作品タイトル不明
母の掌
「初期の肺炎ですね」
医師は重い口調で言う。クラウスははあはあと息苦しそうにしている。高熱が出ているためほっぺは真っ赤だ。
「薬を処方します。きちんと飲ませてください。水分をこまめに取るようにしてください。それと部屋の保湿を」
「わかりました」
アマーリエは頷く。アンゼルムの後に従って医師が出ていく。エルヴィスは寝台の脇に座り込んでいた。
「エルヴィスさま、お薬もいただきました。大丈夫ですよ」
「……どうして」
「大丈夫ですよ」
アマーリエはエルヴィスの背中をさすった。エルヴィスはされるがままになっている。
「どうして大丈夫だとわかるんだ……エリーも、死ぬなんて思わなかった……」
「エルヴィスさま」
「どうして大丈夫だと言い切れる……!! 君は本当の母親じゃないからそんな風に冷静でいられるんだろう!?」
「失礼します」
アマーリエはそう言うと、ピシャリとエルヴィスの頬を叩いた。
エルヴィスの顔が横に流れる。アマーリエが振り抜いた右の手のひらは熱く痺れていた。
エルヴィスは呆然とする。
「目が覚めましたか、エルヴィスさま」
アマーリエは努めて冷静に言う。
「保湿と水分補給と安静がクラウスさまには必要です。嘆いている暇はないんです。父親だと言うのならしっかりとしてください……!」
「すまない。わかった……」
「アンネ、クラウスさまの着替えを持ってきておいて。なるべく楽なものを。それと吸い口とタオルを用意して。大きな桶に水も持ってきておいて」
「畏まりました。奥さま」
「クラウスさま、頑張りましょうね。ここにお父さまもいますからね」
タオルを絞り額に乗せながら、アマーリエは優しくクラウスに言う。アンネが着替えを持ってきて、汗を拭いたあと、アマーリエは手早く着替えさせた。
吸い口から水を少し飲ませる。ああん……とクラウスが泣き始めた。アマーリエはクラウスを抱き上げる。体が思ったよりもだいぶ熱い。首筋にかかる吐息が熱い。
「よしよし。クラウスさま、大丈夫ですよ。良い子ですね」
ぽんぽんと背中を叩いてあやす。エルヴィスが手を伸ばすので、アマーリエはクラウスをエルヴィスに渡した。
エルヴィスはクラウスを抱きしめながら、誰に言うでもなく、すまない、とつぶやいた。