軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

澱の底に咲く花

2日目はフェリクスがクラウスを花祭りに連れて行ってくれることになった。

「姉さまたちは最近いろいろあってお疲れでしょう。クラウスさまもまだ行きたいと言ってますし、僕たちで行くからゆっくりしててください」

フェリクスが弟の靴紐を直してやりながら言った。

昨日のうちに呼び寄せていた――フローラ12歳を筆頭にヘルムート、コルネリア、エデル6歳の、アマーリエの弟妹たちだ。弟妹たちは本格的なお祭りは初めてで、きゃあきゃあと声をあげている。もちろん、護衛騎士もついていく。

「姉さま、ありがとうー! 行ってくるね」

「かあしゃま。とうしゃま、いってきます」

「じゃあ。姉さまあとはごゆっくり」

アカデミーの5学年になるフェリクスは首席を維持している。確かにここのところ、王家の問題など続いたので、疲労はたまっていた。

持つべきものはできる弟だわ、とアマーリエは頼もしい弟の背を見送った

「今日はごろ寝でもしてみますか?」

「たまには良いね」

ダメ元で聞いてみれば、エルヴィスからも了承の声がかかる。アマーリエはやったーと喜んだ。

夫婦の寝室で水入らずになる。清潔なシーツはお日様の匂いがして、肌にさらさらと気持ちが良い。アマーリエは、うーんと手足を伸ばした。

「何もしない日、最高ー」

言葉に出せばエルヴィスが、苦笑する。

「どうしたんですか、エルヴィスさま」

「本当に何もしないの?」

そう尋ねられて、アマーリエは視線を泳がせた。

「昼間ですし、ねっ。休息も必要ですから」

「昼だろうが夜だろうが、私は関係ないけれどな」

「エルヴィスさま……あの」

「アマーリエ」

優しいキスが唇に落ちる。だんだん口づけが深くなっていって、首筋に口づけの雨が降る。

アマーリエは声を出すまいとしていたが、それはすぐに、無駄な努力だと悟った。シーツをつかむ指に力がはいる。やがてその力も抜けてゆくのだった。

少し傾いた日差しが室内をやわらかに照らした。

「なにもしないって言ったのに……」

「私は言った覚えはないよ」

その言葉にアマーリエが詰まる。掛布1枚をかけてふたりで寄り添う。

「アマーリエとの子が欲しいな」

ぽつりとエルヴィスがつぶやくのを、アマーリエは、真っ赤になって聞いた。エルヴィスはアマーリエの頬に手をやり、愛おしそうに撫でた。

「君に似たら美人になる」

「性格はあまり似てほしくないですけど」

「なんで? とても、可愛らしいよ」

「エルヴィスさまに似てほしいです」

「性格は似てほしくはないな」

ふふっとアマーリエは笑う。ふたりとも、自分に似てほしくないのだ。

ふいにエルヴィスの視線がどこか遠くを見つめた。アマーリエを抱く力が強くなる。彼は思わず零すように言う。

「王家の血は濃くなりすぎている。その証拠がフィリップ殿下だと思う。殿下を見ていると時折怖くなる……この血にまじった澱が」

「そんな……」

「私がそう思ってるだけだけどね。フィリップ殿下を見ると時折、泥の底を見つめているようで、恐ろしくなる。私の内側にも同じ毒が流れているかもしれない。その毒が君や生まれてくる子を苦しめたらと思うと――」

「エルヴィスさま……」

公爵家と言う高貴な血に流れる恐ろしさを、初めて吐露するエルヴィス。アマーリエは息を呑み、一瞬の静寂の後、震える彼の頬を両手で包み込んだ。

翡翠色の瞳が真っ直ぐにエルヴィスを見つめる。

「恐ろしいかい?」

「恐ろしくないと言ったら嘘になりますけど……エルヴィスさまや私に似た子が来てくれたらきっと嬉しいと思います。毒もふたりで分かち合えばきっと恐ろしくない……」

そう言うと、エルヴィスは少し目を見張ってからそっと瞳を伏せた。呼吸がわずかに乱れる。

「ありがとう」

壊れ物を抱くように、アマーリエをそっと抱き寄せる。抱き寄せた腕に力が籠もった。

遠く祭りの賑やかな祝祭歌が聞こえる。

その声は、祭りの喧騒よりもずっと深く、アマーリエの心に染み渡っていった。