作品タイトル不明
黎明の告白
窓の外が白み始め、夜の濃い闇が薄い灰色に溶けはじめた。
アマーリエの荒い呼吸が、わずかに落ち着きを見せる。しかし、その頬は依然として赤く、エルヴィスが握りしめる彼女の手は、驚くほどの熱を持ったままだった。
静寂の中、アマーリエの唇が微かに震えた。エルヴィスははっとしてアマーリエを覗き込んだ。
「……フェリクス……」
最初にこぼれたのは、この邸で唯一の肉親である弟の名。エルヴィスは自嘲気味に嘲笑う。当然だろう、自分など呼ばれるはずがない。そう思って手を離そうとした、その時だった。
「……もう、いいかな……」
掠れた、今にも消えそうな声。エルヴィスは息を呑み、彼女の口元に耳を寄せた。
「……もう、何も、いらないの。……エルヴィスさま……私は……支えにならなくては、ここにいてはいけないと……思っていたけれど……」
アマーリエの目から、一筋の涙がこぼれ、枕を濡らした。彼女の意識はまだ深い熱の底にあったが、心にかけられた鍵は、高熱によってさらけ出されていた。
「……疲れてしまったの。……笑っていなきゃ……。ただの私を見てほしかったなんて……そんなわがまま……言えるはず、ないのに……」
エルヴィスは、心臓を鷲掴みにされたような衝撃に硬直した。
彼女が献身的に振る舞っていたのは、義務感だけではなかった。彼の中に、あるいはこの家の中に居場所を求めて、必死に自分を削り続けていたのだと、今さら気づかされた。
「……ごめんなさい、ただ、私の名を呼んで……欲しい」
それが、彼女の最後の独白だった。
再び深い眠りに落ちたアマーリエの顔は、どこか全てを投げ出したような、悲しいほどに清らかな表情だった。
エルヴィスは、彼女の手を自分の額に押し当て震えた。
努力をさせていたのは、自分だ。彼女にそんな絶望的な孤独を強いていたのは、他ならぬ自分自身だった。
「……謝らなければならないのは、私の方だ、アマーリエ」
夜明けの光が、冷たく部屋を照らし始める。
エルヴィスは、彼女が目を覚ました時、そこにいるのが「公爵」としてではなく、一人の「男」としてでありたいと、生まれて初めて強く願ったのだった。