作品タイトル不明
8.あなたと一緒に(6)
「……お前がリディアにこんなことをしたのか?」
レイは殺気だった目でダリウスを睨み付ける。
「久しぶりの再会だというのに、最初の言葉がそれですか? 随分と偉そうな口をきくようになったものですね」
ダリウスはレイの質問に答える代わりに、嘲笑交じりの目で彼を見つめた。
「黙れ! リディアには何も関係ないだろ!」
「仕方なかったのですよ。お前があまりにも聞き分けがないので、ご協力いただくことにしたんです」
次の瞬間、ドーンと大きな衝撃音と共に爆風が吹き荒れる。魔法弾で吹き飛ばされたダリウスは壁に叩きつけられた。
「お前は確実に殺す」
レイは凍てつく目でダリウスを見下ろす。
「生意気になったものだ」
口元の血をぬぐったダリウスは薄ら笑いを浮かべる。次の瞬間、今度はレイが吹き飛ばされて壁に衝突した。
「レイ!」
リディアは叫ぶ。
(どうしよう、レイが……)
今の衝撃で死んでしまったのではないかと体が震えた。
「……服が破れた。リディアが新しく買ってくれて卸したてなのに、どうしてくれるんだよ」
はっきりと聞こえた声に、リディアはハッとする。がれきの中から、不機嫌そうな顔をしたレイが現れた。体は無傷に見えるが、服は今の衝撃で破れ、そこかしこに汚れが付いている。
「防御魔法ですか。いつの間に覚えたんです?」
「あんたが俺の前で色々と魔法を使ってただろ。一回見れば覚える」
「ほう……つまり、私はお前の師匠ということですね」
ダリウスはくくっと笑う。
「師匠に対する態度がなっていないので、指導が必要ですね」
ダリウスの体から光が発っし、無数の矢がレイに向かって飛ぶ。
「いけない! 連続光弾です!」
カーティスが叫ぶ。ドンドンと激しい音がして、レイの姿が見えなくなる。
「レイ! 師匠! 二人を止めて! レイを助けて! レイが死んじゃう!」
リディアは悲鳴を上げる。
「無理だ。ふたりのレベルが高すぎて、下手に手を出すとこっちが死ぬ!」
「そんな……」
リディアは呆然とする。
目の前でレイがひどい目に逢っているのに、何もしてあげられない自分の無力さに絶望した。
「今のは初めて見たな」
レイの声がするのと同時に、今度はダリウスに向かって無数の光の矢が降り注いだ。目を見開いたダリウスは両腕で顔を覆い、防御壁を作る。
「こいつ……」
防御壁で防ぎきれなかったのか、ダリウスの服はところどころが焦げてぼろぼろになっていた。頬や腕も傷つき、そこかしこから血が出ている。
「一回見れば覚えるって言っただろ」
レイはあれほどの光弾を不意打ちで食らったにもかかわらず、衣類の乱れがほとんどなかった。
表情にも余裕がある。
「レイさんの勝ちですね。明らかにダリウス長官が押されています」
「ああ。レイの奴、天才だとは思っていたが、ここまでとはな」
カーティスとシリルは二人の攻防を見つつ、感嘆する。
ダリウスはこれまで〝稀代の大魔法使い〟とされていた。そのダリウスを圧倒的に凌ぐ存在が現れるなんて、誰が想像しただろうか。
レイはゆっくりとした足取りで、ダリウスに近づく。
「最後に言い残すことは?」
レイに冷ややかな眼差しを向けられたダリウスは、くくっと笑い始めた。
「お前が私に勝てるとでも思っているのか?」
「……頭がイカれたか?」
「下がれ! 一歩でも動けば、あの女の命はない!」
ダリウスがそう叫んだ瞬間、リディアの首に巻き付いていた紐がシュルシュルと締まる。
「うっ……くっ」
リディアは苦しさから、声にならない声を漏らした。
「ダリウス長官! 一体何を! おやめください! 彼女は無関係な市民です!」
カーティスが、必死に止めようとする。
「だまれ! お前たちも一緒だ。動いたらこの女を殺す」
「くっ!」
カーティスとシリルも動きを止める。
ダリウスの様子からして、下手に動けば本当にリディアが殺されてしまうだろう。
「……何が望みだ?」
レイはぎりっと奥歯を嚙むと、低い声で問う。
「簡単なことですよ。まずそこのおふたり。あなた達には私の忠実な僕になってもらいましょうか。なにせ、お前が私の優秀な部下を何人も殺してしまいましたからね」
ダリウスは薄ら笑いを浮かべながら、答える。
「誰がおまえみたいな悪人に仕えるか。バカも休み休みに言え」
反抗したのはシリルだ。
「なら、死んでもらうまでです」
ダリウスは笑う。
軽く手を一振りすると、シリルの体がドンッと吹き飛ばされ床に倒れ込んだ。
(師匠!)
無事か確認したいのに、首が締って声が出ない。涙で視界が滲む。
「そしてお前。またフォシニとして使うつもりでしたが、あまりにも危険すぎます。ここで死んでもらいましょう」
レイは暫く俯いて黙り込んでから、ようやく口を開いた。
「俺が死ねば、リディアを解放するのか?」
「ええ、約束しましょう」
ダリウスは頷く。