軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 盗賊団討伐(前編)

1

魔獣を倒したあと、バルドたちは村に戻った。

村長が飛び出してきて、クリルヅーカの足元にひれ伏した。

「し、子爵様!

どうかっ、どうかっ。

われらをお哀れみくださいませ!

山賊が、山賊が。

村が皆殺しにされてしまいますっ。

お助けを。

なにとぞ、なにとぞお助けを!」

驚いたドリアテッサはクリルヅーカから降りた。

「どうしたのだ、 村長(むらおさ) 。

いったい何があった。

落ち着いて説明しなさい」

村長は事情を話し始めた。

話しているうちに落ち着いてきたようで、段々と順序立てて説明できるようになった。

バルドたちが村を出た三日後に、騎士ヘリダンは村を出た。

もともと持っていた荷馬車だけでは負傷者を積みきれなかったので、村の荷馬車二台を買い取って。

それから十数日が過ぎたある日、北の村からペルジャグという若者が息も絶え絶えに飛び込んで来た。

村が山賊に襲われ全滅したというのだ。

しかもボーバードの領主は兵を出してくれそうもないという。

山賊は北の村に居座っているが、食べる物がなくなれば、次に狙われるのはこの村に違いないという。

「おかしな話なんでございます。

北の村もこの村も、ボーバードの領主様とは守護契約を結んでおりまして。

いつもは十日に一度は巡回があるのに、ここ三十日ばかりは巡回がございませんで。

しかも、ペルジャグの申しますには、ボーバードの領主館に駆け込んだら顔見知りの兵士がおりましたそうで。

その兵士に山賊のことを申しましても、あいまいなことを言うばかりで、まともに取り次いでもくれなかったそうなんでございます。

ペルジャグは、これではらちが明かないと考え、この村に来たようなわけで。

私も驚いてすぐに息子をボーバードに遣りましたのが五日前で。

馬で行かせましたから、もうとうに帰って来るはずが、いまだに何の知らせもございません。

こ、このままでは、次に襲われるのはこの村でございます。

せっかくここまでにした村を放り出して逃げるわけにもいきませんし、皆の家財を積み込めるだけの荷馬車もございません。

どうか、どうか、子爵様。

遠いゴリオラ皇国の騎士様にお願いするのは筋違いではございますが、私どもを憐れとおぼしめしくださり、どうかお助けくださりませ」

村長の言い分はよく分かる。

これが流れの騎士や傭兵なら、金銭で雇うということもある。

しかし、貴族を平民が雇うことはできない。

貴族にはただただひれ伏して慈悲を乞うしかないのだ。

そして実情はどうあれ、建前では、貴族は力なき民を哀れみ助ける存在だ。

また、この村とゴリオラ皇国は無関係というわけではない。

ゴリオラ皇国から東に向かって進み、大オーヴァを越え、少し南に下ったところに、ヤドバルギ大領主領がある。

ここはもともとゴリオラ皇国を追放された貴族が流れ着く場所だった。

追放貴族たちは、なにがしかの財貨や家臣あるいは領民を連れてこの地に落ちた。

持ち込んだ知識や道具を生かして辺境開発を始め、そこに人々が集まって、やがて大領主領にまで発展したのだ。

やがてヤドバルギ大領主領の中での権力闘争に敗れた一派が独立してボーバード領となった。

ボーバードはヤドバルギ大領主領のすぐ東に位置するが、両者の仲は悪い。

のちに、ボーバードのさらに東の北と南に村ができた。

ボーバードで罪を犯した者たちが、荒れ地開拓を条件に自由を得て作った村だ。

ここはその南側の村にあたる。

人の手の入っていない奥地ではあったが、ここらは野獣もそう多くなく、地味は肥え、水は豊富で天候も穏やかだ。

そうして今日まで二つの村は平和を楽しんできたのだった。

ボーバードの人々はもちろん、二つの村の民は、ゴリオラ皇国の貴族や民になど会ったこともない。

それでも、自分たちはもともとゴリオラ皇国に発した民だと考えていて、非常な親しみとあこがれを抱いているのだ。

だから、この災難のときにゴリオラ皇国の子爵騎士が居合わせていたことは、天の配剤に思えたのだろう。

すがりつかれたドリアテッサは当惑している様子だ。

無理もない。

同行している騎士たちは彼女の部下ではなく、命令できる立場ではない。

それどころか、簡単には返せない恩義のある相手といってよい。

ドリアテッサが何かを言う前に、ゴドン・ザルコスが、こう言い放った。

「ううむ、それは難儀だな、村長。

だが、安心せよ。

こちらにおられるバルド・ローエン卿は、あまたの魔獣や悪人どもを退治して勇名をはせたおかたで、はるか南方の地では〈人民の騎士〉と呼ばれ、民から尊崇を受けておられる。

ローエン卿が悪いようにはなさらぬぞ!」

おおお、と村人がどよめいた。

お助けくださるそうじゃ。

ありがたや、ありがたや。

バルド・ローエン様じゃと。

人民の騎士様じゃそうな。

などと口々に言いつのった。

中には地に伏して拝んでいる者もある。

バルドは、その様子を苦々しく見つめた。

ゴドン・ザルコスは、何度言い聞かせても、バルドの名を宣伝することをやめない。

いや。

宣伝している気はないのだろう。

これは、ゴドン・ザルコスなりの、民への愛の表現なのだ。

いずれにしても、これは放ってはおけん。

まずは、ペルジャグという青年に話を聞かねばならんの。

と、バルドは思った。

その夜、村長の家で詳しく話を聞き、一行は翌朝出発した。

ペルジャグは夜のうちは同行すると言って聞かなかった。

だが一度眠ると泥のように寝て起きなかった。

北の村からボーバードへ、ボーバードから南の村へと、不眠不休で駆けたのだから無理もない。

コルチという青年が道案内に同行してくれることになった。

北の村を目指して馬を進めながら、バルドは魔獣と戦うヴェン・ウリルの姿を思い出していた。

素晴らしい動きだった。

ヴェン・ウリルは大赤熊の懐に飛び込んで、そこから離れることなく戦った。

ただ一つの打撃をかわしそこねれば命を失うというのに。

平然と涼やかに、剣も抜かずに魔獣を引きつけ続けた。

ドリアテッサや他の者が戦いやすいように。

しかも、いざドリアテッサに危機が迫ると、大赤熊の太い足首を骨ごと切断してみせた。

けっして大きいとはいえない剣のただ一振りで。

剣もよいが、腕もずば抜けている。

その気になればたった一人でいともたやすくあの魔獣を倒せたのではないか。

ヴェン・ウリル。

大した男じゃ。

見事な技を見て、武人としての血が騒いだ。

ヴェン・ウリルが放つ息吹にさらされて、おのれも強くなったような気がした。

バルドは、騎士を夢見た少年の日にかえったように自分の心がわくわくと高揚しているのを感じていた。

その心の高ぶりが伝わったのか、ユエイタンが速く進みすぎるので、時々しずめてやらねばならなかった。

2

一行は野営の準備をした。

北の村までには途中で二度野営することになる。

無理をすれば一度の野営で着く距離だが、疲れ切った馬と人では役に立たない。

「ふう。

ごっそうさまー」

「バルド殿。

ごちそうさまでした」

「おいしかった」

「あるじ殿は料理がうまいな」

根が食いしん坊じゃからの、と受けてからバルドは言った。

ヴェン・ウリルよ。

そのあるじ殿というのはやめてくれんか。

前にも言うたが、わしはおぬしを買ったつもりはない。

おぬしの手伝いはとても助かっておるがの。

この盗賊退治は手伝ってほしいが、そのあとはどこでも好きな所に行け。

「ふむ。

あるじ殿。

私はあるじ殿に、まず三連続攻撃を仕掛けた」

それは一年前のことだ。

コエンデラ家に雇われた刺客として、ヴェン・ウリルはバルドに決闘を申し込んだのだった。

「あるじ殿は、三度の攻撃を三度ともしのいだ。

傷一つ受けずに」

バルドは、それは運が良かっただけのことじゃと言ったが、ヴェン・ウリルは首を振った。

「運でさばけるほど、私の剣は甘くない。

あるじ殿の技量で私の斬撃をしのげるのは、百に一つだ。

百に一つが三度続くことなどあり得ぬ。

私はあのとき、あるじ殿が天に守られていることを知ったのだ。

あるじ殿を殺すことは、天意に背くことだ。

天に背いた人間はほろびるしかない。

私は、あのときまだ滅びるわけにはいかなかった。

だから、あるじ殿とは戦いたくないと思った」

そういえば、あのとき、最初の連続攻撃のあと、ヴェン・ウリルの攻撃は精彩を欠いたようにも感じた。

「私に命令していた愚か者が自ら死んだため、あるじ殿との戦いをやめることができた。

だが金を得る見込みが失われた。

私は天を試すことにして、願を掛けてリンツで自分を売りに出した。

その願を掛けた最後の日に、あるじ殿は私を買った。

必要な金額の十分の一にも満たない金額だったが、これで何とかなるのかもしれないと思った」

バルドは、おぬしは果たさねばならぬ用事があると言っておったのう、それは無事に済んだのじゃな、と訊いた。

「済んだ。

私の妹が、遊郭で客を取らされることになった。

買い戻すには百万ゲイルが必要だった。

私は早くに家を出ていたのだが、あるときそれを知った。

期限が迫っており、あるじ殿の金を持って向かった。

すると妹を妻に迎えたいという男がいて、金を用意してくれたのだが、少し足りないということだった。

あるじ殿の金は、旅に必要な金を使ったあと、足りない分をちょうど補うだけあった。

妹は幸福を得た。

あと数日遅れたら間に合わないところだったらしい。

私はあるじ殿がまさに天意を受けた人だと知ったのだ」

言葉通りには受け止められない話だ。

どれほど高級な遊女であっても、身請け代が百万ゲイルとは法外に過ぎる。

そのほかの部分も、いかにも作り話くさい筋立てだ。

だが、まるきりの嘘ではあるまい、とバルドは思った。

何かの事情で、事実をそのままには口にできないのだろう。

口にすればヴェン・ウリルに危難がふりそそぐか、あるいはバルドたちが火の粉を浴びねばならないようなわけでもあるのかもしれない。

しかし、バルドの問いに黙秘を返したくはなかった。

だから、作り話で答えた。

この作り話の中に、精一杯の真実が含まれている。