり私はいいことをした。

「魔物は強靭で尊大だからいいのです!」

白いコウモリがパタパタと風を私に浴びせる。

小さな体と皮膜の翼なので、風は強くない。とくにレジェドに比べればそよ風のようなものなので、そのまま歩き続ける。

そうして、魔物たちとやんやしながら、移動魔法陣へ着くと、そのまま東の村へ近い領へと転移した。

転移先の領主と簡単に挨拶を交わし、そのまま馬車へ。

馬車は二台。一台には私とザイラードさん、魔物たちが乗り込み、もう一台には旅の荷物を積んだ。

一応は聖女の視察という形になってはいるが、今回は大々的なものではなく、お忍びなので、護衛の騎士も最小限。日本にいたときのようにスーツケース一つで楽々一人旅行というわけにはいかないが、割と快適である。

馬車の中は移動時間ということで、魔物たちは各自自由にお昼寝をしている。馬車のふかふかのクッションで眠る魔物たちはまさに眼福。ここに楽園が築かれている。

ほぅと感嘆のため息を漏らすと、ザイラードさんの隣にちょこんと座っていた猫王子がぼそりと呟いた。

「マッカンダルは……私が六歳のときから一緒にいたのだ……」

しっぽを垂らし、耳も力無げに半分垂れている。

ザイラードさんがそれに「はぁ」と大きなため息を吐いた。

「お前の周りにはほかにも人がいただろう。陛下が友人候補として招いたり、他貴族とも交流できるようにしていたはずだ」

「……だが、だれも私を肯定しなかった。マッカンダルだけが、私なら王太子になれると信じてくれたのだ」

「王太子になれると信じていた者に対して、あのようなことを言うのはどういうことか。自分で考えてみろ」

「……マッカンダルは私を出来損ないだと言った。……ずっと心ではそう思っていたということか。それならば、ほかの者と一緒ではないか」

猫王子の言葉にザイラードさんはより一層深くため息を吐いた。深すぎてコクがあるね。ザイラードさん、お疲れ様です……。

「人は話した言葉通りのことを思っているわけではない。お前をおだて、力を信じていると言いながら信じていない者もいるし、お前にとって苦しいことを言ったとしても、お前を信じている者もいる」

「……だが」

猫王子は首を横に振り、そのまま俯く。

これはきっと心を3D言葉が支配しているやつだ。「でも、だって、どうせ」ってやつね……。どこかで見たなぁ……。社員研修だったかなぁ……。

会社員時代を思い出ししんみりする。なぜか就業時間外にあるために、心に虚無が満ちていた。

ザイラードさんは猫王子を第七騎士団で預かり、再教育を行っているのだが、これもその一環なのだろう。

なかなか強情で、自分の信じたいものしか信じない派閥に属していると思われる猫王子を教育するのは大変だろうなぁ。

けれど、そこで諦めないのがザイラードさんのすごさだと思う。

「今、マッカンダルと接して、お前はどう思った?」

「……なぜ、そのように一方的なのか、と思った」

「そうか。マッカンダルの態度の変貌には、お前も思うことがあるんだな」

ザイラードさんは猫王子の言葉を聞き、ほっと息を吐いた。これはため息とは違い、爽やかさがある。安心しているような感じだ。

猫王子の再教育をがんばり続けているザイラードさんにとって、ようやく掴めた糸口なのかもしれない。

「エルグリーグ、今のマッカンダルに対して思った気持ちを忘れるな」

ザイラードさんは真剣な顔で告げた。

「――あれが、お前だ」

その途端、猫王子はパッと顔を上げた。その目にあるのは……驚愕、だろうか。

……いやぁ驚くんだな。圧倒的に瓜二つだったけどね。

「お前は幼いころからマッカンダルと過ごし、マッカンダルの甘言のみを聞くようになっていたな。マッカンダル以外も遠ざけ、マッカンダルの娘を婚約者とした。考え方も発言も、自分が不利になったときの態度も、すべてがマッカンダルから得たのだろう」

「あれが……私、なのか……」

「これから会う機会があれば、そう思って見てみろ。そうすれば、マッカンダルを通し、お前自身が見えるはずだ」

「……」

ザイラードさんの言葉に、猫王子は返答しない。ただ、無言でじっとクッションを見つめている。

猫王子のことだから、また「逆に考えれば」とこっちの想定したハッピーエンドとは違う方向へ行く可能性もあるが、考える時間も必要だろう。

ザイラードさんもそれ以上はなにも言わず、会話は一度終わる。

すると、次の瞬間、白いコウモリがニュッとザイラードさんの前に飛び出した。

さらに、ふんふんと鼻をひくつかせているようで……。

「……会話を聞いていて思ったのですが、あなたはもしかして、あの王子の身内なのですか? 匂いもたしかにしますが」

「ああ。俺はエルグリーグの叔父にあたる。要は王弟だな」

ザイラードさんの言葉を聞いて、白いコウモリがピシャーンと電撃を受けたように固まる。

そして、次の瞬間、ヒシッとザイラードさんに張り付いたというか……抱き着いた?

「――あなたが魔王になればいい!」

白いコウモリは感動したように叫ぶ。

「よく考えれば、出会いからあなたは特別でした。私を一瞬で手に捕まえた力、常に落ち着いている精神力、周りの者に慕われ、部下に指示する社会性。そして、教え導く力! さらに王族の血を継いでいるということは、フレアグリフォンにもなれるということ!!」

――突然の魔王スカウト。

白いコウモリの紫色の目が興奮からか、うるうると揺れている。

ザイラードさんにヒシッとしがみつく姿はとてもかわいい。が、話の内容はあれである。

魔王に求めるものがとても人間的な気がするが、たしかにできる上司No1のザイラードさんであれば、魔王になっても、魔物たちをうまく統べる気がする。魔物たちは幸せに生きていけるだろう。

第一王子の猫化を見て絶望していたが、どうやら次の魔王候補を見つけたようだ。

ザイラードさんに「おねがい、おねがい」と魔王就任をおねだりしている。

だが、ザイラードさんはそんなコウモリを見下ろし、ふっと笑った。

「悪いが、それはできない」

「な、なぜですか! 魔王はとても素晴らしい! あなたであれば世界が手に入る!」

「まあ俺がそういうものにまったく興味がないというのもあるが、一つだけ、どうしても俺が魔王になれない理由がある」

「その理由はなんですか! わたくしが取り除いてみせます!」

意気込む白いコウモリにザイラードさんは笑みを深める。

そして、なぜか私を抱き寄せて、頬にチュッと唇を寄せた。

「トールに、魔物になって欲しくないと言われている。……俺とはこうして接していたい、と」

「あ、あ……ぐっ」

魔王スカウトを眺めて、かわいいコウモリににやにやしていただけなのに、突然の被弾。

ザイラードさんの色気と、かつての自分の台詞にポッと頬が赤くなった。

すると、白いコウモリはザイラードさんに張り付いたまま、私とザイラードさんを交互に見た。ザイラードさんは固まった私にこれ幸いと、もう片方の頬にもキスをした。

「なぜ、いつもあなたは私の野望の前に立ちふさがるのか!!」

白いコウモリがピィピィと鳴く。

いや、これはもはや泣いている。紫色の目から涙がポロポロ流れている。

「魔王ぐらいいいではないですか! わたくしはかっこいいフレアグリフォンが見たいだけなのに! わたくしはただ、巨大で強靭な魔物に世界を闊歩してほしいだけなのに!」

ごめんて。

「諦めません。わたくしはかならず、この方を魔王にしてみせる!」

「トールがいる限り無理だな」

「では、この方に魔王がいかにすばらしいかを教え、あなたが魔王になるように勧めてもらいます!」

白いコウモリはキッと私を見ると、ザイラードさんから離れた。

そして、空いている席で人間へと変化すると、私に冊子を手渡す。

「あ……手作り」

「ええ。わたくしが作成した『魔物のすべて』という教科書です。あなたのために作りました」

「すごい…字も絵も全部手書き……。挿絵もかわいいね……」

「かわいいのではありません! かっこいいのです! いいですね、ではまず、最初に標語から読みます。一緒に読みますよ、せーの」

手作りの冊子の表紙をめくったところ、そこにはこう書かれていた。

「「『魔物をペットにしてはいけない』」」

はい。