軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3話 駆け落ち(前編)

1

バルドは呆然としていた。

ないのである。

かつてあった街が、道が、森の中に消えていた。

バルドの偽物に会ったのはココチの街だった。

この街はヤドバルギ大領主領の中で、中央やや北寄りに位置しており、まっすぐ東に向かえばボーバードに着くはずだ。

バルドたち一行は、ココチの街を出たあと、まっすぐ南に向かった。

今回の旅は、パタラポザと呼ばれる怪物に対面するために、バルド自身の心身を鍛え直すことがおもな目的である。

一応の目的地はメイジアであり、リンツであり、パルザムの王都だ。

死ぬ前にもう一度ジュールに会っておきたかった。

またジュールの息子であるバルドラントにも会っておきたかった。

いやいや、今ではもうバルドラントに弟か妹ができているかもしれない。

バルドラントやその弟妹を抱き上げて祝福の言葉を与えるのは、老い先短いバルドにとり、旅をする意欲をじゅうぶんにかき立ててくれる目標となる。

そんなわけでココチからまっすぐ南に向かったのである。

もともとバルドはこのヤドバルギ大領主領をまともに通ったことがない。

今までの旅では、そのずっと東側の、シェサや、霧の谷や、そしてあの滝のほとりなどを経由したのである。

だが、そういうきつい旅は、今のバルドの体には少し無理だ。

そこで街から街へと移動することにしたのである。

ところが、その街がなかった。

もともと辺境には街道などというものはない。

隣り合った大領主領であっても、あまり人の行き来などというものはないのである。

というよりも同じ大領主領の中であってさえ、街同士の行き来などない場合のほうが多い。

隣り合った街同士や、何か特産物のある街同士が行き来するぐらいのものなのである。

とはいえ、遠方の街に用事で行くものや、各地を放浪する者もあるから、それなりに他の街の噂というものは伝わるし、その気になれば街から街へと移動することもできる。

ところが、あると聞かされていた街がない。

それもいくつもである。

ヤドバルギ大領主領の南半分の街が、ごっそりと消えてなくなっている。

いや。

かすかな痕跡はある。

そこに街があったという証拠が、よくみれば残されている。

では街はどうして滅び去ったのか。

森に食われたのである。

辺境の自然は厳しい。

そこで村や街を作り維持するのは、自然との戦いである。

いざ立派な街ができても、それは自然に勝利したということにはならない。

いつ何時 木々や獣や虫たちによって、街が食い尽くされてしまわないとも限らないのである。

油断してその戦いへの備えを怠れば、森は街を浸食する。

もともと危うい均衡の上に成り立っていた街なのである。

浸食が始まれば、見る見るうちに街は食い尽くされる。

そうして滅んだ街や村を、バルドはいくつも見てきた。

それにしても、この浸食は、かなり広い範囲に及んでいるようだ。

もしかすると、ヤドバルギ大領主領というもの自体、もはや崩壊しているのかもしれない。

ずっと西側のオーヴァ川沿いに大領主の領地があるから、そこまで行けば少し詳しい事情も分かるだろうが、バルドはべつにそこまでしようとは思わなかった。

結局野営続きの旅となった。

バルドの体はきしみ、悲鳴をあげていた。

情けないことだが、これが今のバルドの実際のところなのだ。

夜明けの寒さに震えて目覚めながら、バルドはため息をついた。

体が弱れば心も弱る。

こんな状態でパタラポザと向き合うことなどできない。

2

それでもバルドは必死で考え続けた。

パタラポザに会うということ。

それはおそらく避けられない。

だが、会ってどうすればよいのか。

まともに戦える相手ではない。

物欲将軍が万全の状態で油断なく戦いを挑んできていたら、バルドには勝ちようがなかった。

今なら分かる。

物欲将軍は、生きることに倦み、世界を試したのだ。

わしを滅ぼしてみよ、さもなくばわしが世界を滅ぼすぞと。

特に二度目の戦いのときはそうだった。

あれほどむちゃな戦い方をした理由は、ほかに考えられない。

恐ろしい男だった。

たいした男だった。

だがその物欲将軍も、怪物パタラポザにはまったく対抗し得なかった。

マヌーノの女王もそうだ。

あのマヌーノの女王でさえパタラポザの力には抵抗できず、しもべとして使役された。

女王が言っていたではないか。

悪霊の王は、死なず、衰えず、強大な力を持っていると。

そしてまた竜人たちもそうだ。

あれほど〈あるじ〉たるパタラポザを憎みながらも、何百年にわたり仕え続けた。

そうするほかなかったのだ。

それほどに、パタラポザは強い。

神々に匹敵する強さを持っているだろう。

その意味では、やつも神の一柱と呼んでよい。

フューザの風穴の奥の迷宮を探索した仲間たち、エングダルやイエミテは、やつとの対決のときには自分たちを呼べ、と言った。

だがバルドにその気はなかった。

力で対抗できるような相手ではないのだ。

対面は避けられない。

やつがそれを望んでいるからだ。

その対面に、バルドの心の臓は耐えられるだろうか。

怪物にひとにらみされただけで、この老いた体は冷たい 骸(むくろ) となってしまうのではないか。

落ち着け。

怖れるな、バルド・ローエン。

恐怖は目を曇らせ、手足をちぢこまらせる。

バルドは自分にそう言い聞かせるのだが、怪物の正体がみえてくればくるほど、心の奥底に恐怖が湧いてくる。

その恐怖を完全に抑えることはできない。

抑えたと思ったその矢先に、また恐怖は湧いてくる。

なんという無力感だろう。

怪物のことを考えていると、手足を大地に投げ出して、そのまま地面に溶けて消えたいような気持ちになる。

そんな自分を叱咤しながら、バルドは思考を続けた。

怖れるな、バルド・ローエン。

大きなものほど弱点も大きいのだ。

考えろ、考えるのだ、バルド・ローエン。

かの怪物の弱みとは何か。

野営続きで疲れ、冷え切った体で、しかも馬に揺られながら正常な思考を保つのは、ひどく困難なことだった。

だが、それでよい。

それでこそよい。

安楽な状態で策を巡らせても、安穏とした思いつきしか浮かばない。

困難の中で苦しみながら絞り出した考えこそ、本当の策だ。

考えろ。

考えるのだ。

やつは強大な力を持っている。

その最大のものの一つが、他者の思考を読み取り、心を操って他者を支配するということだ。

しかしその最大の武器は、わしには使えぬ。

わしの心を〈よごして〉しまえば、わしが持つこの古代剣もまた〈よごれて〉しまうからだ。

よごれた古代剣では、ジャン王の〈遺産〉を呼び出すことはできない。

だからやつは、その強大な呪力をもってわしの心を支配することはしない。

できないのだ。

これはおそらく、確かなことだ。

疑うな、バルド・ローエン。

そのことは疑ってはならぬ。

そしてまた、やつはわしを簡単に殺すこともできない。

やつは古代剣の使い手が、自発的に自分に協力するように求めるしかない。

わしを殺したとしても次の使い手が現れるのを待てばよいのだから、いよいよのところではやつはわしを殺すかもしれん。

しかしやつはまずはわしを説得しようとするじゃろう。

そこに交渉の余地がある。

しかし交渉といっても、何を交渉すればよいのじゃ。

やつから何を引き出せばよいのじゃ。

また、やつに与えてよいものは何で、与えてはならぬものは何か。

考えろ、バルド・ローエン。

考えるのじゃ。

いっそ、〈コーラマの憤怒の矢〉を呼び出してみようか、という衝動にバルドは駆られた。

今が初めてではない。

何度も何度もその誘惑はバルドを襲った。

古代剣は、〈コーラマの憤怒の矢〉に働きかける力がある。

その呼び声はおそろしく遠くから届くと、竜人エキドルキエも言っていたではないか。

竜人たちは大陸中を捜索して〈コーラマの憤怒の矢〉を見つけられなかった。

だから中継装置を使って世界の果てにまで呼びかけるしかないと思った。

しかしそれは分からないではないか。

案外近くに隠されているかもしれないではないか。

この古代剣を持って呼びかければ。

使い手であるバルドが呼びかければ。

〈コーラマの憤怒の矢〉は応えるかもしれない。

大陸中を歩き回りながら〈コーラマの憤怒の矢〉に呼びかけ続ければ反応が返ってくるかもしれないではないか。

もう少しでバルドはそれを試してみるところだった。

だがそうしようと思うたびに、竜人の族長の顔が目に浮かぶ。

試練の洞窟を出て以来、竜人は不気味な沈黙を保っている。

だが、本当にそうか。

ひそかにバルドを見張っているのではないか。

今こうしている瞬間にも。

もしもバルドが〈コーラマの憤怒の矢〉を呼び出すことができたら、そのときただちに竜人が姿を現し、バルドの心を支配し、〈コーラマの憤怒の矢〉を手に入れるかもしれない。

そんなことになったら、怪物パタラポザは滅ぼされるかもしれないが、人間たちには地獄が待っている。

竜人たちの奴隷となり、使役され、引き裂かれ食われる運命が待っている。

竜人たちにとり、パタラポザは憎むべき敵だが、人間もまた目に刺さったとげのような存在だ。

彼らが再び大陸のあるじとなったとき、人間には絶望しかない。

だが、それにしても。

〈コーラマの憤怒の矢〉を呼び出して怪物パタラポザを倒せるという確証があれば、バルドはそれを試みたかもしれない。

しかし、〈コーラマの憤怒の矢〉を呼び出したとしても、どうやって囚われの島に行けばよいのか。

その方法がない。

つまり、〈コーラマの憤怒の矢〉を呼び出したとしても、パタラポザを倒せないのだ。

だめだ。

だめだ。

力で勝とうとする方法は、だめだ。

第一、〈コーラマの憤怒の矢〉にしても、本当にそんなものがあるのか、それを手に入れたとして扱いきれるのか、本当のところは分からない。

竜人の長と、そして竜人エキドルキエから聞いた知識としてしか、バルドは〈コーラマの憤怒の矢〉について知らないのだ。

そんなあやふやなものに、人間の、大陸の未来を賭けるわけにはいかない。

ここは浮つく心を抑え、地に足を付けた考えを持つべきだ。

バルドは必死に考えをまとめながら、とぼとぼとユエイタンの背で揺られている。

カーズはもちろんのこと、セトも、そんなバルドの邪魔をしないように気を付けていた。

やがて、ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。

雨脚は次第に強くなり、三人と三頭の馬はびしょぬれになった。

〈バルド・ローエン〉

〈バルド・ローエン〉

3

「あそこに館があります。

騎士の館でしょう。

ここらの領主ではないでしょうか。

あそこに一夜の宿を頼みましょう」

セトが木々の切れ間に見えた屋敷を指さして言った。

バルドはあまり貴族の、つまり騎士の館に宿を乞うたことがない。

ガンツがあればガンツに、なければ農民の家に宿を借りるのが好みだ。

堅苦しいことが嫌いだからである。

しかし半日のあいだ雨に打たれ、バルドはすっかり 憔悴(しようすい) していた。

セトの言葉にも口を開いて返事はせず、ただうなずいた。

近づいてみると、非常に古めかしくはあるが、立派な館だった。

しかも山肌にそって屋敷は広がっており、相当な大きさである。

セトは馬から降りて戸をたたいた。

「ごめんくだされ!

ごめんくだされ!

これなるはフューザリオンの騎士バルド・ローエン卿とその一行。

雨に降られて難渋いたしております。

一夜の宿をお貸し願えませぬか。

ごめんくだされ!

ごめんくだされ!」

セトはしばらく戸をたたき続けた。

やがて細くドアが開けられた。

隙間から見える相手は手燭を掲げている。

老人だ。

しかもきちんとした侍従の服に身を包んでいる。

この館のあるじは思ったより身分のある人物のようだ。

「フューザリオンの騎士バルド・ローエン様とおっしゃいましたか」

「いかにも」

「パクラの騎士バルド・ローエン様ではいらっしゃいませんか」

「わがあるじは、もとはパクラの騎士にござる。

今は辺境の北部フューザリオンのオルガザード家の客分でいらっしゃいます」

老いた侍従は戸の隙間からバルドの顔をのぞき見た。

年輪を刻んだ顔は、夜の闇の中に確かにバルドの風貌を確かめたようだ。

戸を大きく開いて侍従は言った。

「お入りくださいませ」

4

侍従はバルドたち三人を館に迎え入れた。

馬のくつわは小姓が受け取った。

厩に入れてくれるという。

ありがたいことだ。

マントや帽子などを預かると、侍従は三人を二階に案内した。

ありがたいことに、すぐに湯が運ばれてきた。

辺境の旅では、こういうところがありがたい。

薪にする木に不自由しないため、湯がふんだんに使えることが多いのだ。

もちろんそれには人手が必要であるから、こうした不意の客にただちにこうしたもてなしができるというのは、使用人たちのしつけが行き届いていることを示している。

館のぬしは、クルト・アレンダスという騎士だった。

そのアレンダス卿が、

「バルド・ローエン殿といえば、パクラのローエン卿か。

そうであるなら、ただちにお部屋にご案内せよ」

と侍従に命じたという。

そのあるじの声に侍従は敬意と好意を感じたのだろう。

バルドたちへの扱いには丁寧さと暖かみがあった。

着替えを与えられてさっぱりしたバルドたちは、食堂に通され、ワインと煮込み料理の供応にあずかったのである。

「主人はもう就寝のしたくをしておりますれば、今夜はこのまま失礼し、また明日ごあいさつさせていただきたい、と申しております」

むろんそれは、疲れているであろうバルドたちに余計な気遣いをさせないためである。

その証拠に、この屋敷はずいぶん大きく、大勢の人間が住んでいると思われるのに、バルドたちの前に出て来たのは身分の低い者たちばかりであった。

ベッドでの眠りは実に心地よい。

バルドはぐっすりと眠った。

5

翌朝はずいぶん早く目が覚めた。

部屋にはバルド一人である。

三人にはそれぞれ一部屋ずつが与えられたのである。

セトは軽装であるのに、騎士補任間近の従卒であると見抜いたようだ。

もっとも三人とも馬に乗っており、セトの乗る馬もなかなかに立派な馬なのであるから、目端の利く者なら、ただの従者ではないと見抜くだろう。

枕元には水差しが置いてある。

乾いた喉をうるおすと、バルドはもう一度寝床に戻り、考え事をした。

頭はすっきりとさえ渡り、思考は明敏さを取り戻している。

難しく考えることはないのだ。

勝てない相手だということは、初めからはっきりしているのだから。

ただし向こうはこちらを直ちには殺そうとしない。

そこにつけ込む隙がある。

こちらの願いは何か。

それは、真実を知る、ということである。

怪物の正体が知りたい。

怪物の狙いが知りたい。

怪物の強みと弱みが知りたい。

遺産の正体が知りたい。

それを手に入れて怪物が何をしようとしているのかを知りたい。

しかし、相手の欲しがっているものは絶対に渡してはならない。

ということは、こちらは死ぬことになる。

死んでかまわない。

生きてやり抜かねばならぬことなどないのだから。

死を選べる、ということこそが、こちらの最大の強みなのだ。

問題は、そのあとだ。

せっかく知った事柄を、どう残すか。

それが問題だ。

その知識がのちの時代の者たちの導きの光となる。

そのためには、パタラポザとの対面の際、誰かを同席させる必要がある。

問題は、パタラポザとの対面が終わり、バルドが死んだあと、その同席者がどうすれば無事に逃げられるかである。

秘密を知った者を、パタラポザはみすみす見逃しはしないだろう。

それでもなお逃げられるような者がいるだろうか。

その先は、すぐには思いつかなかった。

けれども、バルドはおのれの心身が充実してきているのを感じていた。

旅に出て体をいじめたかいがあったというべきだろう。

あせることはない。

ゆっくりと考えを煮詰めてゆけばよいのだ。

6

朝食は各自の部屋で供された。

セトは早々と自分の食事を済ませ、バルドの部屋にやってきて世話を焼いた。

当主から伝言があり、もう一晩泊まられよ、とのことだった。

夕食の席で主だった者があいさつしたいという。

バルドは承諾した。

晩餐の席に着いた屋敷側の人間は、当主のクルト・アレンダス卿のほか三名だった。

一人はクルトの奥方であるスラーサイエナである。

夫のクルトは優に七十は過ぎた老齢であるのに、スラーサイエナはまだ二十歳をいくらも越えていない。

派手な顔立ちの美人である。

目も口も大きく、顎も筋張ってきりりと引き締まった顔立ちだ。

そこにいるだけで、その周りが華やかな光彩を放つ 女性(によしよう) だ。

不思議なことに、控えめに目線を送っただけで、その目の動きや瞳がどこをみつめているかが分かる。

ほんのわずかに口元を持ち上げただけで、ああ笑っているのだなと伝わってくる。

その目も口も実に印象的で、少しの変化もこちらの目線を引きつける。

格別に扇情的なしぐさをするわけでもないのに、奥方の放つ色気にくらくらする思いがする。

そういう派手な美女なのだが、料理の中の主なものは、なんと奥方みずからの手によるものだという。

「妻は料理をするのが好きでしてな。

いやいや、お口にあいますかどうか」

その謙遜はまったく不必要だった。

奥方が手がけたという料理は、どれも素晴らしくうまい。

しかも。

何といえばいいのだろう。

温かくて柔らかいのだ。

例えばこの山鳥と山芋の煮込み。

しっかりと煮込まれていて柔らかい。

きちんと味がついているのだが、押しつけがましさはない。

とげとげしさもない。

ひどくふんわりとして、体に優しい感じがする。

カムラーの作る料理のような際だった手際というのではないが、実によい味だ。

思いやりのこもった料理なのである。

家庭的といってよいだろう。

奥方の派手な顔立ちと、この料理との落差はどうしたことだろう。

いや、そうではない、とバルドは思った。

この料理に奥方の心根は表れている。

一見派手な性格にみえるが、顔の作りというものは致し方ないものだ。

この料理に感じられる優しさと思いやりこそが、この奥方の本当の性格を表している。

奥方の外見とこの料理の味とどちらを信じるかといえば、それは料理の味でなくてはならない。

外見にまどわされてはならない。

この奥方は、実は非常に家庭的でやさしくつつましやかな気性の持ち主であるにちがいないのだ。

陪席したあとの二人は、アレンダス家に仕える騎士たちである。

ダンガ・ウーズという騎士は大柄でいかにも武張った雰囲気がある。

しかし武威はなかなかのものである。

シェーマ・イダールという騎士はほっそりしていて所作は上品である。

この男もなかなかに使うとみたが、ダンガには及ばないように思えた。

驚いたことに、こんな遠方に住んでいながら、クルトはパクラ時代のバルドについて噂を聞いたことがあるという。

この夜の食事はなかなかに愉快なものだった。

クルトの計らいでセトも同席を許されたのだが、旅のことなどをおもしろおかしく話し、食卓をにぎやかした。

それはよいのだが、バルドはひとつ気になったことがある。

騎士ダンガが奥方を見る目つきである。

それは主君の妻を見るような目つきではなかった。

肉食の獣が獲物を見るような熱がこもっていたように、バルドにはみえたのである。