軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

継承の短剣

翌週、アカデミーの廊下ですれ違うエルベアトの雰囲気は、以前とは劇的に変わっていた。

表面上の「ふにゃりとした笑み」は相変わらずだが、その奥にある瞳には、鋭さが宿っていた。

「……フェリクス。親父が『これならあいつの喉元に食らいつける』って泣いてたよ」

すれ違いざま、耳元で囁かれた声。フェリクスは短く頷き、何も答えずに通り過ぎた。

その日の放課後、フェリクスを待っていたのはローゼンブルグ家の馬車ではなく、一台の質素な黒塗りの馬車だった。窓から顔を覗かせたのは、エルヴィスの右腕を務める執事のアンゼルムだ。

「フェリクスさま。旦那さまがお呼びです。本日は本邸ではなく、南街の『裏家』へ」

裏家。そこは、エルヴィスが公式の場では扱えない「不純物」を処理する際に使う場所だ。

フェリクスがそこへ足を踏み入れると、埃一つない執務室の奥で、エルヴィスが背を向けたまま窓の外を眺めていた。

「ノイエラグーネに、知恵を与えたそうだな」

低い、感情の窺えないような声。フェリクスは背筋を伸ばし、一歩も引かずに答えた。

「はい。彼は僕にとって利用価値のある駒だと思ったからです」

エルヴィスがゆっくりと振り返る。その手には、一枚の調査報告書があった。

「ブラウヴァルト侯爵が激昂している。自らの懐に入るはずだった南部関税の利権を、格下のノイエラグーネに横から掠め取られたのだからな。……フェリクス、お前は平穏な学生生活を自ら捨て、戦場に足を踏み入れた。その自覚はあるか」

「あります。……姉さまを守るために、幼い弟妹を守るためにも僕はあなたのように強くならなければならない」

エルヴィスは無言でフェリクスを見つめた。

数秒の沈黙。かつて、ライヘンベルグ伯爵家を冷徹に葬ったそのブルーグレイの瞳に、初めて見るような奇妙な色が混じる。

「……いいだろう。ブラウヴァルト侯爵は、今夜にも動く。お前が撒いた種だ。お前自身で刈り取ってみせろ」

エルヴィスが机の引き出しから取り出したのは、一本の短剣だった。

鞘にはローゼンブルグ家の紋章ではなく、リーヴェスヴィンセン家の古い紋章が刻まれている。エルヴィスが、密かに修復させていたものだ。

「今夜、ノイエラグーネの屋敷に刺客が向かう。エルベアトと共にそれを迎え撃て。……私が出るまでもない。お前の『正解』を証明してみせろ。……できるか?」

フェリクスは震える手で短剣を手に取り、その重みを噛み締める。

「……はい。エルヴィス様」

馬車を飛び出したフェリクスが夜の街を駆ける中、背後でエルヴィスが呟いた言葉を、彼はまだ知らない。

「……甘いな。だが、その甘さが光になることもある。フェリクス。お前がどれほど使い物になれるか、見せてもらおう」