軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アンネのひそやかな喜び

ローゼンブルグ邸に夜の帳が落ちる。

アマーリエの私室では、アンネがアマーリエの髪を解いていた。梟の静かな声が遠くに聞こえる。

「……ねえ、アンネ。最近のエルヴィスさま、少し……いや、かなり過保護すぎはしない?」

アマーリエは、先ほど執務室で贈られた、エルヴィスからの真っ直ぐな称賛と慈愛に満ちた眼差しを思い出し、顔を上気させた。

「あの厳しいマナー講師の先生、震える手でティーカップを置いていらしたわ。私が少し溜息をついただけで、あんなに顔色を悪くされるなんて……」

アマーリエは戸惑いながらも、どこかほんの少しだけ嬉しそうで、けれどそれ以上に自分はそこまでされるほどの大層な人間なのかという困惑を隠せない。

「私とフェリクスに、あんなに良くして下さって……。エルヴィスさまは、私の所作ひとつ、髪の一房にまで、まるで大切なものでも扱うような目を向けられている気がするのよ。私、どうしたら良いの?」

アマーリエは途方に暮れたような声を出した。

アンネは主人の背後に回り、手際よく髪のピンを外しながら、淡々とした口調で返す。

「……奥さま。そのお悩み、非常に贅沢だという自覚はございますか?」

そしてひとつため息をつく。アマーリエの亜麻色の髪を優しく梳かしながらアンネは言葉を続けた。

「奥さまが困惑すればするほど、旦那様はもっと安心させてやらねばと、さらに過剰な愛を注ぐと思われます」

「なに、それ。アンネったら」

「事実でございます」

逃げ場のない溺愛。

アマーリエは頬を両手で押さえた。エルヴィスの愛情は、時に重厚で、時に細やかすぎて、彼女の心の許容量を容易に超えてくるのだ。

「私、エルヴィスさまにとって、もっと役に立つ存在にならないと。実家の支援にフェリクスの執務指導まで……これでは、申し訳が立たないわね」

鏡越しにアンネと目が合った。アンネは手を止めてほんの少しだけ、優しく瞳を細めた。

「奥さまがそこにいて、美味しそうにお茶を飲み、クラウスさまとフェリクスさまと笑い合っている。旦那様にとっては、それこそが最大の報酬なのでしょう。……むしろ奥さまには、これを日常として早く慣れていただかないと」

「慣れるだなんて、そんな一生思いつかないわよ……!」

「まずは王家のお茶会に集中なさいませ」

「は! そうだわ。私が失敗するわけにはいかないものね。ありがとう、アンネ」

微笑むアマーリエにアンネは丁寧に一礼する。「さて、次は夜会用のドレスのフィッティングです」

アンネは容赦なく次の仕事にとりかかった。

主人の愛が重くなればなるほど、ドレスの布地は上質に、装飾は豪華になり、それを扱う侍女の仕事も幾何学的に増えてゆく。

ドレスの重みをアマーリエの身体に馴染ませるたび、エルヴィスの愛の形を一番近くで確認できる。アンネは、その増え続けるタスクの重みに、主への静かな忠誠と、言葉には出さない微かな喜びを感じていた。