軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話

できあがったキイチゴのカスタードパイにテンションが上がる。

さあ食べよう! と張り切っていると、マリーゴさんは「馬に蹴られたくはないからね」と言って、ほがらかに笑って、帰っていってしまった。

せっかくだから、一緒に食べたかったなぁ。

採ってきたキイチゴをお土産に持って帰ってもらったが、こんなに良くしてもらったのだから、ぜんぜん報酬が足りないと思う。この恩は必ず返そう……。

というわけで、ザイラードさんとレジェド、シルフェで食べることになった。

道の修復の報告を終えたザイラードさんが厨房まで迎えに来てくれていたので、一緒に移動していく。

場所は騎士団の駐屯地の端。森の木々が木陰を作っているところだ。木のテーブルとイスが置かれ、ちょっとした休憩所のようになっている。

ちょうど騎士団の建物からは、そこが見えにくいようだ。

「こんな場所があったんですね」

「ああ。いい隠れ場所だろ?」

ザイラードさんがニッと笑う。ちょっと悪い笑顔だ。

「ここにいると公私が一緒になってしまうからな。私室で休んでいても、あいつらはすぐにやってくるからな」

「あー……」

「なにかあったら駆けつけられる。そして、なにもなければあいつらに見つからない。そういう場所が欲しかったんだ」

ザイラードさんの言葉に「なるほど」と頷いた。

『あいつら』とはここに勤める騎士のことだろう。

第七騎士団は辺境にあるため、騎士はここに住み、ここで働いている。

ザイラードさんも例外なく、ここで生活しながら働いているわけだが、そうなると勤務時間や休憩時間、休暇が混同してしまうんだろう。

現に今日もザイラードさんは休暇だったはずだが、道の崩落と修復についての報告をしていた。それは仕事である。

ザイラードさん自身が働いてしまうということもあるだろうが、部下である騎士たちもザイラードさんを見ると、ついつい頼ってしまうかもしれない。

「ザイラードさん、いい上司ですもんね……」

騎士たちとのやりとりも見たが、任せるところは任せながら、相談されれば聞き、一緒に考えていた。

そして、レジェドやシルフェが現れたときには真っ先に一番危険な場所へ飛び込みながらも、指示を送っていた。

まだザイラードさんの働く姿をたくさん見たわけではないが、正直に理想の上司である。

私の中で『こんな上司が欲しかったランキング』の堂々1位である。

ザイラードさんであれば、部下も仕事をがんばろうと思えるし、そもそもがんばれば成果が出るように仕事を振ってくれそうだし、成果が出なくても責めたりせず、見守ってくれるだろう。ちゃんと休暇もくれそうだ。

困ったらそりゃザイラードさんに相談したくなる。休暇だとしても対応してくれるのがわかるし、邪険にされないのもわかるし……。甘えちゃうよね……。

「ザイラードさんには頼りたくなります」

わかるよ。騎士のみなさん。

なので、うんうんと頷くと、ザイラードさんは照れたように笑った。

「あいつらにいいように使われているだけだろうが、そう言われるとうれしいな」

「いや、みなさん本当にザイラードさんのことが好きなんですよね」

間違いない。

「それに今も重い荷物を持ってもらってしまって……」

ザイラードさんの手にはキイチゴのカスタードパイとお皿、お茶を作る一式を入れたバスケット。

日本のようにプラスチックがあるわけではないから、かなり重いのだ。

ザイラードさんはそれを軽々と片手に持ってくれているのだ。紳士。感謝。

「あいつらだったら、自分のものは持てと言うけどな」

「なるほど」

たしかに男性同士であればそうかもしれない。

というか。

「私にこの場所を教えてしまってよかったんですか?」

せっかくの隠れ場所に私を案内してよかったんだろうか。

はて? と首を傾げると、ザイラードさんは「ああ」と頷いた。

「むしろ、一緒にいるときはここへ誘うことが多くなるかもしれないが、いいだろうか?」

「もちろん、いいですけど」

木漏れ日はきらきらしていてキレイだし、木のテーブルやイスもしっかりしているから問題ない。今は畳まれているが、シェードを広げられるような紐が木と木の間に張られているから、雨避けもできそうだ。環境、施設共に問題なし。

私室も嫌いではないが、こうして外の空気を吸うのも悪くないと思う。

ので、素直に頷く。

すると、ザイラードさんはうれしそうに笑って――

「あなたと二人の時間を邪魔されたくないからな」

「あ……あ……」

まぶしっ……。木漏れ日を浴びてきらきら輝くザイラードさんの笑顔、まぶしっ……。

突然の発光に、思わず手に持っていたクッションで顔を隠す。

浄化されてしまうからね。

「ハヤク、タベル!」

「ハヤク、タベタイ!」

そんな私とザイラードさんの会話(?)にレジェドとシルフェの声が被る。

パイができてから二人はずっとそわそわしながら、ついてきてくれているのだ。その言葉ももっとも。

「そうだね、早く食べよう」

「ああ、準備するからな」

四角い木のテーブルにザイラードさんがバスケットを置き、中からパイとお皿、ポットカバーに包まれたティーポットを取り出す。

厨房で紅茶を入れて、温かいまま運んでくれていたのだ。持ってきたカップに入れれば、これでお茶の準備はOK。

パイはすでにカットされているので、お皿へと載せて、テーブルに並べれば――

「わぁ……素敵なお茶会ですね……」

テーブルの真ん中にはキイチゴのカスタードパイ。四カットほど抜かれたホールの残りがおいしそうに輝いている。

小ぶりのカップには温かい紅茶をいれ、ほかほかと湯気が上がっていた。

「モウイイカ?」

「モウイイノ?」

ちょうど四つあったイスに私とザイラードさん、レジェドとシルフェで座る。

レジェドとシルフェのイスには、私が持ってきたクッションを載せて、ちょうどいい高さにしてある。

というわけで!

「食べよう!」

「オウ!」

「ウン!」

「そうだな」

「いただきまーす!」

私の声を合図に、みんなで一斉にパイを口へ運ぶ。

私とザイラードさんはフォークで小さく切って。レジェドとシルフェはそのまま口でぱくん!

赤いキイチゴとカスタード、アーモンドクリームとパイが口に入ると――

「おいしい!」

「ウマーイ!」

「オイシーイ!」

「すごくうまいな!」

――最高のおいしさ!!

「キイチゴが甘酸っぱくて、ジューシー……!」

「コレ! アマイヤツ、ウマイ!!」

「アマイノ、オイシイ!!」

「パイもサクサクだな」

マリーゴさんが焼いておいてくれたパイはバターの香りがしっかりして、アーモンドクリームの部分がホロホロと崩れていくのがとてもおいしい。

カスタードクリームはなめらかで、やわらかな甘さが最高に合っている。

さらに、キイチゴのフレッシュな甘酸っぱさのおかげで、口がさっぱりとして、いくらでも食べてしまいそう……!

「はぁぁ……幸せです……」

次のパイをフォークで掬いあげながら、しみじみと呟く。

おいしい。おいしいって幸せ……。

そしてなにより……。

「トールノ、ウマイ!」

「トールノ、オイシイ!」

「ああ、最高だな」

……一緒に笑顔で食べてくれるから。

おいしさがもっともっと広がっていく気がする。

「初めて作ったんですけど、マリーゴさんのおかげでうまくいきました。マリーゴさんはもちろんですが、これも紹介してくれたザイラードさんのおかげです。ありがとうございます」

「俺もあなたの手料理を一緒に食べられて、本当にうれしい。マリーゴにはたくさん礼をしなくてはならないな。騎士団長になって一番楽しい休日だ」

ザイラードさんが優しく目を和らげる。

私のやりたいことに付き合わせてしまった休暇になったけれど、ザイラードさんが楽しんでくれたのならばよかった。

私も思わず笑顔になってしまう。

目の前においしいお菓子があって。楽しそうなレジェドとシルフェがいて。ザイラードさんが優しくて……。最高!

そうして、みんなで食べていけば、パイはあっという間になくなって――

「アァ、モウナクナッタ」

「ワァン、モウナイ……」

空っぽになったお皿を前に、レジェドとシルフェがしょんぼりと肩を落とす。

私は「大丈夫」と手を伸ばして、二人を撫でた。

「まだ残ってるよ。またあとで食べよう?」

「……ソウダナ!」

「ソウダネ!」

二人は気を取り直したようで、目をパッと輝かせた。

そして、レジェドはイスから飛び立ち、私の右肩へと戻ってくる。

口にクリームとパイがついていたので、ポケットからハンカチを出して拭いてあげた。

穏やかな時間。……だったんだけど。

「ザイラードさん……。なんかすごく寒くないですか?」

「そうだな。これはおかしい」

いきなりグッと気温が下がった。そして――

「雪……?」

見上げた空からはチラチラと白いものが降ってきていた。