軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 試練の洞窟(中編2)

5

バルドは驚きに目を見開いた。

ここは、そういう場所なのか。

あそこにおわすのは神なのか。

あれが見かけ通りのものであるとしたら。

いや、見かけのほんの何分の一かの力を持つものであれば。

ゴドンはまったくかなわない。

ここにいる六人が束になってかかっても、遠く及ばないだろう。

バルドのそんな心配をよそに、ゴドンは平然とステップを上った。

上がりきって闘技場に足を踏み入れたとたん。

ゴドンの足元から光の柱が立ち上った。

光が収まったとき。

そこには巨人となったゴドン・ザルコスがいた。

今やゴドンの身長は、対面する雷神ポール=ボーと同じほどである。

この異常な事態をいともあっさりとゴドンは受け入れた。

「わっはっはっはっは、はー。

愉快、愉快ーーー!」

大声で笑いながら、敵手に走り寄ってゆく。

どしーん、どしーん。

ゴドンの巨躯が闘技場を踏みしめるその一歩一歩は、大地に大槌を打ち込むかのようだ。

雲を突く巨人となったゴドンは、わずか八歩で雷神を射程距離に捉えた。

両手でむんずと巨大化したバトルハンマーを振り上げ、雷神の左の肩口に振り下ろす。

ゴドンの一撃は、全盛時代のバルドでも受け止められないほどの威力である。

まして巨人となったその一撃は、たとえ神々といえど受けきれないであろう。

そんなバルドの予想をあっさりと雷神はくつがえした。

無造作に左手を振り上げると、手に持った戦槌でゴドンの攻撃を受け止めてみせたのである。

すさまじい音が響き、幾筋もの雷電が乱れ飛んだ。

雷神は、恐ろしいことに、片手でゴドンの攻撃を支えきった。

同時に雷神は、右手の戦槌をゴドンの左脇腹に打ち付けた。

電光がはじけ飛び、はげしい破砕音が響いた。

なんとゴドンの鎧が大きくへこみ、傷ついているではないか。

焦げ臭い匂いがただよってくる。

おのれの鎧と体に痛手が与えられたことに、ゴドンはまったく動揺しなかった。

平然として、もう一度両手でバトルハンマーを振り上げると、初撃に勝る勢いで雷神に振り下ろしたのである。

だがこの強撃も、雷神の左手の戦槌に受け止められた。

そしてまたも雷神の右手の戦槌はゴドンの左脇を打った。

ゴドンの鎧に亀裂が走る。

中の身体にも相当のダメージが入ったはずである。

だがそれに構わず、三たびゴドンは巨大なバトルハンマーを振り上げた。

雷神はそれまで静かな表情をしていたが、ここで一転してその顔に怒りが浮かんだ。

その怒りに呼応するように、雷神が右手に持つバトルハンマーが金色の光を放った。

雷神ポール=ボーは、太陽神コーラマの叔父にあたるという。

普段は太陽神の後ろに控え、太陽神の息子神や娘神たちの活躍を静かに見守っている。

しかしひとたび怒れば、その一撃は山を砕き地を割る。

実にポール=ボーは神々の中でも最強の一角なのだ。

その雷神の怒りの一撃が、三度ゴドン・ザルコスの左脇腹を捉えた。

鎧の裂け目は大きく広がり、雷神の戦槌は、ゴドンの生身に食い込んだ。

だがゴドン・ザルコスの踏みしめた両の足は揺るがなかった。

大きく振りかぶられたゴドンのバトルハンマーは、一撃目と二撃目をしのぐ勢いで雷神に打ち付けられた。

雷神はそれを左手の戦槌で受け止めたが、止めきることはできず押し切られた。

ゴドンの渾身の迫撃は、そのまま雷神の頭部を打ち据えたのである。

時が止まったかのようである。

やがて雷神はぐらりと揺れて、後ろに倒れた。

どこかで鐘が三度鳴った。

闘技場がまぶしく発光したかと思うと、雷神の姿もゴドン・ザルコスの姿も消えた。

いや、そうではなかった。

ゴドン・ザルコスは元の大きさに戻り、闘技場に膝を突いている。

ザリアがステップを駆け上って闘技場に上がり、ゴドン・ザルコスに駆け寄った。

止める暇もなかった。

だが無事に上がれたということは、もう上がってもよいのだろう。

バルドたちもザリアの後を追った。

ゴドンは口から血を吹き出していた。

脇腹からも出血している。

「鎧を脱がせて!」

ザリアが言った。

バルドとカーズはゴドンの鎧の上半身を脱がせた。

「それでいいよ。

どいておくれでないか」

鎖かたびら姿で横たわるゴドン。

その胸の中央にザリアは右手を当て、傷ついた左脇腹に左手を当てた。

そして口の中で呪言をつぶやいた。

しばらくするとザリアの両の手に赤い光がともった。

なおも呪言は続く。

ゴドンの吐血が止まり、苦しそうな表情が和らいでいく。

なおも呪言は続く。

左脇腹の傷が、奥の方から修復されていくのが分かる。

やがて傷は治療された。

ただし、表面の裂け目と焼けただれた跡は治しきれず、そのまま残っている。

「もう大丈夫。

でもちょっと休ませて」

そう言うと、ザリアはその場で横になった。

代わりにゴドン・ザルコスがむくりと起き上がった。

いつも通りののんきな顔である。

「ややや。

鎧が壊れてしまいましたのう。

仕方ない。

壊れていない所だけ着けるとしますか」

そう言って、肩と胸と腕に鎧を着けた。

しばらくするとザリアが起き上がった。

「お待たせ。

次への扉が開いたわね」

そう言ってザリアが指さすほうを見ると、闘技場の奥に、先ほどまではなかったはずの穴が開いている。

これは、どういうことか。

おそらく、ゴドンが雷神に勝利したから開いたのではないか。

なるほど。

勝利しなくてはその先に進めないのだ。

一行は再び隊列を組んでその穴に入っていった。

8

この洞窟は緑色の光を発していた。

ぐねぐねと曲がりくねる道を一行は前に進む。

先頭を行くイエミテは、体は小さいのだが足は速い。

しぜん一行の進軍速度も速くなる。

「何か来る。

とても大勢の敵だ」

イエミテが立ち止まってそう言ったので、一同は戦闘態勢を取って待ち構えた。

前方から何かが来る。

うぞうぞと近づいて来る。

来る。

来る。

やがて敵は曲がりくねった洞窟に姿を現した。

それは手のひらほどのおぞましい生き物だった。

体の側面からは短い無数の触手のようなものが出ていて、それをうねらせ、体をよじって前進しているようだ。

緑の光に照らされているせいもあるだろうが、その体の色は毒々しい。

はい寄る速度はさほどではない。

近寄って来た敵に、カーズが斬り付けた。

すると敵はあっけなく真っ二つになり、少しけいれんして動きを止めた。

イエミテも骨剣で敵を突き刺して殺した。

たいしたのことのない敵だと安心しかけたとき、それは起こった。

そのおぞましいつぶれた肉団子のような敵たちは、前進をやめ、ふるふると震え。

そのまますうっと地面にしみ込んで消えたのである。

どこだ。

やつらはどこに消えた。

緊張感は少しも薄らいでいない。

殺気、と言い換えてもいい。

やつらはどこかに潜んでいる。

その答えはすぐに出た。

突然エングダルが振り返り、幅広の曲刀の腹でザリアの頭の上をないだ。

ばちゃんと音がして、ザリアの頭の上に落ちようとした肉団子がつぶれてはじけ飛んだ。

バルドは思わず洞窟の天井を見た。

そこには地面にしみ込んで消えた肉団子がしみ出しているではないか。

しみ出してきた肉団子どもは、ぼとぼと、ぼとぼと、と一行の頭上に降ってきた。

岩の中を移動したのだろうか。

それとも地面にしみ込んだと見せかけて、姿を消して移動したのか。

いや。

姿が見えなかろうと空中を移動したのなら、イエミテとカーズが見失うわけはない。

この二人の気配察知能力はただごとでないのだから。

となると、肉団子たちには、離れた場所に突然移動する能力がある、とみなければならない。

バルドはザリアの手を取って後退させた。

この位置には肉団子が降ってきていない。

エングダルの体には、もう何十という肉団子が張り付いていた。

しかも張り付いた箇所から肉団子は何やら得体の知れない液を出している。

その液はエングダルの頑強なからだを溶かしている。

しかしエングダルは慌てることなく、肉団子を体から引きはがしては壁にたたき付けている。

壁にたたき付けられた肉団子はそのままつぶれて死んでいく。

だがどうも、死んで飛び散る体液にも溶解液が含まれているようだ。

飛び散った体液を浴びたエングダルの体がじゅうじゅうと溶けた。

カーズとイエミテは、それを見て、飛び散る体液をもかわすようになった。

そんなものがかわしきれるのだから、この二人の回避能力は並大抵のものではない。

ゴドン・ザルコスの体にも肉団子は張り付いている。

兜や鎧に張り付いた肉団子はどうということもなく引きはがされて床に落とされ、踏みつぶされている。

だが問題は胴体部分である。

ここは鎖かたびらが露出しているのだが、肉団子の溶解液はその隙間からしみ込んでいるようで、じゅうじゅうと音を立ててゴドンの肉を焼いている。

カーズとイエミテはといえば、落ちてくる肉団子をすべてかわしてのけた。

そして肉団子を空中で切り裂いた。

地に落ちた肉団子は危険な体液をまき散らすのだが、二人はきちんとかわしている。

とはいえわずかなしぶきが多少の痛手を与えてはいるようだ。

二人は落ちてくる肉団子を切り捨ててしまうと、自分たちから離れた位置に落ちた肉団子を切り捨て、突き殺した。

だが肉団子も切られるままになってはいない。

地面で消えると、再び天井に現れ、落下をする。

けれど手の内がみえた以上は、肉団子もどきはすでにこの戦闘集団の敵ではなかった。

落ちてくる肉団子を始末すると、カーズとイエミテはゴドンとエングダルの援護に回った。

全部の肉団子を殺すまでさほどの時間はかからなかった。

幸いだったのは、肉団子の攻撃範囲が限られていたことだ。

つまりそれは地面で消えて天井で現れる、その移動範囲が限られていたということである。

バルドやザリアが下がった位置にまで出現してくるようなら、ひどく厄介なことになっていただろう。

戦闘が終わったとき、エングダルは体のあちらこちらを溶かされていて、ひどい状態だった。

それでもおそらくゲルカストの強靱な外皮だからこの程度で済んだので、鎧も着けない人間が同じ目にあっていたら、到底命はなかっただろう。

ザリアはエングダルを洞窟の床に寝かせると治療を行った。

エングダルの傷痕は癒された。

跡形もなく、とはいかない。

表面には溶けてただれた跡が残っている。

しかし内部のほうでは毒が消え、痛みも相当に薄らいでいるようだ。

そのあとザリアはゴドンの治療も行った。

やはりいくぶん溶けてただれた跡は残ったが、内部は相当に修復されたようだ。

「おおう!

見事じゃ。

ザリアばあさん、ありがとうな」

「今はばばあじゃない。

姉(あね) さんとお呼び」

くったくのないやり取りをしているが、やはりザリアには疲労があるようで、しばらく休んでから一行は進撃を再開した。

バルドはザリアに訊いた。

実に見事な力じゃのう。

精霊憑きになった者は、皆そういう癒しの力を身につけるのか、と。

「いいや、そういうわけじゃないみたいだねえ。

どういう力がつくのかは、人によるみたいだね。

あたしは優秀な薬師でまじない師だったから、こんな力を得たのじゃないかと思うよ」