軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.リディアとレイの共同生活(4)

「ねえ、あれってアルバーン侯爵家のセドリック様じゃない?」

「本当だわ」

先ほどまでリディアの陰口を叩いていた女性達は、関心の矛先を即座にセドリックへと移す。

一方のセドリックは、何かに気付いたようにふと足を止める。

どこから現れたのか、道端にはみすぼらしい男がいた。 さ(・) っ(・) き(・) ま(・) で(・) は(・) い(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) の(・) に(・) 。

セドリックは慈愛に満ちた眼差しを向け、座り込んでいる男に何か声をかけた。

「また人助けなさっていらっしゃるのね」

「さすがセドリック様だわ」

その様子を見ていた女性達から感嘆が漏れる。

セドリックは困ったように微笑んだ。

「いえ、私は大したことをしていません。ただ、恵まれない者を見過ごせないだけです」

その声音に、吐き気がした。

(――嘘つき)

リディアはレイと繋いだ手を強く握り締める。

脳裏に浮かぶのは、婚約していた頃に見たものだ。

誰にでも穏やかで優しく、完璧な紳士。けれど、実情は弱者を痛めつけることで快感を覚える最低の男だと、リディアは知っている。

「レイ、行こう」

リディアはくるっと向きを変えると、レイの手を引いてずんずんと歩きだす。

「おいっ、リディア」

セドリックは慌てたようにリディアの肩を乱暴に掴んで、引き留めた。

「離して」

「数年振りの再会なのに酷いな。積もる話もあるだろう?」

「おあいにく様ね。私は何も話すことなんてないわ。もう一生会わないほうがよかったくらいよ」

リディアはキッとセドリックを睨み付ける。

よくも恥ずかしげもなく、平然とした顔でリディアの前に立っていられるものだと、怒りすらわいた。

フォシニを奴隷として扱う制度に共感できないと悩むリディアに対し、彼はグリーン子爵と一緒になって口汚い言葉で罵ってきた。一度だって、セドリックがリディアの味方をしてくれたことなどない。

そして、リディアが勘当されたときも、20年近い婚約などまるで最初からなかったかのようにあっさりと婚約を破棄した。

「離せよ」

ふいに、ぐいっと腕を引かれる。レイがリディアとセドリックの間に立ち塞がり、彼を睨み付けていた。

「あんた誰だか知らないけど、リディアが嫌がっているだろ」

セドリックは突然現れたレイの登場に一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元の澄ました表情に戻る。

「今は私が彼女と話しているから、どいてくれるかな?」

「やだ。リディアが話すことなんてないって言ってたの、聞こえなかったの? 耳悪いんじゃない?」

セドリックのこめかみがピクリと動く。

「発言には気をつけろ。私が紳士でなかったら、警邏に突き出しているぞ」

「あっそう。じゃあ、突き出せば? ところで自称紳士サンに聞くけどさ、さっきの茶番は何なの? 自分のフォシニを道端に座らせて施しを与える演技するとか、キモ過ぎ」

レイの言葉にリディアは驚く。

(あの人、セドリック様のフォシニなの⁉)

リディアは道の傍らに座っている男を見る。やせ細り、服もボロボロだ。もし彼がセドリックのフォシニなら、わざとあんな格好をさせた上で自分が向かう先に座らせておいたということだろうか。

「何を言っているのか、意味が分からないな」

「本当にわからないなら、相当頭が悪いんだね。こんなに自分からあいつの魔力を漂わせているのに、フォシニじゃなかったらなんなんだよ」

レイは挑発するように言う。

「ええ? 自分のフォシニ? どういうこと?」

「慈悲深く見せるための演技だったってこと?」

遠巻きに眺めている女性たちがざわつき始める。リディアはセドリックとレイのやり取りを呆然と見つめた。

(全然知らなかった……)

どおりで、彼の行く先々に都合よく恵まれない人がいるわけだ。

ある日慈悲深い行動を取ったかと思えば、別の日には物乞い子供がいようが見向きもしないので、ずっと彼の行動のちぐはぐさを不思議に思っていた。きっと、セドリックが施しを与えるのはすべて彼が仕込んだ者たちなのだろう。