軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 暴風将軍

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結局、エングダルのもとに行くメンバーは、次のように決まった。

ゾイ氏族の族長代理、ヤンゼンゴ。

ゾイ氏族の若者、メリトケ。

パルザム辺境騎士団の第一大隊長にして騎士団副団長、マイタルプ。

パルザム辺境騎士団の若手騎士、ラホリタ。

バルド・ローエン。

ゴドン・ザルコス。

カーズ・ローエン。

バルドは詳しい場所は言わなかったが、オーヴァの東側であることと、ヒマヤよりはリンツに近い場所だと言った。

それならオーヴァに沿って交易村パデリアまで南下し、そこからリンツに渡ればよい、ということになった。

パデリアまでは、およそ百七十刻里の距離だという。

一日に十刻里を駆けても十七日かかるわけだが、辺境騎士団の騎士は、十五日で駆けるという。

いずれにしても、山や谷の多い東部辺境と違い、オーヴァの西側は草原と砂漠が広がっているので、水と食料さえ確保できれば長距離を短時日で移動できる。

なにしろバルドは、オーヴァの西の事情にうとい。

辺境騎士団の騎士が同行してくれれば、道も案内してもらえるだろうし、物資の補給も安心だ。

しかも、交易村パデリアは辺境侯の統治下にあり、そこでは辺境騎士団の権威が大いに役立つだろう。

同行してくれるのが騎士団の第二席というべきマイタルプ副団長なのだからなおさらである。

出発しようとしたところ、巡回に出ていた部隊が帰って来て、オーヴァのほとりでマヌーノが集落を作っていた、と報告した。

マヌーノは人間の下半身が蛇になったような奇怪きわまる亜人で、普段はフューザの麓の大湿原にしか住まない。

ところが、どういうわけか、時々雨期のあとなどにオーヴァ流域に一時的に住み着くことがある。

とにかく、マヌーノを刺激するわけにはいかないので、南側にある砦を経由してそこからオーヴァ沿いに南下するよう、経路を変えた。

「その経路だと、 暴風将軍(パンザール・エントラ) と出くわさないか心配だが、人数も少ないから、まあ大丈夫でしょう」

と、ザイフェルトが言った。

バルドは、それは誰かと訊いた。

暴風将軍は、最近になってガイネリア王に仕えるようになった武人らしい。

ガイネリアは大陸中央でも最も古い国の一つだが、やたら歴史を鼻に掛けて他国を見下し、面倒な儀典古式にこだわる頑迷な国で、すっかり小国に落ちぶれているのだという。

今まで他国人を重く使ったことのない国なのだが、暴風将軍はあっという間に頭角を現して軍権を委ねられた。

野獣や盗賊を討伐し、次々に砦を築き、通過しようとする他国の隊商を追い返し、あるいは関税を取って、実効支配地を着々と広げている。

戦えば負け、負けては支配地を削られていた国にとり、救世主にひとしい。

もともと砂漠や草原には国境などない。

点と点を結ぶように実効支配地を増やし、守っていって領土権を主張するしかないのだ。

ガイネリアはゴリオラ皇国とパルザム王国の中間にあり、どちらの首都よりもロードヴァン城に近い。

今までは死んだような国だったから問題にならなかったが、このいきなりの伸長で、東に伸びすぎたパルザムの勢力圏は分断されかかっている状態なのだという。

「暴風将軍という呼び名だけが有名で、本名は知られておりません。

剛勇無双にして神出鬼没。

部下には手厚く面倒見がよく公正で、おのれの利を求めぬ男だそうです。

何度かガイネリア王から領地下賜の沙汰があったが断ったとか」

暴風というあだ名に心当たりがあったのだが、その人物像では、心に浮かんだ人物のわけはない。

剛勇無双と神出鬼没以外の点が、まるで当てはまらない。

一行は出発した。

二日かかって南の砦に行き、一泊してさらに南に向かって二日目のことである。

後方にのろしが上がった。

こんな砂漠のまん中に斥候を置いていたのだ。

果たしてしばらく進むと前方に百騎近い騎兵が現れた。

うち二人が前方に待ち構え、ほかの騎兵たちは遠巻きにしている。

「あの全身黒ずくめのいでたち。

うわさに聞く暴風将軍に違いなかろう。

わしが話してくる。

ただ通行するだけだと名誉にかけて誓えば、通してくれるはずだ」

と、騎士マイタルプは言ったが、バルドは、そうはいかんじゃろうなあ、と思った。

暴風将軍とやらは、目にどう猛な喜びを浮かべて、バルドを見ている。

ジョグ・ウォードだった。

2

〈暴風〉(パンザール) ジョグ・ウォードは、カルドス・コエンデラの庶子だ。

何度もバルドに打ち負かされ、バルドの首を取ることを生き甲斐にしているような男だ。

出奔したとは聞いていたが、こんな所で将軍に収まっていたとは驚きだ。

「バルド・ロォォーーエンーーーー!」

大声を放ちつつ駆け寄ってくる。

そのすさまじい殺気に、騎士マイタルプも話し合いどころではないと気付いたようだ。

最初に反応したのは、ゲルカストの若者メリトケだった。

突然飛び出して、武器を振り上げ、まっすぐジョグ・ウォードに向かって行った。

ヤンゼンゴよりわずかに小柄だが、メリトケの体軀は人間よりはるかに大きい。

手は膝に届く長さで人間の足より太いほどだ。

右手に握るのは〈クィタン〉と彼らが呼ぶところの反りのある片刃の曲刀。

またがるのは〈ヒエルド〉と呼ばれる巨大な羽なし鳥で、持続力は馬に劣るが瞬発力では勝る。

こんなものが突進してきたら、歴戦の勇士でも怖じ気をふるう。

だが、ジョグ・ウォードにはわずかなひるみもみられない。

両手で持った剣を肩にかつぐような格好で持ったまま、速度をゆるめずに突っ込んでくる。

手綱から手を放したままであるのに、 驀進(ばくしん) する上半身に不安定さはみられない。

股と足の強い筋肉でしっかり馬身をとらえているから、そのようなまねができる。

と、交差する少し前に針路を右に変えた。

下手をすれば相手と正面衝突しかねない危険な針路取りだ。

手綱も使わずこれをやるには、よほど馬と心が通い合っていなければならない。

メリトケは左手ににぎった手綱を器用に操ってこれに応じ、両者は相手を互いに左に見つつ交差した。

頭の位置は、メリトケのほうが少し高い。

ジョグ・ウォードの剣は、恐ろしく長大で剣身が黒い。

その馬鹿でかい剣が異様なうなりをあげて真上から振り下ろされた。

メリトケの曲刀は、わずかに遅れてこれを受け止めたが、ジョグ・ウォードがふるう文字通り暴風のような大剣は、曲刀を押さえ込みつつメリトケの頭頂を直撃した。

両者はすれ違った。

メリトケは巨大鳥からたたき落とされた。

ジョグ・ウォードはくるりと馬を反転させ、上から敵をにらみつけた。

おいおい、とバルドはあきれていた。

なぜなら、今ジョグが行った攻撃は、若き日のバルドが得意とした技だったからだ。

まったく手綱を使わずに自在に馬を操り、的確なタイミングで転進しなければならない。

高度な馬術が必要だし、利口でよく訓練された馬がなければできない。

長く重い両手剣と、それを存分に振り回す筋力も必要だ。

急に転進して速度を落とすことで、その突進の力が剣に加わる。

普通は横に振る大剣を上からたたき付けるため、狙いも難しいがかわすのはなお難しい。

しかもこちらはあらかじめ左側の敵に打ち込むための腰のためを作っている。

敵はそうではないから、攻撃が浅いものとなる。

そういえば、やつが尻の青い小僧だったころに、やつの前であの技を使ったことがあったわい。

シーデルモントもジュールランも、ようまねせなんだ技じゃったがのう。

それに、あの剣は何じゃ。

前見たときより、ずっと長く重そうな剣じゃ。

あんな物を振り回せる豪傑は、そうそうおらんじゃろう。

技がどうこういう前に、両手大剣を乱戦で使う騎士はあまりいない。

盾も持てないし、防御を捨て去らないと使えない武器だからである。

攻撃して攻撃して攻撃し抜く気力と、あらゆる攻撃を体で受け止める体力がなければ使えない。

だが、使いこなせれば、その突破力はすさまじい。

盾ごと相手を打ち抜いて倒せる武器なのだ。

実際、ジョグ・ウォードの前で大剣をふるったとき、バルドはただの三振りで、敵の指揮官と副指揮官二人を戦闘不能に追い込み、圧倒的に優勢な敵軍を壊乱させた。

脳しんとうでも起こしたのか、立ち上がれないメリトケに、ジョグは黒剣を振り上げた。

殺すつもりだ。

せっかくの宿敵との決闘を邪魔した無粋者に、ジョグは決して容赦しない。

バルドは駆けだした。

カーズが追従しようとしたが、手で制した。

ユエイタンの足音を素早く聞きつけて、ジョグが振り向いた。

その顔にあるのは喜悦だ。

やっとバルド・ローエンを殺せるときがきた、とジョグは思っているはずだ。

それは正しい。

今やジョグ・ウォードは、バルド・ローエンより強い。

再び馬首をめぐらせてバルドのほうに向き直ろうとするジョグ。

目覚ましい加速でジョグに迫るバルド。

その両手は手綱を握ったままで、剣は抜いていない。

なぜ剣を抜かないのか。

とまどいながらも両手で黒剣を振り上げるジョグ。

馬の横腹と横腹をぶつけるような態勢でその懐に飛び込むバルド。

ジョグの黒剣が振り下ろされる。

たとえバルドが武器を手にしていなくてももはや容赦はない。

その斬撃は、じゅうぶんな勢いを持っているとはいえないが、素手の相手を殺すには足りる。

バルドは左腕を振り上げ、手首と肘の中間の部分で黒剣を受け止めた。

その部分は鎧が右手より太い。

魔獣の骨から削りだした芯が五本、盾代わりに埋め込まれているのだ。

革鎧職人ポルポ苦心の傑作である。

バルドの上背はジョグのそれとほぼ同じだが、馬の体高はユエイタンがまさっている。

そのため、剣に速度が乗る前に止めることができた。

黒剣を受け止めておいて、バルドは右の拳を繰り出した。

強く握られた鉄拳が、うなりをたててジョグの顎を右から左に打ち抜いた。

その手甲にも、魔獣の骨が使われている。

意識を飛ばされたジョグが、落馬した。

バルドも馬を下りて、古代剣を抜いた。

「バルド・ローエン!」

声のしたほうを見ると、一人の騎士がメリトケの喉に剣を突き付けている。

見たような顔だ。

ジョグに付き従っていた男の一人だ。

よい面構えになっている。

ちょうどよいとばかりに、バルドは訊いた。

おぬしたちは、なんでこんな所におるのか、と。

「あんたがフューザを目指して旅に出たと聞いたからだっ。

ジョグはフューザの行き帰りに一番通りそうな、ここらに網を張った。

盗賊に襲われた商隊を助けたら、ガイネリア王に気に入られた。

食いぶちを稼ぐために雇われたんだ」

バルドは、将軍職に就いたとなると、パルザム王国の騎士と行動を共にするわしを勝手に攻撃してはまずかろう、と言った。

「ジョグは将軍になる気なんてなかった。

ただ砂漠を巡回して盗賊や野獣を殺すことと、兵士たちを鍛えることを頼まれただけだ。

そして、ほかにはどんな条件も付けないが、もしもあんたを見つけたら、いついかなる状況であってもあんたとの決着を優先すると王に言ったんだ。

王は、その心意気やまことによしと仰せで、それをお許しになった。

あとは成り行きだっ」

そう言われてみて、バルドにはおよその事の次第が飲み込めたような気がした。

ジョグの行動原理は、ただただ宿敵バルドとの決着をつけたい、という一念にある。

フューザに行くと聞いて、まさかわざわざ幾多の山や谷を越えていくとは思わず、オーヴァの西で待ち伏せた。

公正で部下の面倒見がよいとは笑える。

なるほど公正だろう。

誰もがこの男にとっては等しくどうでもいい人間なのだから。

面倒見がよいというのは、しごいて強くしたということだろう。

雑魚敵に自分や側近が消耗するのを嫌って部下の地力を上げたのかもしれない。

単に自分の練習代わりに兵たちを痛めつけたのかもしれない。

無欲に違いない。

領地にも爵位にも縛られたくなかったろうし、食いぶち以上の金にも執着しなかったろう。

強い敵がいたら喜々として殺しに行ったろう。

その褒美をと言われても、欲しがるものがあるとしたら、頑丈で長い剣ぐらいのものか。

将軍の座を受けたというのが驚きだが、よく考えたら人に命令されることが大嫌いな男だったから、そのせいかもしれない。

しかも軍権を委ねられているというのだから、最上位の将軍なのだろう。

なるほど誰にも命令されずにすむ。

この男のことだ。

さぞかし骨身を惜しまず砂漠を駆けめぐっただろう。

旅人を助けたり、野獣や盗賊を倒しもしたろうが、実際にはバルドを血眼で探していただけのことなのだ。

なんというまっすぐな男だ。

まっすぐにゆがんでいる。

わけを知らなければ清廉潔白な騎士の鑑にみえなくもない。

バルドは古代剣を鞘に収め、馬上に戻った。

そして、おぬしの名は何じゃったかのう、と訊いた。

「コリン・クルザー」

という答えがあったので、ほかの仲間はどうしておる、と訊いた。

「あとの三人は、それぞれ部隊を率いて巡回をしてるさ。

あんたを探してな」

ジョグという男は、存外人望があったらしい。

四人の側近全員が、ふるさとを捨ててこんな無茶な旅についてきたのだから。

じゃが、それも当然か、とバルドは心の中で笑った。

辺境のもののふは、中央のへなちょこ騎士どもとは骨の太さが違うからのう、と。

バルドは、わしは一度川の向こうに行くが、またこちらに戻ってくる、とコリン・クルザーに告げた。

そして、後ろに控える五人に合図すると、そのまま進行方向に馬を進めた。

コリン・クルザーは、すぐにメリトケを解放した。

メリトケは、倒れたままのジョグに襲い掛かろうとして、ヤンゼンゴに張り倒された。

ジョグは目を覚ましたら、大いに怒るだろう。

探しに探して会えたのに、いざ戦おうとしたら緑の妙なやつに邪魔され、ペテンのように意識を刈られたのだから。

怒って当然だ。

そうとして、それからどうするか。

もしもガイネリア王から与えられた厚遇や部下から寄せられる信頼と、今の自分が背負ってしまった責任に背を向けられる人間であるなら、ただちにバルドの後を追うだろう。

追えば支柱を失ったガイネリアは再び支配地を失う。

追ってくるなら、ジョグもそこまでの男だ。

だが。

願わくば、ジョグ・ウォードよ。

騎士の名誉を知れ。

どの神にともなく、バルドは祈願した。