軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1話 ジュルチャガは語る(後編)《イラスト:ジュルチャガ》

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ええっと、どっから話したらいいかなあ。

そうそう、バルドの旦那。

あのおっさん、覚えてるでしょ。

騎士ヘリダンて人。

あの人、国に帰り着くなり、部下の人たちにはヴォドレス侯爵家に戻って報告するように命じて、自分一人、ファファーレン侯爵家に向かったんだよね。

で、ファファーレン侯爵に会ってドーラの手紙を渡して、質問されたことには答えた。

この辺までは知ってるよね。

ファファーレン侯爵さんはね、騒ぎを大きくしたくなかったみたいなんだ。

ところがアーフラバーンの兄ちゃんは、ドーラのこととなると気違いみたいになるからね。

ヴォドレス侯爵家に行かした日にゃ戦争になっちまう。

それで、お前がドリアテッサを迎えに行かないでどうするんだ、かなんか言って言いくるめた。

そうしておいて、自分は次男さんと皇宮に行ったわけ。

皇王へーかも事を穏便に済ませたいと思ったんだね。

いろんな国と戦ってるし、国の中にもいろいろあるみたいで、頼りになる侯爵家同士の争いなんて、どうでも避けたかったんだ。

で、ヴォドレス侯爵に病気見舞い、つー名目で勅使を出した。

そのころ、ヴォドレス家も大騒ぎになってた。

何しろ、自慢の騎士隊が一つ、壊滅状態で帰って来たんだ。

それも、守るはずのドーラを襲って返り討ちにあったってんだから、わけわかんないよね。

生き残った従騎士や従卒の報告は、いまひとつはっきりしない。

そこに勅使がやって来た。

ヴォドレス侯爵は、自分の命令ではないこと、真相究明に協力しどんな罰でも甘んじて受けることを勅使に誓ったんだね。

関係者はこっそり皇宮に集められた。

騎士ヘリダンもね。

こーゆー場合、騎士の証言と、そうでない人の証言は、全然重みが違うんだねー。

あ、ヘリダンて、結構ゆーめーな人だったみたい。

先代侯爵の側近として戦場を駆けまわってさ、先代の皇王へーかを助けたこともあるんだって。

何か事件があって爵位は受けず、独身のまま忠義一筋でやってきた人らしーよ。

で、ヘリダンが宣誓して証言した。

確かにドリアテッサ子爵殺害の陰謀を企てたこと。

どこからともなく現れた三人の騎士が、自分たちを打ち破ってドリアテッサ子爵を助けたこと。

自分は戦闘開始直後にバトルハンマーで頭を打たれて気を失って、戦闘の中身は知らないこと。

なんか、バルドの旦那のこと、すごい褒めてたらしいよ。

物腰といい風格といい、名のある騎士に違いないって。

それに、バルドの旦那が敵の死体を丁寧に扱って、祈りを捧げてるのを見てたらしくってね。

ああ、この相手に負けてよかった。

自分たち邪な者は破れ、ドリアテッサ子爵は辺境の山奥で魔法のように守護騎士にめぐりあった。

やはり神々は偉大で、心正しき騎士には歴代皇王陛下のお守りがあるのだ。

って、言ったそーなんだ。

騎士ヘリダンは、誰に命令されてそんなことをしたのかは、ついに口にしなかった。

だからすべては騎士ヘリダンの罪ということになった。

とにかくそれ以上のことは、お兄ちゃんがドーラを連れて帰ってからのことだ、ってことになった。

万が一ドーラが死んでたら、騎士ヘリダンは死罪を免れない。

ところがそのあと、事態は急展開したんだ。

マリエスカラ妃、つまりエルザ姫のお母さんで、ヴォドレス侯爵の娘さん。

そのマリエスカラ妃付き女官頭が自殺したんだ。

遺書を残して。

宛先が、なんと、へーかだった。

場合が場合なんで、その遺書は皇王へーかに届けられた。

そこには、女官頭が目撃した事実が書いてあった。

マリエスカラ妃が、嫌がる騎士ヘリダンに先代侯爵の恩義を言い立てて、無理やりドーラ殺しを承諾させたこと。

騎士ヘリダンに同行する二人の騎士に、いろいろ悪計を授けたこと。

ええと、ボーバードの領主にうまいこと言って協力させろとか。

ドーラに死ぬよりつらい辱めを与えろとか。

目撃者は殺せとか。

それで侍従長とかいう人が、マリエスカラ妃の所に真偽を確かめに行った。

マリエスカラ妃は、狂ったようにわめき回って、自分の所業を白状した。

それに思いっきりへーかの悪口を言ったらしい。

陛下が下賤な者の娘をえこひいきするからいけないんだ。

陛下が自分にかまってくれないからいけないんだって。

そういうのを言うのって、いけないんだってね。

たちまち謹慎を命じられたそうなんだ。

お后の一人が謹慎で、その女官頭が自殺。

さすがにもう噂を抑えきれなくなっちゃったらしくってね。

なんか暗くて異様な雰囲気になってきたらしいんだ。

さあ、そんな時だよ。

アーフラ兄ちゃんに連れられて、ドーラが堂々の凱旋さ。

しかも、立派な立派な大赤熊の魔獣を仕留めて。

みんなもう、びっくり仰天して大騒ぎ。

それまでのくらーい空気なんか、吹っ飛んじゃった。

ほんと、すんごい歓迎ぶりだったよ。

さっそく皇宮の大広間で、みんなの前で報告会ってことになった。

ところがね。

ドーラったらさあ。

あんまり細かい戦いの経緯とか、覚えてないんだよね。

バルドの旦那のこととか、そもそも知らないし。

それで、どうなったと思う?

えへん。

おいらさ。

この大盗賊ジュルチャガ様の出番ってわけさ。

いやいや。

最初呼ばれたときはさ。

ばれたか、って思ったよ。

そんなはずないのにね。

あっちのほうじゃ仕事したことないんだから。

ほっとして気が緩んで、ちょっと調子に乗っちゃったかもしんない。

ほんとは、俺っちなんかが入れない場所なんだよね。

大道芸人みたいな服着せられてさ。

準貴族の位をもらっちゃったよ。

そうでなきゃ、皇宮の奥のほうには入れないから。

皇王様はじめお歴々の前に引き出されてね。

皇王様の隣にいるおっちゃんが、いちいち訊いてくるんだよ。

「その者、名と身分を申せ」

「は、はー。

これなるは、バルド・ローエン卿が臣ジュルチャガにございます。

身の上はしがなき者にて、斥候偵察伝令その他あるじの用を致しおります」

「そちのあるじは何者か」

「は、はー。

されば、ここ大ゴリオラ皇国皇都より東に百六十刻里、南に二百刻里にしてパルザム王国交易村パデリアあり。

パデリアより大オーヴァを渡ればリンツの街あり。

リンツよりさらに東に向かい、山を越え谷を渡りおよそ四十五刻里、〈大障壁〉の大いなる切れ目を望んでパクラ領がございます。

切れ目よりは毎年何十頭もの魔獣が忍び入ってまいります。

太古の昔よりその魔獣を討って世のため人のため尽くしてきましたのが、このパクラ領領主テルシア家。

テルシア家筆頭騎士にして、四十年にわたり魔獣を討ち賊を退け、領民はもとより近隣の民からも〈人民の騎士〉と呼ばれ神のごとく敬われし騎士こそ、わがあるじにございます。

ゆえあってあるじはパクラを離れ、わたくしめを供にフューザを目指して旅立ちました。

途次これに加わりましたのが、ポドモス大領主領メイジア領主ゴドン・ザルコス様と、わがあるじの養子カーズ・ローエン様。

いずれも一騎当千の手練れにございます」

てな感じでね。

いやあ。

あんなに食いつきのいいお客さんは久しぶりだったなー。

おひねりへの期待も高まるってもんさ。

もう、魔獣退治の場面なんか、すごかったよー。

ちょうど、頭と毛皮の現物が横に置いてあったしね。

「そもそも大赤熊といえば巨体にございますが、これこの通り、その 巨(おお) きさ飛び抜けた魔獣でございまして、前脚を振り上げれば二階から見下ろすようでございました。

その恐ろしき雄叫びに臆することもなく、カーズ・ローエン卿は前から魔獣を引きつけ、ゴドン・ザルコス卿は後ろから痛打を重ね、頃やよしとみてドリアテッサ様は稲妻のごとく駆け寄り、 腰撓(こしだ) めに愛剣を構え山のごとき魔獣の横腹に勇敢にも飛び込まれたのでございます。

ああ。

ああ、そして。

弓も矢も通さず達人の槍をもはね返す鋼の毛皮は、姫騎士様の渾身の一撃をはじきかねて。

ドリアテッサ様の刺突は、深く深く、恐ろしき獣の脇腹をえぐりました。

その致命の一撃を与えし剣こそ、ファファーレン侯爵家の秘宝にして御兄上が心を込めて託されし魔剣 〈夜の乙女〉(シャーリ・ウルール) だったのでございます。

瀕死の魔獣は、おのれを殺す相手に一矢報いんとてか、断末魔のうめきを上げつつ右前足でドリアテッサ様をなぎ払いました。

白銀の鎧は見事ドリアテッサ様を守ったものの、魔獣の振る腕烈風のごとく。

ドリアテッサ様ははじき飛ばされ、さらにその上にのしかからんとする魔獣。

危うし、ドリアテッサ様っ。

そのとき!

わがあるじバルド・ローエン卿の剣が一閃し、にっくき獣の首をはね飛ばしたのでございます」

ここで、おおおおお、ってどよめきが上がるね。

それで、そのあとさ、

「ドリアテッサ様は、よろよろと起き上がり、魔獣の首に近寄ると、このように両の手を当て」

って、現物使って身振り手振りしながらね、

「静かに嗚咽をもらされたのでございます。

それは怯懦の涙にあらず。

神護(しんご) と歴代聖上の御徳により本懐を遂げた騎士の、 歓喜(かんぎ) 感恩(かんおん) の涙。

居合わせる勇士たちに、もらい泣きせざるはございませんでした」

え?

いや、分かってるよ。

ほんとに泣いてたのはゴドンの旦那だけだったけどね。

まあ、それは演出上の都合だからさ。

え?

何のことさ。

お前もか、って。

とにかくそうやって、おいら、一世一代の語りを終えたんだ。

そしたらね。

皇王様がね。

すごいお喜びで。

たくさんご褒美を下さったんだ。

いや、それはいいんだけど。

何とかって名前のお偉いさんが、こんなこと言い出したんだ。

「ああ、何という物語でしょう。

まさに騎士道の華。

シェルネリア姫様に栄光の一枝を献上せんと魔獣に挑みし乙女騎士に、神々は試練を与えたもうた。

しかして姫騎士がその試練に敢然と立ち向かう姿を神々は 嘉(よみ) したまわれた。

歴代聖上のお徳は辺境をさすらう偉大なる老騎士の姿をとって現れたのです!

この首と毛皮が何よりの証左。

心正しき者よ諦めるなかれ、必ず救いはある。

と、この奇跡の物語を通じて、歴代聖上はわれわれにお示しくださったのです。

これがわがゴリオラ皇国の 弥栄(いやさか) の証しでなくて何だというのか。

畏(おそ) れながらお 上(かみ) に 言上(ごんじよう) つかまつります。

まもなく新年慶賀に国中の騎士貴顕が参内いたします。

この物語を、彼らに広く聞かしめるべきでございます」

なんか、みんなすごい盛り上がっちゃって。

今の語りをまたやれって言われて。

カ、カーズ!

なんでそんな目でおいらをにらむんだよっ。

で、どうしたかって?

んなもん、断りようがないじゃん。

断ったりしようもんなら、ドーラの顔がつぶれちゃうよ。

だいたい、おいら、国王の賓客としてパルザム王国に呼ばれちゃったバルドの旦那が差し向けた家臣なんだからね。

つまり代理でしょ。

説明義務ってもんがあらあね。

七日間連続で 演(や) ったんだよ。

あ、ただし、護衛のはずの騎士隊が襲ってきたところは、神の試練により妖魔に体を乗っ取られたってことになった。

武神マダ=ヴェリは栄光を与えんとする者にまず試練を与う、っちゅうわけで。

いや、それで終わりだと思ったんだけどね。

誰かが言い出したんだ。

平民たちにも聞かせるべきでございます、って。

で、皇宮前の広場で、また七日間。

いや、もう、すんごいおひねりもらっちゃった。

本業が何かを忘れそうになったよ。

まあ、そんな感じでさ。

神々と歴代の皇王陛下の御霊が差し向けた出来事っていうことになってね。

ドーラの競武会出場が決定。

マリエスカラ妃は、エルザ姫の結婚が終わったあとに、病気を理由に後宮を出て実家に戻ることに。

騎士ヘリダンは、その処遇をヴォドレス侯爵に一任されたんだけど、結局、女官頭の遺髪をもらって、どこかに消えちゃったらしーよ。

若いころ恋人同士だったんだって。

ドーラは今や国一番の人気者さ。

あ、それからね。

ヴォドレス侯爵は、謝罪のしるしに全領地の三分の一をファファーレン侯爵に差し出したって。

ま、取りあえずの報告は、こんなとこかな。

え?

ゴドンの旦那がどうしたって?

ああ。

それね。

いや、だからさ。

騎士ヘリダンて人は、けっこうゆーめーな人だったんだってば。

大勢の敵に取り囲まれて袋だたきになっても、身を盾にして主君を守りきったとか。

どんなに打撃を受けまくっても膝を突いたことがないとか。

ふとーの騎士、とかってあだ名があるらしいよ。

その騎士ヘリダンを一撃で倒したってんで、ゴドン・ザルコスってのは何者だ、ってことになったみたいだよ。

いろーんな人からゴドンの旦那のこと、聞かれた。

だから、ちゃんと説明しといた。

ちゃんとね。

イラスト/マタジロウ氏